揺れる乙女心3
美雪はもう、止まらない。可愛らしく微笑み興味津々な様子で後方に控える成宮を覗き込んでいる。終わった。妹に知られたとなれば秒で家族に伝わることは間違いない。
動きは俊敏だし、美雪は高校でも写真部に入るほどのゴシップ好き。
油断すれば一瞬で証拠を押さえられる。
どうしたものかと一人額に冷や汗を浮かべていたのだが、どんな時でもマイペースたる成宮はすっと俺の前に出て美雪に手を伸ばしていた。
「はじめまして、妹さん。和也君を甘やかしている者です」
ふふん、と鼻を鳴らし成宮は自慢げに言う。
曲解と誤解が同時に訪れた気がした。
美雪を向かいに座らせ、テーブルにつく。
顔を俯かせる俺とは対照的に、隣に座る成宮は目をキッラキラさせていた。
「それで? 甘やかされてるとはどういうことかな、兄貴?」
「いや、まあ。色々……」
「色々、ねえ。成宮さん、でしたよね? 率直に聞きますけど、兄貴の彼女さんですか?」
「違う」
「違う。ほぉー……」
さすがはゴシップ好きの美雪、ずけずけと探索してきやがる。
勝手になにかを察した様子の妹は、机の下で俺の足を蹴った。
「付き合ってはいないけど、家には来る程度の間柄。成宮さん、他には何を?」
「夕飯を一緒に食べたり、毎朝起こして一緒に学校に行ったりする」
「付き合ってるじゃないですか」
「まだ付き合ってない」
「ま、だ。へー」
「もういいだろ、そこら辺にしとけ」
「えー、ここからが本番なのになあ。まあ、いいや。詳しいことは後で聞くよ。というわけで成宮さん、連絡先交換しましょ?」
どこからか取り出したスマホを手に、有無を言わせる間もなく美雪は成宮と連絡先を交換していた。面倒ごとがまた一つ増えた気がする。
連絡先を交換した美雪は満足したのか、息を吐く暇もなく帰ると言い出した。
二人のこと邪魔しちゃいけないし、とのことだが余計なところで気を遣わんでほしい。
駅まで送って行こうとすると、成宮が美雪を引きとめた。
「夕飯、食べて行かない?」
「いいんですか!? じゃ、お言葉に甘えて!」
帰ると言っていたくせに、変わり身の早い妹である。気づけば、満面の笑みを浮かべて食卓についていた。
「和也も座ってて。すぐ出来るから」
「助かる」
言われた通り食卓に座ると、気味の悪い笑顔を浮かべた美雪が小声で話しかけてきた。
「兄貴は好きなんでしょ?」
「は、はあ?」
「隠さんでもわかるよ。女に興味なさそうにしてたのになあ」
「うるせ」
「でも、良かったね」
「なにが?」
「なにって、成宮さん……。あ、ご飯できたみたい! 運ぶの、手伝いまーす!」
話を途中で切り上げると、美雪はすたすたと成宮の方へ行ってしまう。
まったく、調子のいいやつだ。
あいつ、なにを言いかけたのだろうか?
まあ、気にするだけ無駄、か。




