揺れる乙女心4
美雪を加えての夕飯、メニューはサバの味噌煮だ。
バランスの取れた甘じょっぱさが口に広がる。
成宮の料理が美味しいのは知っているが、毎回のように予想を上回ってくるのはずるいと思う。初めて食べた美雪も、一口食して瞳を輝かせていた。
「成宮さん、美味しいです。毎日食べれるなんて、兄貴、いいなー」
「はいはい」
テキトーに受け流したが、実際の心中は鼻高々であった。
それは成宮も同じなのか、誇らしげに胸を張っていた。
夕飯を食べ終えると時刻は夜の九時を過ぎている。
明日も学校があるわけで、予定通り美雪を駅まで送っていくことにした。
アパートを出ると、美雪は楽しそうにスキップをしている。
「夜の散歩、楽しい!」
「あんまりはっちゃけるなよ?」
「はーい」
「ふふ、和也、お兄ちゃんって感じがする」
「そうか?」
「うん。優しくて、素敵なお兄ちゃん」
隣を歩く成宮の柔らかく微笑む姿に、思わず心臓が飛び跳ねる。
一々反則的に可愛いの本当にずるいと思うんですが、俺の心臓がもたなくなる。
いまだ言い出せない恋心を隠し成宮を見る。
俺のこと、今はどう思ってるんだろうか?
駅に着くと、美雪はぶんぶんと手を振って改札の奥へと消えていく。向こうに着いたら父親が迎えに来るらしい。またな、と小さな背中に声をかけると同時にスマホの通知音がした。
なんだ、とMINEを開くと美雪から『手放しちゃだめだよ!』と送られてきていた。余計なお世話だ、言われなくても成宮を手放すつもりはない。
美雪を送ったことだし、アパートに帰るか。
隣を見ると、成宮は眠そうに目をこすっていた。
「ううん……」
「どうした、成宮?」
「ちょっと、眠い」
「家まで歩けるか?」
「た、ぶん」
ぼそぼそと話す成宮は今にも寝てしまいそうだ。
このところ勉強詰めだったし、疲れるのも無理はないだろう。
夕飯も毎日作らせてたし、なんだか申し訳ない。
足早に家路についたのだが、成宮はもう限界だったようだ。
「かじゅや、ねみゅい」
「もう少しだから、耐えてくれ」
「うにゅ」
眠そうな成宮はめちゃくちゃ可愛いが、ここで手を出したら人として終わる。
ふらふら歩く成宮を支えながらどうにかアパートに着いたのだが、自室に戻る頃には眠ってしまったらしい。
起こそうと思ったが、心地よさそうに寝ているのを邪魔するのもかわいそうだ。
静かにソファにおいて、布団をかけたのだが問題が一つ。
起こさないのは起こさないで、俺の家に泊まるってことじゃないのか?




