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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
4章 源は、誇りか呪縛か執念か
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三話 罰

昨日の勇者シャワー室立て篭もり事件から一夜明け、朝陽がレンガ一面を照らし、世界を覆っていた闇を祓う。




俺がセレスに頭を下げてから1時間程の時が過ぎ、ようやくセレスはシャワー室から出て来た。


セレスはアクアに付き添われて部屋に戻ったが、2人とも何時もの元気が無く、何処か気まずそうだった。


事の発端は俺なんだが、正直見ているこっちまで部屋に居たくなくなる。


いや・・・此処までは良いんだ、自業自得だし。問題はその後のガンセキさんの発言だ。


「明日の修行は中止にする。お前は2人を連れてレンガの観光でもしてくれ」


無論断った、普段ならまだしも今の状態のセレスとアクアを一日中連れて歩けなんて勘弁してくれ。


「どうせお前の事だから、もうレンガを歩き回っているだろう」


確かに歩き回った事は何度か有るけど。勘に頼って最終的に俺は迷ったんだ・・・まあ、街の歩き方は何となく理解できたけど、残念ながら観光案内出来る程に俺はレンガを把握してない。


以上の理由を付けて、もう一度断らさせて貰う


「観光案内するなら、俺よりガンセキさんの方が良いと思いますけど」


ガンセキさんは譲らない。


「すまんが折角の機会だ、明日は俺が刻亀に付いての情報を聞き込む」


忘れてたけど、俺が書物から情報を探し出して、ガンセキさんが人から情報を集める役割だった。


ガンセキさんはずっと修行に付き切りだったし、聞き込み出来る状況じゃなかったからな。



断る事もできず、仕方なく承諾する。


「何処に行けば良いんですか? 観光名所なんて俺には分からないですよ」


ガンセキさんは苦笑いを浮かべながら。


「確かに1年ほど住んではいたか、俺もそこまで詳しくないんだ」


どうせこの人の事だから、修行場と宿の往復だったんだろう。


「とりあえず、14時頃に南門軍所に向かってくれ、そこにゼドと言う人がお前達の事を待っているから、軽く挨拶だけして置いてくれ」


何か急な展開だな。


「誰ですか、そのゼドって人は?」


「軍と直接な関係は無いけど世界各地を歩き回っている人だ、俺達を国の依頼で刻亀の下まで案内してくれる」


国内どころか、世界中を旅してる人かよ・・・本物の旅人じゃないか。


アクアとセレスを連れて観光するのは嫌で堪らないが、ゼドさんとやらに会うのは楽しみだな。


・・・

・・・

・・・


4人は何時もの様に朝食を済ませると、ガンセキさんだけは1人先に宿を出る。


「お前も分かっていると思うが」


流石に昨日の今日だし、一応言葉には気を付けるけど。


グレンは苦笑いを浮かべると、申し訳なさそうに。


「何時も気を付けてはいるんですけどね・・・どうも本当に病気のようで」


思っている事をそのまま口に出してしまう。


ガンセキさんも俺に真似て苦笑いを返しながら。


「とりあえず、14時にお前等が南門軍所に行くとゼドさんに連絡してあるから、くれぐれも遅れるなよ」


グレンが頷くのを見ると、ガンセキは部屋の扉を開ける。


振り向きざまにもう一度グレンを見ると言葉を発する。


「お前の口が病気なのは分かっているが、ゼドさんに失礼な事を言うなよ」


ガンセキさんがそう言うって事は、かなり癖のある人なんだな・・・気難しいとか偉そうとか。


先に言って置くが尊敬すべき人なら俺は、どんな人物でも敬語らしき言葉を使うぞ。


女好きとかだったら多少口が悪くなるかも知れないけど。


・・

・・


ガンセキさんはそう言い残すと、情報収集へと向かった。



今現在、俺以外の2人は洗濯場で作業している。


因みに今回は俺の洗濯物も洗って貰っている。


一緒に出掛ける訳だから、俺だけ後になって自分の分を洗濯するのも変な話だからな。


4人分の洗濯物は俺が洗うと言ったんだが・・・アクアに殴られてしまった。


昨日の今日でセレスとアクアが2人で洗濯の作業をするのは気まずいと思ったから、俺にしては珍しく気を使ったんだ。


まあ・・・女性物の衣類を洗うと言い出した俺も馬鹿だけど。


あれ程にギクシャクしている癖に、何だかんだで一緒に作業するんだから中が良いんだろ。



グレンは肩を落とし、溜息を吐く。


セレスとアクアだけじゃなく、ガンセキさんや宿の人にまで迷惑を掛けてしまった。


何が俺の信念だよ・・・貫く事が何で出来ないんだ・・・一生貫くと決心したのに、何で俺は人に迷惑を掛けるんだ。


全てに置いて迷惑を掛けない事なんて無理だと分かっている、要らない迷惑を掛けない事が重要なんだ。


今回の事は要らない迷惑だ、俺が調子に乗らなければ起こらなかった事態だと思う。


たぶん俺は今後も要らない迷惑を人に掛けていく。それでもこの信念を諦める事も、捨てる事も俺は絶対に出来る筈が無い。


グレンは頼りない足つきでガラスを目指す、曇った窓を開けると外の景色を心なしに眺める。



一生を捧げて貫くんだ、この信念を・・・それが俺に対する【罰】なんだ。



心を視界に戻し、そのまま空を眺める。


空は曇り空だけど雨を降らす感じではない、少し遠くに時計台の姿が映る。


時刻はもう直ぐ10時か。


視界を下に落とすと、宿前の道を数名が歩いている。


・・・アクアとセレスを連れて、時計台にでも行くか・・・。


ガンセキさんから少しばかりの金は貰っているから、飯代以外にも何か買えそうだ。


本当は俺の金で買うべきなんだけど・・・自分の武具で全部使わないといけない。


明日から軍での仕事を始める予定だけど、それは婆さんの金だからな。



情けねえ・・・詫びの品を買うにも、人の金に頼らないといけないなんて・・・本当に情けない。



軍の仕事は話だけなら数日前に済ませてある。


15:00~20:30、この5時間30分が俺の勤務時間だ。


レンゲさんに武具が後どれくらいで完成するのか詳しく聞いてないけど、予想なら1週間後には完成していると思う。



出来れば他の3人には俺が働いている事を知られたくないから、21時までには宿に戻る必要が有る。


どうやら軍所の受付さんは、俺が勇者一行のメンバーと言う事は知らないようだった・・・多分。


報酬は仕事の最終日に纏めて5万を頂戴する契約だ。


大体一週間、約5時間の仕事を毎日して5万・・・これが安い仕事なのか、それとも高い仕事なのか、俺には良く分からない。



喩え仕事期間中に魔物が現れなくても5万の報酬。


喩え仕事期間中に強力な魔物が現れ、どれほど苦戦しようと5万の報酬。



運しだいで楽に稼げる仕事であり、逆に運しだいで割りに合わない仕事になる。





単独は基本4人1組で戦う、俺の故郷周辺の魔物は全て一括で単独の値段が決まっている。


強い魔物を倒す事が目的ではなく、森の魔物を減らす事が目的だからな。



単独一体に付き・・・3万5千、仕事自体の基本料金が働いている年数に寄るが1万~7万。


俺は7年働いて2万5千貰ってた、1ヶ月に倒せる単独は1~4だな、これは剛炎を使える事が出来るようになってからの数字だ。


1ヶ月の給料は6万~16万5千って所だ。




・油玉や火の玉の素材代が1ヶ月で7万5千。


一回の戦闘で失った分を補充するのに5千だ、1ヶ月で15回前後の戦闘回数として合わせると7万5千。


丸一日同じ場所に潜んで2日に1回・・・数ヶ所の戦う場所の候補を立てて、魔物の動きを予想しながら来そうな場所を選ぶんだ、この技術を得たお陰で幾らか単独との遭遇確立が上がった、これは南の森と其処に生息する魔物を調べないと出来ない方法だ。日中でも問答無用で追って来る奴なら俺を餌にして誘導する事も出来るな。


16歳の時に南の森に移された時は7年の内で本当に肉体的にまいった。


最高記録の4体を仕留めたとしても他は失敗している、俺が単独と戦っている最中に群れが割り込んできたり、単独が逃げ出して仕留めるのを失敗したり。


失敗の分も素材には入っているから毎月大体7万5千の出費が掛かる、一度の戦闘で残玉を考えながら使っているけど、ケチりながら戦う訳にも行かない・・・全ての原因は油にある。


秘伝の油でないと油玉の力は半減すると言っても過言じゃない、炎を飛ばせず宝玉を使う事が出来ない俺に取って、それを補う力の代償が素材の出費だ。素材の材料を知った今だから言える事がある・・・俺が戦闘を一回するとして、俺が払う素材の金は多分6千だと思う。



・食事代は1日2食合わせて500で何とか抑えていた。1ヶ月で1万5千を少し上回る。


俺が料理のスキルさえ持っていたら、もう少し抑える事が出来たけどな。



・俺の住んでいた家は借家だから毎月2万7千を払っていた、歴史を感じる我が家だから相応の金額だ。


75000+15000+27000=約11万7千・・・これが出て行く金だ。




4体討伐達成の給料・・・165000-117000=4万8千の黒字。


因みに4体狩れたってのは俺の最高記録で1度だけだ。



3体討伐達成の給料・・・130000-117000=1万3千の黒字。


3体が俺に取って目安だな、3体倒した時の安心感は俺にしか分からないだろう。



2体討伐達成の給料・・・95000-117000=2万2千の赤字。


17歳までは此れが半分以上が閉めていた、素材も家賃も削れないから飯を削るしかない・・・それでも無理な時は川で魚を捕った、道具が家に無いから近所の村人に頭を下げて貸して貰った。



1体討伐達成の給料・・・65000-117000=5万2千の赤字。


当時は給料で素材を買えないから道具屋の手伝いをして、一日7万5千の報酬で素材を買った。剛炎を使えるように成ってからは1度も無い。



討伐不達成・・・婆さんに頼るしかないだろ。


村の人が心配して飯を持って来てくれた事がある、その度に俺は捻くれ者だから・・・惨めになった。


俺は7年間を自分の力だけで行き抜いた訳じゃない。


婆さんの金を使いたくないから・・・俺は軍の仕事をする。


似合わないかも知れないけど、俺は家計簿を付けていた、そうしないと中々計算が合わないんだよ。


・・

・・


明日はレンゲさんの工房に向かい、修行の途中経過報告と武具製作の進み具合、それとレンゲさんが調べた魔犬の前足の特徴を聞きに行く、それが終り次第郡の方に初出勤だ。


明後日からは、宿を出てから15時までが刻亀の情報収集、それから20時30分までが軍の仕事、と言う流れに変わる。


とりあえず魔力の練り込みは目標達成している、明後日からは修行の変わりに仕事だ。



正直言うと、仕事中に魔物と戦う事になったら試してみたい事がある。


上手く行けば、魔力の練り込みを実戦に活かす事が出来るかも知れない。


あのオッサン、体術の達人とガンセキさんに言われていただけあり、様々な技術を知っている。


レンゲさんから受け取った手紙は、魔力の練り込みの修行方法は書いていなかったが、魔力の練り込みを実戦で活かす方法のヒントが幾つか書かれていた。


あと、オッサンの話では・・・自分の炎使いとしての特徴を、俺は完全に把握出来ていないらしい。



『火の宝玉が使えない、炎を飛ばす事が出来ない、その理由をお前は考えた事ねえだろ』



確かにそれを考えた事はなかった、と言うかそれが俺の炎使いとしての特徴じゃないのか?



世の中には足からしか炎を灯す事ができない奴も居れば、腕からしか炎を灯せない人間も居る。


それと同じように、炎を飛ばせない俺みたいな炎使いだって存在しているはずだ。たしか火の神が与えた試練だとか聞いた覚えがある。


火の宝玉具が使えないのは原因を考えた事はあるけど・・・正直言って分からなかった。


そもそも俺は属性使いとして、変な所が多すぎるんだ。



【長所】


火力の調節には自信が有る、低位~並位・並位~高位といったふうに火力を上げるのは速い方だと思う。


魔力を纏う技術・・・これは才能と言うより、この技術を鍛える修練に今まで重点を置いて来たからな。


高位魔法が使える・・・俺が魔物狩りに置いて、単独との戦闘に苦戦していたのは決め技が無かったからだ、高位魔法が使えるようになってからは生活が安定した。オッサンが決め技なしで魔族と戦ってたなんて、ガンセキさんの話を聞いた後でも正直信じられない。


【短所】


炎が飛ばせない。


火の宝玉具が反応しない。


高位魔法が使える・・・剛炎を使えるようになるまでは、魔力切れなんて起こしたことは殆どなかった。通常高位魔法を使える属性使いは相応の魔力量を持って産まれてくる。まあ、俺の魔力量が標準なのは魔人病の所為だけど。


勇者の村出身でなくても高位魔法を覚える奴はいるけど、その殆どは俺と同じで標準の魔力量だから、高位下級魔法しか使えない。



これが俺の属性使いとしての自己評価だ。




グレンが自分の評価を考えていると、扉が開きアクアとセレスが部屋に戻ってくる。


2人を見てグレンがお礼の言葉を。


「悪かったな、俺の分まで洗濯させちまって」


アクアは何時もの元気を忘れたような口調で声を放つ。


「まあね、グレン君にボク達の服を洗濯されるくらいなら自分で洗うよ」


いつものアクアなら俺が2人の分の洗濯物を洗うと言った時点で、殴るなんてことはしないだろう。


俺の予想なら・・・そこまでして女の子の服を触りたいんだね、グレン君は変態だ!! とか言って俺を茶化す筈だ。



グレンはセレスとアクアを見渡すと。


「ガンセキさんに言われた通り、今からレンガの観光に行くけど、どこか行きたい所とかあったら聞かせてくれ」


正直言うとどこに行けば良いのか分からない、セレスとアクアが行きたい所があればそこを優先させたい。


俺の話を聞いた2人はお互いに顔を見合う。


アクアが俺の方を向くと。


「行きたい所って言われてもさ・・・ボクはレンガのこと良く分からないよ」


セレスが続く。


「レンガに来てから修行場くらいしか行ってないもん」


ガンセキさん・・・やっぱ俺に観光案内は無理かも知れません。



そう言えば、ここ一週間は修行尽くしだったと言う事は。


「アクアさん、矢はあと何本くらい残っている?」


アクアは暫し考えると、自分の荷物が置いてある場所に向かい、矢筒の中身と予備を確認する。


この前の犬魔との戦闘ではそんなに使っていないが、レンガに到着してから修行の一環として何度か日中に魔物と戦っているらしい。



以前言っていた通り、大群れと4人で戦うのは危険だ。


だが単独が相手となると、4人と言うのは妥当な数だと思う。


単独は基本一体だから囲まれる恐れもない、アクアは敵から離れた所から矢を放って戦うからな。


小さな群れの場合は敵と距離を取りながら戦う事も可能だが、敵の数が多いとそれも難しい。


群れと戦う場合は質より数の方が重要。


単独と戦う場合は数より質の方が重要。



戦争だってそうだと思う、物凄く強い人間が1人だけ1000の兵に混ざっていようと、一般兵しかいない3000には勝てない。


その数の差を埋めるのは指揮官・地の利・策略・雨魔法・士気等々あるけど、やはり戦争に置いて一番重要なのは兵士の数だと思う。まあ、兵の鍛錬がどれだけできているかってのも関係してくるだろうけど。


圧倒的な兵数の差があれば、相手方の偉い人が、やる気を失ってくれるかも知れねえし。


俺達4人がどんなに強くても、共に戦ってくれる同志が居なければ絶対に戦争には勝てない。



話が反れたがアクアとセレス、そしてガンセキさんは修行の一環として単独と何度か戦っていたらしい。


恐らく矢も残り少なくなっていると思うんだけど。


矢の残り本数の確認を終えたアクアは、グレンに語りかける。


「まだ大丈夫だけど、予備がなくなちゃったから補充して置いた方が良いかな」


時計台以外は行くあてもないし、折角だから寄って見るか。


「ついでだから武器屋に寄って、矢を補充して置くか」


グレンの提案を聞いたアクアは不満を述べる。


「観光案内に武器屋は駄目だよ・・・折角レンガに居るんだからさ」


確かに武器・防具屋は勇者の村にも在った。


「お前よ、ここを何処だと思ってんだ・・・ここに来て武器屋を覘かない旅人が居ると思うか?」


レンガの別名は鉄の街・赤鋼、勇者の村とは品揃えが違うんだ。


グレンの説得にアクアがもっともな事を言う。


「どうせ覘くだけじゃないか」


無論、宝玉武具を買う金なんて無い。


「だから矢を買うんだよ、ここで売っている矢なら勇者の村より質が良い筈だ」


正直言うと弓なら兎も角、消耗品の矢に質の良い悪いが有るのか俺には分からないんだけど。


黙って俺とアクアの会話を聞いていたセレスが、久しぶりに口を開く。


「どこに行くかは歩きながら決めよ・・・もう10時回っているから」


セレスの癖に、まっとうな言葉を吐きやがって。


グレンはセレスに言葉を返す。


「それもそうだな、とりあえず宿を出るか」


・・

・・


ガンセキさんも無理を言ってくれる。


そりゃ原因は俺の口だけどよ・・・人付き合いの経験がない俺に、どうやって2人を仲直りさせれば良いんだ。




4章:三話 おわり



どうも刀好きです。


単独退治は本来4人でするから一体で約8500位ですかね。


そうなると群れの魔物は一群れ5万とか? もう考えたくないです、自分の良くやる手段でいきます・・・読者の方のご想像にお任せします。


魔物の値段均一は無理が有りますかね? 矛盾を少しでも無くす為に理由付けをしているんですけど、無理やり通す事も多いかも知れませんがお許し下さい。



それでは次回も宜しくです。

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