揺れる乙女心9
学校を出て駅のほうに歩く道中に目的のクレープ屋はあった。
開店間もなくということもあり、数組の若い男女が列を作っている。
最後尾に並ぶと案内の店員さんにメニューの載った用紙を手渡された。
並んでいる間にお決めくださいとのことだ。
定番のチョコバナナやストロベリーホイップ、中には変わり種の食事系クレープもある。
シンプルにチョコホイップにするか、と即決して成宮を見るとメニュー表とにらみ合いをしていた。
「ストロベリー、メロン、バナナ……。全部、食べたい」
「いや、一個にしとけって」
「むぅ、食べたい」
「子供か。はあ、わかった。二つ選べ、一口やるから」
「ほんと? やっぱり、和也は優しい」
頬を膨らませていたかと思ったら、成宮は一瞬で笑顔を咲かせる。
ころころ表情を変える、相変わらずのマイペースっぷりだ。
まあ、成宮は女の子だしフルーツ系の二択で迷っているのだろう。
別に俺はなんの味だっていい、と思い提案したのだが……
「なんでよりによってお任せミックスなんだ」
結局決めきれなかったらしい成宮は店員さんのお任せミックスを注文したのだが、これがまさかの鬼盛りクレープで2.5人前はある。
フルーツにホイップ、チョコソースてんこ盛り。
一口あげた程度では見た目はそう変わらないであろう。
「でっけ」
「ごめん、お任せにしたせいで」
「ああ、別にいいよ。まさかこんなのが出てくるとは思わないし。一口、食べるか?」
「うん」
パクっと小さな口で成宮は巨大クレープを頬張った。
「美味いか?」
「うん。私の、一口食べる?」
「いや、いい。チョコバナナこっちにも入ってるだろうし」
意を決し、クレープを頬張ると甘さのオンパレードが口内を駆け抜けた。
甘いものは苦手ではないが、これは想像以上に重い。
近くの公園のベンチで並んでクレープを食べるという願ってもない状況なのに、巨大クレープとの 格闘に気を取られ全く楽しめなかった。
数十分ほど経ち、ようやくクレープを食べ終えたのだが昼飯は入らないほどには満腹だった。しばらく動けそうにない。天を仰いでいると、気を利かせてくれた成宮がお茶を買ってきてくれた。
「はい」
「せんきゅ」
飲むと、お茶の渋みがいい感じに甘ったるさを流し込んでくれる。
こんなにお茶が美味いと思ったことはない。
「和也」
「ん?」
「ほっぺにクリーム。取ってあげる」
成宮はすっと手を伸ばして頬についていたらしいクリームをすくい上げるとそのまま自分の口に指をもっていきペロッとなめた。
「甘い。これ、関節キスになる?」
可愛らしく成宮は首をかしげて見せる姿に心臓が飛び出そうになる。
なんでこう、こいつは一々可愛らしい仕草を恥ずかしげもなくしてくるのだろう?




