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揺れる乙女心11

 一学期が終わり、待ちに待った夏休みを迎える。

 夏休みに入ってからも俺と成宮の生活基盤は変わっていないどころか、共に過ごす時間が増えていた。


 以前は夕飯を一緒に食べ、毎朝起こされる間柄だったが、夏休みに入ったのもあってほぼ一日中俺の家にいる。


 一度、辰真が遊びに来たが、俺の家にいる成宮を見て「邪魔したな」と言ってすぐに去って行った。なにかしらの勘違いが発生した気がするが、もう気にしないでおく。


 ただでさえ付き合っていると勘違いされているのだ。今更なにを言っても遅い。


 季節は本格的な夏を迎え、日差しが肌に突き刺さる猛暑日。

成宮の指示で課題を早々に終わらせた二人は、期末考査の約束通り始めてのデートに出かけている。


「服、似合ってる」

「ありがと」


 余所行きの成宮の私腹を見るのは初めてだが、夏らしい白のオフショルシャツに青地のデニムスカート、頭にちょこんと乗せたカンカン帽がよく似合っている。


 電車を乗り継ぎ、人気の少ない海岸沿いの小さな駅に到着したところで電車を降りる。

 潮の香りを海風がふわりと運ぶと、成宮は被っている帽子を抑えた。


「海の匂い」

「あとで海岸沿いにも行ってみるか」

「うん」


 駅を出て、海岸に沿って伸びる道路を二人歩く。

 聞こえる蝉の声と、走り過ぎていく子供たちの笑い声。


 昔、じいちゃんが生きていた頃はあんな風に遊んでいた気がする。


 数分歩いたところで、目的の場所に着くと成宮は子供のように目を輝かせていた。


「わぁ……!」


 一面のひまわり畑が広がる、今はもう使われていない丘の上の教会。

 最近ではフォトスポットとして有名になっているのか、数組のカップルらしい男女が写真を撮っている。


 成宮は楽しそうに小走りで向日葵に駆け寄る。

 その姿はどこかのアイドルの写真集の一ページのようで、思わず見とれてしまっていた。


 ひとしきり景色を楽しんだところで、丘の上から見える水平線を二人眺めていた。


「昔は教会の中にも入れたんだけど、今はもう老朽化してて取り壊される予定らしい」

「残念。綺麗な建物なのに。……どうして、ここに?」

「じいちゃんに言われたこと、思い出してさ。いつかこの景色を見せたいと思える人がいたら連れて来いって。まあ、じいちゃんはもう数年前に亡くなったけど」


 一羽のカモメが、弧を描くように雲一つない空を飛んでいる。

 隣を見ると、成宮は優しく微笑んでいた。


「おじいさん、きっとどこかで和也を見守ってるよ」

「そう、だな」

「ねえ、和也」

「ん?」

「私も、少し昔話していい?」

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