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プロローグ

 帰り道、クラスメイトが不良に絡まれている現場を目撃した。

 成宮遥という文武両道で大人っぽい雰囲気をまとう学校一の美少女。


 その美貌から告白されることも多いらしいが、今のところ誰も付き合うには至っていない。

 男や色恋に興味がないのか、クールな性格も相まって「冷姫」と呼ばれている。


 不良のナンパなどものともせず気丈に突っぱねると思っていた。

 だが、目の前で絡まれている冷姫様は微かに声を震わせ泣いていた。


「泣いてないでさ、さっさと遊び行こうぜ?」

「い、や……」


 手首を掴まれ、成宮は完全に委縮してしまっている。

 周囲の人間は見て見ぬふりで助けようともしない。


 ただのクラスメイト。

 話したこともないが、泣いている女を放っておけるほど俺は落ちぶれていなかった。


「さっさとどっか行け」

「は? 可愛い女の前でいきがってんじゃ……、って、西高の喧嘩屋!? やべえ、殺される!」


 俺を視認した途端、男たちは尻尾をまいて逃げていく。

 自分で言うのもなんだが、この辺りでは喧嘩屋として有名な不良だ。

 

「大丈夫か?」


 膝を抱える成宮の顔を覗き込むと、目元が赤くなっている。よほど怖かったらしい。無理もないか、冷姫といえど女の子。不良に絡まれて普段通り振る舞えるわけもない。


「駅までは送ってやる。ほら、拭いとけ」


 駅前でもらったティッシュを差し出すと成宮は受け取って目元を拭く。


「ありがとう。国分君」


 名前を知られていたことに驚きつつ、こちらを見上げる成宮はどこかのモデルか、アイドルか。

 さらりとした長い黒髪に長いまつ毛で飾られた青の瞳とバランスの取れたボディラインは、誰が見ても美少女であることを証明していた。


 上目遣いの可愛さに、思わず目線をそらしてしまう。


「気にすんな」

「ううん、本当にありがとう」


 こういう時、上手いことを言えればよかったのだろうが、気前のいいセリフなんて見つからない。

 出るのはぶっきらぼうな言葉だけ。


「次は気をつけろよ」

「うん」


 成宮が落ち着くのを待ち、一緒に駅に向かう。

 最初で最後、成宮と話すことは今後ないと思っていた。

 住む世界が違う。不良の俺と学校一の美少女では釣り合いが取れない。


 そう思っていたのに、翌日から俺は成宮に甘やかされることになる。

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