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龍の墜落 世界の反応

皇城 南麗宮


「・・・宣言の受諾を通達しました。我々はこれにて戦闘を終了します。貴方方も一切の武装を解除して頂き、我々の指示に従って頂きます」


皇帝の寝室に入り、その場にいた近衛兵2人の拘束と、皇帝の遺体の確認を行っていた大野たちは、サヴィーアとシトスに今後について述べる。


「・・・」


返り血が大量に付着した皇女の衣装、首を刺された皇帝の遺体。大野たち自衛隊員はここで何があったのかを悟る。


「シトス様!」


シトスに率いられ南麗宮の捜索を行っていた兵士たちが合流して来た。


「お前たち、良くやった。戦争は終わりだ」


シトスは彼らにクーデタの成功を告げる。


「では、我々はもうニホンと戦わなくて良いのですか!?」


「ああ!」


元軍事大臣のその言葉に、クーデタに参加した兵士は叫び、抱き合い、喜びを分かち合う。


〜〜〜〜〜


元老院 大議事堂


「皇帝陛下が討ち取られ、サヴィーア殿下が後継を宣言された後に、降伏勧告の受諾を宣言なされた」


皇帝を追って行ったクーデタ軍の兵士たちから、元老院の制圧を行っていた兵士たちの“貝”に連絡が入る。その一報にほっとした表情をあらわす兵士たち。日米の隊員たちも喜びを顔に出していた。


「・・・ばかな!」


伝えられた一報に第二皇子ズサルは立ち上がる。


「その宣言は無効だ! 私こそが正統な皇位継承者だぞ!」


さらに皇太子ルシムも立ち上がり、サヴィーアの決定に異を唱えた。


「ルシム殿下とズサル殿下、貴方方の皇位継承権を暫定政府の名において剥奪致します。つきましては御二人の身柄は“ドルシャルケン監獄”に護送させて頂きます」


「なんだと!? そんなことが許される訳が!」


騒ぐ皇子、騒然とする大議事堂。直後、タヴァナー中尉は、再び銃を天井に向かって2発撃った。響き渡る銃声に大議事堂は静まり返る。


「他の議員・閣僚の方々もこのまま軟禁させて頂く! 貴方方の行く末については暫定政府と日本政府の決定を待ちます」


首都から脱走され、万が一にも身1つで大なり小なりどこかで反抗勢力でも興されてはたまらない。日米の隊員たちは警戒の目を強める。


「ついに他国の足下に下るのか・・・、それも辺境国家の足下に・・・!」


宰相イルタは力無くつぶやく。彼は国の行く末を案じていた。

その後、皇帝に次いで重要な確保目標であった皇子2人の身柄が、首都北西部のドルシャルケン監獄へと移された。

また、その場にいた閣僚を含む元老院議員たちはその全員が、皇城の来賓滞在スペースである「西迎苑」へとその身柄を移される。

彼らはそのまま、日本政府の審判を待つこととなった。


〜〜〜〜〜


「あかぎ」 戦闘指揮所(CDC)


上陸部隊司令の秋山一佐を介して、旗艦「あかぎ」の元へ“共同宣言受諾”の知らせが届いていた。


「クーデタは成功! 皇帝は逝去されたが、代わりに国家元首の座に就いたサヴィーア殿下の宣言により、共同宣言は受諾された!」


船務士 望月が上陸部隊より伝えられた内容を報告する。


「諸君、この戦争は我々の勝利だ!」


艦内にアナウンスされた長谷川の言葉に、隊員たちはわき上がる。

ガッツポーズを天に突き上げる者。ハイタッチをしあう者。抱き合い、喜びを分かち合う者。皆それぞれのやり方で喜びを表現していた。


「・・・」


意気揚々とする戦闘指揮所(CDC)。その傍らで長谷川司令は、彼らの様子を見ながらある考え事をしていた。


目標となった元老院と皇城。これらの重要施設の制圧・確保を現地民にクーデタとして行わせ、彼らの手で全てが完了した後に、漁夫の利的にこれら施設に突入して占拠する。結果として、皇族貴族の当主、閣僚、そして帝国の皇子からなる214名の元老院議員、すなわち帝国の首脳を元老院ごと一網打尽にすることが出来たし、上陸部隊による陽動作戦も自分たちだけでなく、クーデタを起こす彼らにとってもかなりの効果を上げた。

皇城の制圧こそ日米軍が行ったが、ほぼ護衛兵力がもぬけの殻であった為、それもほとんど障害も無く終えることが出来た。さらに言えば、結局、逃走した皇帝を討ち取ったのも現地の人間である。

さらに、この首都上陸作戦においては、いままで出ていなかった戦死者を出してしまうことを覚悟していたが、その不安とは裏腹に、ついに戦死者は0のまま戦争を終えることが出来た。

もし当初の予定のまま作戦を行っていたら、これほどの戦果を上げることが出来ただろうか。


(鈴木さんはここまでの筋書きをたてていたのだろうか・・・?)


遠く離れた基地から全てを見透かした様な采配。初めは敵国人に作戦日程を教えた鈴木を責めたが、結果として最良の形で作戦を終えることが出来た。長谷川は鈴木との指揮官としての経験と力の差を感じていた。


「俺も、まだまだだなぁ〜・・・」


自嘲しながら、長谷川はつぶやく。


その後、追加の隊員、重機や救急車輌、衛生科隊員、医官からなる上陸部隊“第2陣”がLCACに乗せられて首都の海浜に到着した。彼らは戦死者の埋葬、負傷者の治療などの“戦争の後始末”に当たることになる。


〜〜〜〜〜


シオン自衛隊/日本軍基地


基地司令である鈴木海将補の部屋に、幹部たちが集まっていた。


「日米合同遊撃群より連絡! 首都の占拠、並びに要人の確保に成功したとのこと! またクーデタも成功し、国家元首の座に就いたサヴィーア=イリアム暫定政府代表の名において共同宣言受諾が公布されました!」


「おお・・・!」


幹部の1人が戦勝報告を述べる。それを聞いた幹部たちは喜びを顔に出す。


「遊撃群に祝電を送って! また、直ちに防衛省へ報告を!」


鈴木の命令より、戦勝報告が日本政府へと届けられた。


〜〜〜〜〜


首都クステファイ 市街地


カルフニルムド通りから銃声が止んだ。身を潜めていた住民たちは恐る恐る窓から外を見る。


「一体どうなったのだろうか・・・?」


上陸した敵軍が突如その歩みを止めた。緑色とやや茶色がかったまだら模様の服を着ている敵国の兵士たちは、なにやら慌ただしく動いているように見えた。




中心街 宮前広場


「これより、アルティーア帝国暫定政府による緊急発表を行う!」


壇上に立つクーデタ軍兵士の声が「増幅魔法」を用いるための魔法道具である「声響貝」により、通常の何倍もの大きさで広場に響き渡る。緊急発表の知らせを聞きつけ、人波でごった返す宮前広場には、中心街に住む貴族たちだけではなく平民たちも集まっていた。また、その中には当然「世界魔法逓信社」クステファイ支部の記者たちも紛れこんでいた。


そして、この国の今後を決定付ける発表が、壇上の兵士の口より語られ始める。


伝えられたのは“皇帝の死”、そしてその代わりに国家元首の座についた皇女殿下の決断により、日本国より提示された文書を受け入れるという“終戦宣言”。


はっきりと“負けた”と発表された訳ではない。しかし、逓信社によって報道された数々の敗戦、帝国軍の全滅、首都への敵軍上陸と、この1ヶ月半の間に起こった全ての出来事、そして今回の発表は、国民の心に“敗戦”の2文字を刻み込むのに、十分過ぎる衝撃を残す。


膝をついてうつむく者、泣き出す者、力なく座り込む者、首都市民は悲しみと不安に暮れていた。


そんな中で、1人違った理由で涙を流す男がいた。


(よかった・・・、サヴィーア! 無事だったんだな! 俺はもう心配で・・・)


謹慎中だった帝国軍佐官のゴルタ=カーティリッジは、日本軍の首都上陸のために監視の衛兵がいなくなった自宅から出て来ていた。

彼女に終戦を託した日から、彼はそのことについて夜な夜なうなされていた。まだ歳20にも満たない恋人の双肩に、“国を救う”というこの上ない重圧を与えてしまったことを悔いていたのだ。




この日、同時に「共同宣言」の内容も公開され、全ては世界魔法逓信社により直ちに発信された。

七龍国家・アルティーア帝国の敗戦・・・

この大事件は世界中に瞬く間に知れ渡っていくことになる。


〜〜〜〜〜


アルティーア帝国属国 トミノ王国 首都ペイズ


「アルティーア帝国がニホン国に負けた! 帝国の支配が終わったぞ!」


各属領・属国では、帝国敗戦の一報に被支配民たちが沸き上がっていた。




首都ペイズ 王の城


「これで我が国の屈辱の歴史に終止符が打たれたな!」


トミノ王国国王ヴァシュサルタ1世は喜々として述べる。


「左様! 国を挙げて祝杯を上げましょうぞ!」


王国宰相フーレイは顔をほころばせつつ、王の言葉を拝聴する。国王と国の重鎮たちは、長きに渡って帝国の傀儡としての存在だったトミノ王族と王国政府の地位が回復されたことを喜んでいた。


「ロムネア=サラミックの墓前にも、この報告を致せ!」


「はっ! 直ちに部下を参らせます!」


王の命令を受けた宰相は、軽やかな足取りで王の部屋を退出する。




首都郊外


帝国の配下に抑えられていた間は、国民の誰もが足を運ぶことを許されなかった女傑ロムネア=サラミックの墓。トミノ王国の独立の為に民を率いて、アルティーア帝国の圧倒的な力の前に散っていった彼女の墓前には、今、国民たちが集結していた。


「トミノ王国、万歳!!」


国の独立を喜ぶ国民たち。自由を祝う宴は今日も明日も明後日も続く。

“日本”という国の名は帝国の支配に苦しめられていた彼らの記憶に深く刻まれることになる。


〜〜〜〜〜


ショーテーリア=サン帝国 首都ヨーク=アーデン


「やはり墜ちたか・・・」


国の首脳が集う会議室にて、皇帝セルティウス=ミサル=アントニスは逓信社の号外紙を見てつぶやく。アルティーア帝国敗戦の知らせに、この国でも大騒ぎになっていた。


「出兵は避けて正解でしたな。まさかここまで早くアルティーア本土にニホン軍が上陸するとは」


「左様。本来、我が国とアルティーア帝国の軍事力はほぼ互角。それを2ヶ月足らずで滅したニホンとの戦は避けたいところ・・・」


宰相コンティス=アルヴェオリスと外務卿ハドリス=ムーコウスは、日本との衝突を回避したことに安堵する。


「ニホン国は今後どのように動くのでしょうか?」


「この国にも彼の国の魔の手が伸びる可能性は!?」


軍事卿オクタヴィアス=クローヌスと財務卿ホルテウス=トーヌスは今後の日本の動向を不安視していた。


「彼の国の最高法規として位置づけられている“憲法”には、“侵略戦争の放棄”が明確に記載されていますし、元々戦端を開いたのはアルティーアの方です」


外務卿ハドリスは日本に潜入していた密偵が調べていた内容について述べる。


「しかしそれが“法”である以上、改正される可能性があるのでは・・・?」


軍事卿オクタヴィアスは、日本の指針が変わってしまう可能性を示唆する。


「・・・とにかく、様子を見ることにしよう」


皇帝セルティウスはさらなる静観を決める。


「やはり今回の事実を見るに、大陸東部へ出兵してニホンと対峙するのは得策とは言えません。彼の国の情報をさらに集めて、時期を見てニホンとの公式な接触を図るべきです」


「・・・うむ!」


宰相コンティスの進言に皇帝セルティウスはうなずく。その後、会議の決定事項としてニホンへの将来的な使節派遣が決定された。


〜〜〜〜〜


クロスネルヤード帝国 首都リチアンドブルク 皇宮 皇帝の執務室


「陛下・・・」


クロスネルヤード帝国皇帝ファスタ=エド=アングレム/ファスタ3世の部屋へ、宰相ヴィルヘン=リンフォイドが入室していた。


「アルティーア帝国がニホン国に対して降伏しました」


宰相ヴィルヘンは今や世界を騒がせているその事件について報告する。


「10年振り、2匹目の龍の墜落か。また列強が入れ替わったな・・・」


皇帝ファスタ3世は、どこか影のある雰囲気を漂わせながらその報告を聞く。


「100年に渡り、世界を支配し不動の地位に就いていた7列強がここ10年でこうも不安定では・・・」


宰相ヴィルヘンは相次いだ列強の没落が、列強たる自国へ与え得る影響について心配していた。


「他国がどう移り変わろうと、我が国と民が平穏であればそれで良い・・・」


「・・・はっ! また新たな報告が入り次第お伝え致します」


皇帝の民に対する慈愛の言葉を拝聴した後、宰相ヴィルヘンは執務室を退室する。


(世界は・・・何処へ向かって往くのだろうねぇ・・・)


1人になった執務室で皇帝ファスタは物思いにふけっていた。


〜〜〜〜〜


日本国 東京 首相官邸


「シオン基地より作戦成功の知らせです! 戦死者は無しとのこと」


防衛大臣 安中は受話器を下しながら、セーレンより送られて来た報告を述べる。


「上陸作戦と同時に発生したクーデタにより皇帝は逝去。代わりに国家元首の座に就いた皇女殿下により、共同宣言受諾が宣言されたようです。政府要人の身柄は全員の確保に成功しています」


安中は報告の詳細を伝える。


「これで、ようやく1つ肩の荷が下りましたね」


内閣官房長官 春日は終戦に安堵していた。


「大変なのはこれからも同じでしょう。帝国の内政を整え、また戦時中に滞っていた西方の国々、特に列強との外交交渉には力を入れねばなりません」


外務大臣 峰岸は今後の課題を述べる。


「それに駐日大使と約束を交わしたアメリカ合衆国の建国も行わなければ」


副総理/財務大臣の浅野はさらなる課題を述べる。


「米大使館との例の交渉はどうなっていますか?」


首相 泉川は安中にアメリカとの間で行っていた秘密交渉の成果を尋ねる。


「快く承諾してもらえましたよ・・・。どちらにしても、アメリカがこの世界で成り立ち、自衛していくためには、我が国による経済援助と軍事品提供が必須ですからね・・・」


安中はほほえみながら、その結果を伝える。


この日、記者会見で伝えられた日本=アルティーア戦争勝利の発表は瞬く間に日本国内を駆け巡ることになる。


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