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商人

明けましておめでとうございます。導入としてもう1話追加です。

日本の「転移」から3ヶ月ほどが経過し、ノーザロイアの残りの4カ国との国交開設も成功し、食糧輸入が増えるに連れて配給制も次第に解除されていった。そして国交を結んだ国々からこの世界に関する様々な情報が入ってきた。


やはり大方の予想通り、この世界の平均的な技術水準は元の世界の中世ないし近世レベルであるようだ。


大まかな地理についての情報も入ってきた。ノーザロイア島の南側、日本から見て南西側に広がる海は極東洋と呼ばれ、大小様々な28カ国の島国が存在し、その全てがロバーニア王国を盟主として「極東海洋諸国連合」という多国間相互軍事同盟を組んでいる。極東洋をさらに西へ進んだ先にウィレニア大陸という大陸が存在する。


そしてこの世界にも元の世界と同じように、世界を牛耳る列強国が存在するらしい。国力・軍事力において他の無数の国々を突き放しているその7大国は、龍になぞらえて「七龍」と総称されている。11月15日、日本政府はその中の一国で、日本からはもっとも近くにあるウィレニア大陸東側のアルティーア帝国に使節を派遣した。


石油資源については、夢幻諸島にて簡易的なユニットポンプや掘削船「ちきゅう」による試験的採掘が始まっている。また国内では炭鉱の再開発が行われ、国内の発電は原子力と石炭によってまかなわれるようになっていた。国内の炭鉱がかつて次々閉山されたのは、海外から入ってくる安い石炭におされたためで枯渇したからではないため、埋蔵量だけなら現在も国内にそれなりの量が眠っていると言われている。


また異世界側でも食糧輸出の対価として日本から入ってくる鮮やかな反物、陶器、漆器、ガラス細工などの工芸品や衣類、化粧品、軽工業品などの工業製品は王族貴族そして国民の間で珍重されるようになっていた。また日本が輸出しているインフラはまだ十分に普及してはいないが、彼らの生活水準に確かな変革をもたらすだろう。また日本国内には異世界側から見れば超技術で作られた未だ見ぬ品がまだまだ存在する。異世界側にとっては垂涎の的であるそれら品々を売ってもらえないかと頼む者もいるが、船舶貿易による輸出品は現在日本政府によって厳しく決められており、直接日本へ赴き、日本の通貨で購入する他なく、日本円の獲得は異世界側の国々にとって急務となっていた。


〜〜〜〜〜


ノーザロイア島と日本列島の間 新日本海 洋上


イラマニア王国から日本国へ向かう政府公船の倉庫で、イラマニア政府の命令を受けた金融局の役人2人が話をしている。


「何だ〜?この大量の紙切れは?」


役人の1人 キェングが倉庫に大量に積み上げられている紙の山を見つける。


「紙切れじゃない、何度も説明しただろう。それは『円』、我が国の政府がニホンから購入した彼の国の現地通貨さ。」


「え、これが『円』!こんな紙に金貨銀貨を出したのか!?」


もう1人の役人 エリドの説明を受けた彼は驚きの声を上げる。彼は政府が金銀で紙を買ったという事実が理解出来ない。


「『紙幣』と呼ばれているもので、特にそれらは『1万円札』。ニホンの最高額通貨だよ。」


「・・・でも紙で出来た金なんて聞いたことないぞ。本当に使えるんだろうな?」


「問題無い。さすがに紙製では無いが卑金属製の兌換券を用いている国なら大陸にもあるだろう。心配性だな。」


エリドはあれこれ不安がるキェングを落ち着かせる。


「それでええと、我々は何を買えばいいんだっけ?」


キェングの質問に、エリドは懐からリストが書かれた紙を出す。


「一部王族貴族の方々のご所望で彼の国の反物や衣服、ガラス細工、化粧品、ニホン酒。」


「工芸品や反物、化粧品はニホンの方から我が国に輸出しているのに?わざわざニホンでも買うのか?」


「・・・まだイラマニア王国内に流通していない絵柄や品種のものが、いち早く欲しいということだ。」


「高貴な方々って言うのは・・・。」


平民出のキェングは上流階級の見栄っぱりな様子に少し呆れ気味になった。

エリドは説明を続ける。


「王国軍からは大量の懐中電灯や缶詰などなど。」


「缶詰ってあの3年くらい保つって言う保存食か。カイチュウデントウ・・・?」


「暗闇で光を照らせる道具。ランプより光が届く範囲が広いし、火や油を使わないから火事の元にならず取り扱いも簡単で、夜戦の携行品にはもってこいって訳だよ。」


「そんなものより武器を買った方が良いんじゃないか?」


「そりゃ政府が何度もニホンと交渉したさ。でも認めて貰えなかったそうだ。」


日本政府は国交を結んだ諸国から打診された武器売却は、ここまで全て拒否していた。


「あと自動車2台もだな。これが1番大きな買い物だ。認めてもらえるかは分からんらしいが。あとは・・・。」


学術書、文具、医薬品・・・。エリドは箇条書きにされた購入予定物品を順々に述べていく。


「・・・そして、最後に医学書。」


「医学書?」


「何でもニホンじゃ、労咳や肺炎、瘡毒は治せる病だそうだ。それだけじゃない。今の我々の医術ではさじを投げるしかないあらゆる奇病難病や怪我が、ニホンじゃ金を払えば治せるらしい。政府はその優れた医術を取り入れようとしているのさ。」


「そりゃ・・・すごい・・・。」


「ん、どうした?」


エリドは先程まで軽快に話していたキェングの口調に、急に勢いが無くなったことに気づく。


「私の母は4ヶ月前、労咳で亡くなったんだ。もう少しニホンとの国交が開かれるのが早かったらもしやと思ってね・・・。」


「・・・。すまない、つらいことを思い出させてしまったな。」


「いや、もう過ぎた事だからいいんだ。」


そう言い、キェングはエリドの肩を叩くと倉庫を後にする。

2日後、彼らを乗せた政府公船は福岡市に入港した。


外貨獲得は大事ですよね。日本にとっても。

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