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成宮遥は甘やかし9

 学校が終わり、下校時間。隣には当たり前のように成宮がいる。同じアパートに住んでいるので当然ではあるのだが、この勢いだと俺の部屋に来ることはほぼ間違いない。


 家に来ること自体はもういいが、毎日夕飯を作られていたら掴まれかけている胃袋を完全に掌握される。そうなれば、もう俺は成宮に逆らえない。


 どうにか夕飯を作らせることは避けたい。適当な理由をつけて帰ってもらおう。


「いただきます!」


 前言撤回、気づけば成宮と一緒に食卓を囲んでいる自分がいる。

 テーブルに並ぶ、とんかつと山盛りキャベツ、みそ汁。年頃男子には嬉しすぎるメニューだった。


 さくりとした衣に、下味の付いた肉の油のうまみが広がる。

 ソースはオリジナルのようで、果物の甘味が口内に広がった。


「くぅ、やっぱうめえ」

「嬉しい。これから、夕飯は一緒に食べよ?」


 胃袋は、もう掴まれていたらしい。

 首をかしげる成宮に、俺はすぐさま頷いていた。


 夕飯を食べ終え、二人でテレビを見ていた。最近人気のお笑い芸人たちのトークバラエティに成宮はくすくす笑っている。


 特段バラエティが好きなわけではないが、隣で誰かが楽しそうにしていると不思議と気分がよくなるもので、一人で見るより面白く見えた。


「成宮はお笑い番組が好きなのか?」

「うん、勉強の合間に一人で見てる。今は、和也と見てるから楽しさ二倍」

「そ、そうか」

「あ、照れてる」

「照れてねえわ」


 強がってみるも無駄なようで、成宮は悪戯っぽく笑いながら頬を突いてくる。やり返そうと思ったが成宮に触れるのはまだ気恥ずかしく、成宮の気が済むまでやり過ごすことにしたのだが、お気に召さなかったようで頬を膨らませてしまった。


「むぅ、反撃しないの、つまらない」


 ぷい、と成宮は顔を背けてしまう。

 どうすれば良かったんだ、と困惑した俺は別の角度から成宮の機嫌を取ることにした。


「げ、ゲームしないか?」

「ゲーム?」

「そう、ゲーム。やったことくらい、あるだろ?」

「ない」

「え?」

「ゲームは勉強に必要ないから、やったことない」


 勉強に必要ないって、成宮の意思でそうしていたのだろうか? それとも両親の意思か? 真相を聞こうにも、成宮は口を真一文字に結んでいる。


 話すつもりはない、って感じか。俺を甘やかしたい理由をもそうだが、成宮には秘密が多い気がする。関係を深めれば話してくれるのだろうか? まだ、わからない。


 わからないが、今を二人で楽しむことは出来る。


「じゃあ、一緒にやらないか?」

「いいの?」

「おう。レースゲームでいいか? 操作方法は、ちゃんと教えてやるから」

「うん!」


 瞳を輝かせる成宮は子供みたいで、ゲーム機のスイッチを入れると興味津々にコントローラーを握りしめている。対戦モードを選び、基本の操作を教えたところでゲームを始めたのだが、成宮は想像以上にてんやわんやしていた。


「ど、どう走ればいいの?」

「×ボタンを押せば走る」

「ば、×ってどこ?」

「えっと、ここだ」

「え、ええ、どれ?」


 一目でパニックとわかるくらい、成宮は体を激しく動かし悪戦苦闘している。

 その後、何回戦もゲームを続けたが成宮が勝利することはなかった。


「悔しい」

「まあ、初めてだったし。仕方ないだろ」

「そう、だけど。ねえ、またやってもいい?」

「勿論、夕飯を作ってもらってるんだ。ゲームくらい、いつでも付き合うよ」

「ほんと? えへへ、ありがと」


 機嫌を取り戻したのか、成宮はおかしそうにまた笑った。

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