揺れる乙女心12
爽やかな夏風になびく黒髪を抑えながら、成宮はくすり、と笑う。
思えば、成宮自身の話を聞いたことはあまりなかった。自分から話そうとはせず、聞いてほしくもなさそうにしていた気がする。
「おう」
だから、成宮が話したいと言うなら聞かないという選択肢はなかったと思う。
揺れるひまわり畑が広がる教会の丘を下りながら、海岸沿いを歩きだす。前を行く成宮は振り返ることなく語り始めた。
「ずっと、両親の言う通りに生きてきた。勉強しなさい、運動しなさい、常に優秀でいなさい。両親は二人とも優秀な大学を出て、エリート街道を歩く人で挫折なんて知らない。私もそうしないといけないんだって思ってた。でも、私は両親の期待通りに出来なくて、高校だって両親から離れたくて遠くの高校に来た」
普段、淡々と、多くを語ることのない成宮が今ばかりはなにかを吐き出すように言葉が止まらない。ずっとため込んでいのか、成宮はいつになく早口だった。
「高校に入って一人暮らしを始めても、両親の言うことがずっと脳裏に焼き付いてた。常に優秀でいなくちゃいけないって。誰かと仲良くなっちゃいけない、友達も作らないって」
「そう、か」
「だけどね、私は変わった。和也と出会って変われた。始めはお礼のつもりで和也に接してたけど、和也の優しさとか、自由さとか、私にはないものたくさん持ってるところを見ている内に、自分の思う通りに生きていいんだって思えるようになった。人との接し方とか距離感とかわからなかったから、和也へのお礼、今でもあれで良かったのかなって思ってる」
お礼の仕方は適切ではなかったのかもしれないが、そのおかげで成宮との親密になれた。
波の音が大きく聞こえる、気が付けば砂浜まで降りて来ている。
誰もいない砂浜に着いたところで、成宮はスカートを揺らしながら振り返った。
満面の笑みだった。出会った頃、クールで人との関わりを避けていた成宮からは想像もできない、優しく朗らかな、ひまわりのような笑顔を咲かせて。
「和也と出会えて、良かった」
「俺も同じだ」
「……あの、ね」
「ん?」
「私、感情の表現とか苦手だから、まだ好きかどうかわからないけど」
「うん」
「もっと、和也の傍にいたい。傍で、自分をもっと変えたい」
成宮は一歩、また一歩と近づき。
顔を隠しながら、俺に抱き付いた。
柔らかな、女の子らしい感触が全体に触れる。
俺の胸に顔をうずめ、成宮は顔を上げることなくボソッと呟いた。
「和也に恋、してもいい?」




