揺れる乙女心13
顔をうずめたまま、成宮はこちらを見ることもなく言う。
好きだ、好きだとは言っていたがその相手が自分のことを想おうとしてくれていると考えたらなんて言い返していいのか咄嗟に出てこない。
ただ、なにも出来ない初心な男子でいたくないという強がりだけで抱きしめ返すと、成宮は耳まで真っ赤に染まった照れた表情で俺を見上げた。
「恋、してもいい?」
「ど、どんと来い」
「うん、どんと行く」
微かに声を上ずらせた返答が面白かったのか、成宮はおかしそうに笑う。
両想い? になったと考えていいのだろうか? 確信が持てずにいると、成宮は体を離し俺を見上げる。
「和也は私のことが好き。私は和也に恋しようとしてる」
「お、おう」
「両想いだけど、まだ両想いじゃない?」
「……わからん」
「私も」
二人ともよくわかっていなくて、互いに声を出して笑い合う。
勢いで告白しようと思ったが、そういう雰囲気でもなくなってしまった。
成宮の想いが、ちゃんと俺が好きだって思ってくれるまでは保留でいいか。
手を繋いだまま、しばらく俺と成宮は砂浜近くの階段に座って海を眺めていた。
デート帰りの電車の中、成宮は疲れたのか俺の肩に頭を預けて眠ってしまっている。
何度見ても可愛らしいその寝顔に目を奪われていると、駅に着いたらしく駅のアナウンスと共に電車のドアが開いた。
「降りるぞ」
「うん」
半分寝ぼけた顔をしている成宮を連れ、電車を降りる。
駅を出ると空はもう夕焼けに染まっていて、部活帰りの学生たちが駐輪場から自転車を走らせていた。
「んー」
色っぽい声を出しながら一つ伸びをした成宮は目が覚めたらしい。
鞄からメモ帳を取り出すと、なにかを確認し始めた。
「調味料無くなりかけてたから、買って帰ろう」
「そうだな」
何度目かわからない、スーパーへの買い出し。今日の夕飯はなんだろうか?
作ってくれる夕飯を楽しみにしながら、いつもと違う雰囲気を感じて隣を歩く成宮を何度も見ていると、視線に気づいたのか成宮が首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「そんなに私が好きなの?」
「え、まあ……」
「そう。はい」
微かに口角を上げて、成宮は手を差し出す。
「手を繋ぐ権利を贈呈」
「まじか」
「まじ」
手汗をぬぐい、成宮の手を取る。
柔らかくて、すべすべな女の子らしい小さな手。
初めて握った成宮の手は、想像以上に繊細な気がした。
「行こ」
「ああ」
二人の距離はどんどん近づいて、心も通わせ始めて。
青い春と、例年より刺激的な夏が訪れようとしていた。
二章完結しました!
明日からは三章に突入します!
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