成宮遥は甘やかし2
昼休みの教室に逃げ込むと唯一の友人かつ悪友である茂野辰真に声をかけられる。
中学以来の仲だが、心置きなく話せる唯一の人物だ。
「どうした? 珍しく教室に来たと思ったら、顔死んでるぞ?」
「色々あってな」
こぼれる大きなため息、憩いの場所であったはずの屋上はもうない。おそらく、次からは成宮が待ち受けている。仮病を使ってまで来たのだ、そう考えてもおかしくない。
それに、俺に付き合って単位を落とされるのは非常に面倒くさい。
辰真は気にするそぶりもなく、疲れ切っている理由が気になるようで休ませてはくれなかった。
「喧嘩って、感じじゃなさそうだな」
「ある意味、喧嘩よりキツイ」
「お、なんだなんだ?」
「はあ、お前も悪趣味な奴だ。……成宮遥に甘やかされたって言ったら信じるか?」
「はは、犬が喋ったとかの方がまだマシな嘘だぞ」
どうにも疑われている。
学校での成宮を考えれば、学校の誰もが鵜呑みにしない話だ。
辰真は突飛な話だと思っているらしく、馬鹿にするように笑っていた。
「文武両道、学校一の美少女。しかも、男子の告白は全て断る色恋には興味なさそうなクールさ。そんな高嶺の花が、不良のお前を甘やかすなんて天地がひっくり返っても無理。なに? 和也もついに成宮で妄想するような軟派な男になったん?」
「まさか」
「だよな。お前、女よりも男と喧嘩してた方が楽しそうだし」
にっと、口角を上げる辰真。物的証拠がなけりゃ、信じろというのが無理な話だった。
しかし、男に興味がなさそうな成宮がどうして俺を甘やかす?
背もたれに体を預け伸びをすると、どうやら成宮が戻ってきたようで教室が色めき立つ。
歩くだけで声援がわくとは、本当にアイドルみたいなやつだ。
さっきまでの時間は質の悪い夢だったのではないか? やはり、立場が違いすぎる。
成宮は席に着くと数人の取り巻きに囲まれた。
教室にいる限り直接のコンタクトは取ってこないだろう。そう、思っていたのだが……。
「国分君」
いつの間にか、成宮が向かいの席に座っている。辰真と馬鹿話をしていて気が付かなかった。何用かと身構えると、成宮はスマホを取り出した。
「連絡先、交換して」
「は、え?」
戸惑う俺をよそに、教室が騒がしくなったのは言うまでもない。
成宮遥という人間には全くもって調子を狂わされるらしい。




