成宮遥は甘やかし12
成宮を後方に下がらせ、前に出る。
お姫様さえ取り戻してしまえば、あとはこっちのもんだ。
矢頭の取り巻きたちは明らかな形勢逆転にひるんだのか、後ずさりする。
「相手は一人だぞ! 僕の顔を傷つけた奴だ、ただで済ますな! 金はいくらでも払う、さっさとやっちまえぇ!!」
腫れた頬をさすり矢頭が叫ぶ。自分では何もできない、みじめな奴だ。
金という言葉に刺激されたのか、取り巻きは血相変えて俺に向かってくる。
いい度胸だ、もう一度喧嘩屋の名をお前らに刻んでやる。
「全員まとめて、返り討ちにしてやるよ!」
喧嘩に明け暮れ、日々誰かと殴り合っていた中学時代。
高校に入ってからは喧嘩屋という名が知れたせいか、顔を見ただけで相手は逃げて行った。喧嘩をする理由は特になかった。自分勝手な優越感に浸りたかんのかもしれない。
誰かのために喧嘩するなんて、初めてだった。
しかも、守るために。
体の痛みは高揚感で感じない。むしろ、軽く感じた。
襲い来る不良共を一人、また一人となぎ倒していく。
こんな姿、成宮に嫌われるだろうか? だったら、困るな。
あいつの作る夕飯を食べたいし、ゲームをする約束だってした。
知りたいことだってたくさんある。夕飯のお礼に誕生日くらいに祝ってやらないと。
もっと成宮と一緒に、色んな事をしたい。
――そっか、俺。
成宮のこと、好き、なんだな。
「うおらぁぁぁぁ!!」
最後の一人を殴り倒し、一歩一歩、震える矢頭に向かっていく。腰が抜けてしまっているのか、立ち上がれないようで矢頭は後ろずさりしながら壁にぶつかった。
「か、金ならやる! 女だってあきらめる! だから見逃してくれ!」
「辰真の話だと、あんた金持ちのボンボンらしいな。金に物言わせて他人を征服するのは楽しかったか? でも、今回は相手が悪かったな」
矢頭を見下しながら、握った拳を壁に打ち付けた。
「二度と俺の女に、手、出すんじゃねえ」
「は、はひぃ……」
気の抜けるような返事をして、気絶したのか矢頭はそれ以上何も言わなかった。
成宮に肩を抱えられ倉庫を出ると、水平線に太陽が沈み始めている。
海辺の公園まで歩くと成宮は俺をベンチに座らせた。
今頃になって、全身が痛い。
向かいに立つ成宮が心配そうに俺を見ていた。
「痛くない?」
「なんてことねえ。成宮は大丈夫か?」
「大丈夫。……ごめん、私のせいで」
夕映えを背にして、成宮が声を押し殺し涙をこぼす。
初めて会った時も、泣いてたっけ。相変わらず、上手い言葉は見つからない。
でも、今は何もできないわけじゃない。
立ち上がり、成宮を抱き寄せた。
「気にすんな。成宮が無事ならそれでいい」
「あり、がと」
優しく頭を撫でる。
成宮は安心したのか、大きな声で泣いていた。
夕陽が沈んだ頃には成宮も落ち着いたのか、目元を真っ赤にしながら一緒に家路についている。好きだと自覚してしまったせいか、改めて意識してしまうと隣を歩く成宮がとてつもなく可愛く見える。
ちらちら見ていると、成宮が不意にこちらを見た。
「一つだけ聞いていい?」
「なんだ?」
「さっき、俺の女に手、出すなって言ったよね? もしかして、私のこと?」
「は、はあ? そ、そんなわけないだろ!?」
「照れてる」
「照れてねえし」
「照れてるよ」
強がっているのが面白かったのか、成宮は声を出して笑う。
一緒にいる時間が増える度、成宮は笑うことが増えた気がする。
この笑顔を見れるのは俺だけって思ったら、誇らしかった。
「ねえ、和也。私のこと、遥って呼んで。和也には、名前で呼ばれたい」
「わかった。は、遥」
「えへへ、また照れてる」
「悪いか」
「ううん。さ、早く帰ろ、帰って、一緒にご飯食べよ!」
俺の手を引いて成宮は駆けだす。
きっと、帰ったら甘やかされるのだろう。まあ、今日ばかりは甘やかされるのも悪くない。
いつか、振り向いてもらえるように。
俺を好きだと言ってもらえるように。
少しくらい、努力しますかね。
一章完結しました!
明日からは二章に突入します!
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