成宮遥は甘やかし11
土日を控えた金曜日。クラスメイト達は週末の安息感もあって浮足立っているらしい。
曜日なんて気にしたこともなかったが、成宮と出会ってからは意識するようになった。
スーパーの特売日とか、バラエティがどの日にやっているとか。
俺の生活はすっかり成宮を中心に回っている。
最初こそただ俺を甘やかしたいだけの変な奴だと思っていたが、気は使ってくれるし、人一倍頑張り屋だし。成宮遥という人物の株が俺の中でどんどん上がっていることに気づく。
「もしかして、俺、成宮が好きなのか?」
放課後の教室で、一人、呟く。恋愛感情がどうこうは、まだわからない。
それは向こうも同じだと思う、あいつはお礼で世話を焼いてくれているだけで好意はないと言っていた。
俺のことなんて甘やかしたいだけで好きになるわけ、ないよな。
「遅いな」
職員室にプリントを提出してくると言った成宮だが、そんなに時間がかかるだろうか?
かれこれ一時間近く教室で待っているが、戻ってこないしMINEにも連絡はこない。
担任とでも話しているのだろうか、とりあえずメッセージを送って……。
「和也!」
スマホを閉じたところで、辰真が息を切らして教室に駆け込んでくる。
何事かと歩み寄ったところで、辰真は焦った様子で声を荒げた。
「成宮が、矢頭先輩に連れ去られたとこを見たって奴がいる!」
それがなにをしているのか、理解できないほど俺はバカではなかった。
辰真と共に急いで学校を飛び出す。目撃情報があったのは、今は使われていない町はずれの工場地帯。成宮は矢頭と数人の男に連れられていたらしい。
「俺は工場地帯を探す。すまないが、情報をもっと集めてくれ」
「お安い御用だぜ、友人」
「ありがとな」
「気にすんな」
辰真に情報収集を任せ、走り出す。体力はあると思ったが、そうでもないらしい。真面目に体育受けておけばよかった。
でも、息が切れようが、足がちぎれようが構わない。
今は、一刻でも早く成宮のところへ。
成宮は怖がりで我慢しちまう、人一倍頑張り屋な女の子。
待ってろ、もう一度俺がお前を助け出す。
夕暮れの工場地帯の、倉庫。
辰真が送ってきたMINEには矢頭がこれまで行ってきた悪行の数々が書かれている。女癖が悪いとは聞いていたが、廃工場に女を連れ込んではそういう行為をしていたなんて。
倉庫に入ると矢頭が数人の男を連れ、成宮を拘束していた。
「和也……!」
俺に気づいたのか、成宮は少し安堵した様子で叫ぶ。
制服も顔にも泥がついていて、乱雑に連れ去った形跡が見えた。
「おや、意外と早かったね」
「矢頭、てめえ!!」
にたにた笑う矢頭に怒りが頂点に達している俺は脇目もふらず突撃するが、寸でのところで足を止めた。いや、止めるしかなかった。矢頭が成宮にナイフを突きつけているのが視界に入ったから。
「まったく、これからお楽しみってところなのによぉ。遥のこと傷つけたくないだろう? そこでおとなしく殴られてればいいんだ。おい、やれ」
矢頭の合図を受け、後方に待機していた数人の男たちが俺に前に出る。
どいつもこいつも、前に喧嘩で負かした奴らばかり。
矢頭に雇われたのかそそのかされているのかは知らないが、いい仕返しということだろう。反撃は出来ない、防戦一方。もう、殴られるだけのサンドバッグ状態だった。
口内は血の味がするし、全身が痛い。
こりゃ、結構きついわ。
「なんで反撃しないの!?」
殴られ続ける俺に、成宮が泣きながら叫ぶ。初めて聞く、大声だ。
自分だって怖いはずなのに心配してくれるなんて、ホント、優しいな。
ふらふらと立ち上がる、まだ、倒れるわけにはいかない。
「負けるわけにはいかねえ!」
「くくく、傑作だよ、君。ほら、もっと殴ってやれ。どうだい、遥? あんなヤンキーより、僕といた方がましだろ?」
気味の悪い笑みを浮かべ、矢頭は成宮に迫る。
だが、成宮はきっと目を細めると、思いっきり矢頭を引っ叩いた。
「いや、絶対にいや! 私は和也といたい!」
「殴った? 今、僕を殴った? くく、ははは、僕の美しい顔を、よくも殴ってくれたなあ!!」
思いもしない成宮の行動に完全にキレてしまっている矢頭はナイフを振りかざす。
成宮、お前の勇気、受け取った。
――今、助けてやる。
「ひげふっ!?」
拳を振りかざすと、鈍い音を立て矢頭が吹っ飛んでいく。
呆気に取られている成宮を抱きかかえ、にっと笑って見せた。
「待たせて悪い、大丈夫か?」
「うん」
「そうか。なら、後ろに下がっててくれ。申し訳ないが今から見せる俺はいつもの俺じゃねえ。不良としての俺だ。成宮を傷つけた奴らを、許せねえからな!」
ぼきぼき、と拳を鳴らす。
お前ら、病院に行く準備は良いか?
「反撃、開始だ」




