揺れる乙女心8
今週はテスト期間の為、学校は午前中のみ。
一日三教科ずつ行っていく。高校に入って以来テストなど受けたことはなく、開始時刻になっても教室にいる俺を見て試験監督の教師は目を丸くしていた。
自信はあるとは言えないが、成宮に教えられ自分なりにも頑張ったつもりだ。
目標は赤点回避、そしてその先に待つデート権利を勝ち取るためやれることをやる。
クラスに広がる沈黙。成宮の方を見ると小さくサムズアップしていた。
時計の秒針が開始時刻を差すと、試験監督の合図の声と共にペンの音が響き始めた。
お昼を知らせるチャイムが鳴ると、クラスメイト達は各々帰宅していく。
初めてのテストにがっつり体力を持っていかれ椅子にもたれていると、成宮がやって来た。
「お疲れ」
「おう」
「どうだった?」
「まあまあ、かな」
「良かった。一緒に帰る?」
「そうするか」
二人席を立つと、まだ帰っていなかったらしい辰真が珍しく声をかけてくる。
成宮が隣にいるときは話しかけてこないのにどうしたのだろうか?
「おっす」
「おう、どうした?」
「いや、実はさ。駅前のクレープの半額券もらったんだけど俺甘いもの苦手でさ。和也と成宮さんで、どうかなって」
「いいの?」
「もちろん。和也と一緒に行ってきなよ」
「ありがとう。茂野君には感謝することがたくさん」
「気にしないで、俺は和也の友達としてやってるだけっす」
辰真は照れ隠しのように笑う。
今日に限ってどうしたと首をかしげていると、辰真は俺の肩を掴んで身を寄せた。
「ここまでする意味、わかるよな?」
「さっぱりだ」
「なら説明してやる。前の礼と今回の件で俺はお前に貸しを二つ作った」
「まあ、な」
「だから、美雪ちゃんを紹介してくれないか?」
「は?」
「は? じゃないんだよ、お兄様。この前駅でお前と成宮さんが美雪ちゃんといるのを見た。可愛くなってたな。すまんが一目惚れした」
「まじか」
「まじだよ。頼む! 俺も彼女が欲しい!」
手を合わせ辰真は頼みこんでくる。
美雪を紹介、ねえ。別に俺はシスコンではないし構いやしないのだが、辰真が色々振り回される未来しか見えない。それに、あいつ性格悪いし。
……まあ、いいか。俺には関係ない。
「わかった。美雪と会えるよう、手配しておこう」
「感謝します、お兄様!」
「キモイからやめろ」
あからさまにゴマをする辰真を目を細くして見ていると、すっかり蚊帳の外になっていた成宮がひょっこりと顔をのぞかせる。
「二人でなんの話?」
「辰真が美雪に一目惚れしたから会わせろってさ」
「おい、余計なこと言うんじゃねえ! と、とりあえず半額券は渡したからな! 貸しだからな!」
そう言って逃げるように辰真は教室を出ていく。本当に愉快な奴である。
成宮が手にしているチラシを見ると開店記念らしくクレープの半額券がくっついていた。
「行くか?」
「行こ」
学校だからクールに振る舞っているが、もし成宮に尻尾がついていたらぶんぶんと振られているだろう。隠しきれないテンションの高さがあふれ出していた。




