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炎拳士と突然変異  作者: 作者です
外伝 壊れゆくものたち
177/209

昔 ただ、人のため

魔力がなければ魔力がないで、戦う仕事を選ばなければ良いと、これまで沢山の人から言われてきた。


自分でもそう思う。少なくともこれまでの人生で、魔力なしだと馬鹿にされた記憶はない。


「イザク、下を向いて歩くんじゃねえ」


蒸し暑い。額から流れた汗が、頬をつたい地面に落ちる。


魔法も使えず、ろくに戦えない。だからせめて、荷物持ちを引き受けたものの、魔力をまとうことができない。


「すみません」


紐が両肩にくい込み、背中から倒れそうになる。


もっと役に立てると思っていた。でも現実は厳しいもので、この程度の労働すら満足にこなせない。


低位属性使いのように、薄くても魔力をまとえれば、もう少し重い荷でも背負えるのだろうか。


「本隊との距離が大分開いてんだ、もう少し速度を上げなきゃいかん」


勇者同盟にすら迷惑をかけている。


「俺らの仕事は魔物を寄せないことだ。解るよな」


「はい」


このままでは、僕の所為で傭兵としての役割を果たせない。


移動を開始して半日がすぎた。一日二日と時が流れるほど、両足が鎖に繋がれていく。


歯を食い縛り歩こうとするが、一歩が前に出てくれない。意識せずともできていた動作が、なぜこれほど難しく感じるのか。


「傭兵にだってな、お前にもできる役目はあるんだ。いつまでも変な意地をはってねえで、裏方に回れ」


計算はあまり得意ではないが、文字くらいなら書ける。


「……嫌です」


同盟員たちの視線が痛い。それでも僕は、ここにいたい。


討伐でも護衛でも駄目なんだ。


僕はここで、この剣を振るいたい。


「団長、置いていきましょう。こんな奴の我儘に付き合っていたら、俺らの評価が落ちちまう」


傭兵も一商売。信用を失えば成り立たない。


「お前がかわりに荷物を持ってやれ」


「こいつに戦いをまかせるなんて、正気ですか」


僕のせいで、団長の評価が落とされる。


「ただし条件がある」


団長は僕の剣を指さし。


「もう、その玩具を使うのは止めろ」


魔法の皮膚だけでなく、これまで魔者からも何度か攻撃を受けてきた。


「対策は立ててあります」


刃を丸め切れ味を殺してでも、打撃の効果を高めてある。


「お前の腕ならもう解ってんだろ。そいつじゃあ限界なんだよ」


違う。未熟なだけだ。


団長は剣を持つと、それを僕にかざす。


「あくまでも貸すだけだぞ。この戦いが一段落すれば、しばらくは俺らも休める」


内地に行けば、体格に合った物も売っているだろう。


「……嫌です」


兵士では刀という武具は使えないから、傭兵という職を選んだ。


「お前の要望を通したいなら、こっちの意見を聞き入れんのが筋ってもんだろ」


嫌だ。


貴方は僕に、捨てろと言うのか。


「条件を飲めないなら、お前を戦わせるわけにはいかねえな」


目の前には団長の両手剣。


「下手に未練を残しちゃいけねえな。こいつを使って良い、その玩具を壊せ」


気づけば、両手剣を受け取っていた。


団長は僕から刀を奪うと、刀身を空気に晒す。


「戦いたいんなら、意志を俺に示すんだ」


その両手剣は、刀よりも重かった。


「同じ剣でも、種類が違います」


いつの間にか汗が引き、背筋に冷たいものが走る。


「諦めろ。お前の剣術ってのは、もう時代遅れなんだよ」


「やるなら早くしろ、時間がないってさっきから言ってるだろ。そんくらいの荷物なら持ってやる」


彼なら背負いながらでも、充分に戦えるだろう。



僕はただ、自分の剣を、人々のために。


心ではそう思っているのに、何故か両手剣を鞘から抜いてしまう。


重い。


「どうした。早くしろ、戦いたいんだろ」


戦いたい。


そのためなら。



戦えるのなら


この程度の誇りなど


捨ててみせる



団長が壊しやすいよう、刀を固定する。


僕は両手剣を構え


雑念をかき消したのち


振り下ろす







なにかが壊れた音がした。

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