表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎拳士と突然変異  作者: 作者です
10章 朱の火
135/209

十話 今、誰かが死ぬくらいなら

文章で全て伝えられたら最高なのですが、限界を感じ挿絵に挑戦してみました。



なにがあったとしても、魔物は悲しむ暇など与えてくれない。


戦いが始まり、そして終わる。そんなことを繰り返しているうちに、気づけばグレンは思考を一点に集中させていた。


雨は強くなったり弱くなったり。人の手がほとんど加わっていないため、地面はかなり悪化している。


それでも一歩ずつ進んだから、すでに拠点の前を流れる沢が、目視できる位置まできていた。



赤の護衛は拠点の方角へと意識を向けながら。


「フエゴさんたち、やっぱ様子が変だぞ。なんかあったと考えるべきじゃねえか?」


このまま進めば十五分ほどで到着する。まだ離れてはいるものの、感知能力があれば確認できる距離であった。


「戦闘開始から十分ってとこか。たしかに敵は多いけど……」


この辺には村が存在しないため、大きな群れが増えるのも頷ける。


「……想定の範囲内です」


朱火は群れを専門に狙う団体である。


「それなら尚更じゃないんすか。勇者一行は四十体の犬魔と戦ったことがあるけど、全て始末すんのに十分以上は使ってますよ」


黒く染まった逆手重装は、班長へと向けられていた。


「そのとき雨は降ってませんでしたが、少なくとも俺らは苦戦しました」


「だからと言って、今より速くは歩けません。それに向こうだってさ、俺たちには気づいてるはずだ」


勇者一行は四人。本当に危険な状況であれば、なんらかの合図をしてくるだろう。



汚れの少ない部位で目もとを拭うと、グレンは行く先を見つめながら。


「荷馬車の守りは五人と少ねえけど、雨中でも戦える面子を残してあるってことか」


その場から動かなければ、土使いは地面の慣らしができるため、万全ではなくとも戦える。


拠点にいる低位雷使い。もとは明火の所属であったが、魔物具を購入してからニノ朱で経験を積み、最近になってこの班に編成された。



ペルデルは運び手の様子を確認しながら、自らの過去をグレンに語る。


「班長未経験といっても、長いこと班長の補佐をしてきましたんで、そんくらいの気は配れますよ」


様々な都市を行き来する団体もあれば、時間が空けば里帰りできるよう、拠点を絞る団体も存在していた。



もし村に仕送りをしてしまえば、高値の玉具など手には入らない。その行為は正しくもなければ、決して間違いでもない。彼はただ、選択をしただけである。


帰り道をなくそうと、火炎団で生きていく。この仕事が好きだから、自分の意志でそう決めた。



民が権利を得たこの世界で、それを裁くことなど誰もできない。少なくとも、表面では。


長男か次男か。


裕福か貧乏か。


故郷を愛するか、故郷を捨てるか。


行き過ぎれば歯車は回らないけれど、両方があるからこそ、この世界は動いている。


「なによりあんたは荷馬車を守るために、できる限りの対策を練ってくれた」


人内魔法や逆手重装と違い、油玉はすでに情報が広まっている。


グレンは自分の選択に、後悔はないと信じたい。



拠点での戦闘が始まって一二分。事態は動く。


「どうやら俺らの対策は不十分だったみたいっすね」


もしフエゴが同行していなければ、拠点で指揮をとっていたであろう班長補佐。女性の団員が、土使いから得た情報を一同に伝える。


「拠点より一名、こちらに向かってきます。恐らく救援要請かと」


グレンは深呼吸をして、一度考えるのを止める。


浅く広く。


赤の護衛は考える。いったい拠点でなにが起きているのかを。


・・

・・


【運び手の護衛】


足型の炎使い・拳士・手型の炎使い三名・低位水の魔物具使い・低位火の魔物具使い。


攻撃型の土使いと炎使い二名。そのうち一人は運び手となっている。


【荷馬車の護衛】


目型の炎使い・低位電の魔物具使い・手型の炎使い一名。


炎使いと防御型の土使い。


・・

・・



少しして、低位電の魔物具使いが合流する。


班長は一団の動きを止めると、相手と向かい合う。


その人物は班長補佐ほどではないが、化粧が崩れていたものの、呼吸に乱れは感じない。


「敵は氷犬魔の群れ。現在フエゴさんを除き、炎使いは並位魔法の使用ができません。なので魔物具使いの二名を拠点へ連れてくるよう言われました」


ペルデルは首を傾げると。


「炎まで火力を上げれないって、玉具をもっている奴もか?」


その質問に相手はうなずく。


たとえ雨が本降りになったとしても、並位魔法が使えないなどありえない。


しかし悩んでいる暇もないため、班長はその要望に承諾するが、行動する前にやるべきことがあった。なにが起きているのかをこちらで考え、それを戦闘中のフエゴに伝える。



グレンはこの場にいる面々を見渡して。


「目形の炎使いはよ、たぶん手型・足型よりも、火力の調節が楽なんじゃねえかな」


魔力の質。


「レンガで俺が襲われたとき、別の場所で魔法陣の痕跡が確認された」


信念旗実行部隊には、直陣魔法の使い手が所属している。


「確証なんかねえけどよ、俺はそれを描いたのがオルクだと思っています」


班長補佐は空を指さし。


「能力は、自然の雨による影響を強めるってとこかな?」


魔法陣に関する知識があるのか、彼女は困った表情を浮かべ。


「さすがに中魔法陣だと難しいけど、範囲を広めるのがほかの方法より楽ですね」


「天気を利用してるだけだから、デカくてもそんな難しくないんじゃねえかな。でも大魔法陣となれば、数日の準備期間だと描ける場所は限られてくる」


この場にいる全員がグレンに注目する。


「縄張りってのは厄介だからよ、ついてすぐに拠点付近の魔物は狩ったよな。でも今になって、オッサンたちが犬魔に襲われてんのはなぜだ?」


班長はすぐさま、拠点からきた魔物具使いに質問する。


「ここから確認したところ、全ての魔物が拠点を襲っている。氷犬魔の群れに、ボスは確認されてますか」


「いえ。それらしき個体は今のところ」


群れが縄張りを失う主だった理由。ボスが人や別種の魔物に討たれたり、格の違う相手が近場に現れる。


「俺が見たことのある犬魔のねぐらは、たしか平べったい大岩の下に穴を掘っただけだ」


魔法でも大岩を召喚できる。だが基本は丸い形であり、それを一部平らにしても、そこまでの広さはない。



偶然かどうかは不明だが、ボスの存在しない群れに、フエゴたちは襲われている。


班長は試しに足もとへ火を熾し、その火力を上げてみる。


「雨で違和感を感じるけど、玉具は問題なく機能してるな」


「ここから荷馬車まで、走れば四・五分もあれば辿りつける」


拠点からそこまで離れていないのに、班長は並位魔法を使えた。


「魔法陣の効果範囲が広くても、拠点はその外れに存在してるってことになる」


班長は空を見上げながら。


「俺たちと合流したのち、荷馬車は人工道を目指す。もし相手の立場になれば、少なくともその道のりに魔法陣は描かない」


洞窟と人工道の方面に魔法陣は存在しない。そうなれば、自然と位置が見えてくる。



グレンは運び手の一人に近づくと、血のついた鞄を貸してもらったのち、ここら一帯の地図をだして。


「これは予想でしかないから、確実とは言えないけど」


挿絵(By みてみん)


「俺らがどの源泉から清水を運ぶのか。その推測ができてないと、この策は機能しねえ」


清水の濃度を知るすべがなくとも、各源泉との距離は参考になる。


源泉の場所がわからなくとも、団員が調査に向かった方角が情報となる。


拠点三日目の試し運搬を実行部隊が探っていれば、候補は二つに絞られる。



班長補佐は地図を覗き見ると。


「魔法陣は拠点からずいぶん離れてますね。雨のせいで時間に余裕がないので、今は効果範囲からでたほうが無難かと」


そもそも十四時過ぎには雨も止むため、無理に魔法陣を破壊する必要もないだろう。



班長は洞窟での会話を思いだし。


「あんたの案内人が協力してるのなら、そっちは彼らに任せるしかないか」


魔法陣の対処は難しい。それでも火力を上げれない原因は判明した。


それだけでもフエゴたちからすれば、充分な情報だと思われる。しかし相手は魔物ではなく人間であるため、魔物具使いたちを拠点に行かすことはまだできない。


「大魔法陣は清水運びの妨害でしかない。オルクは俺を殺す、または探るために、他の策を仕掛けてくるはずだ」


グレンはそこまで魔法陣に詳しくないため、班長補佐に質問をする。


「オルクが別の場所で、ほかの魔法陣を用意している可能性は?」


「能力の切り替え作業がなければ、魔法陣の使用はそこまで難しくありません」


今回の大魔法陣は難度の高いものではなく、恐らく属性紋も複雑ではない。


「古代文字は知識をもつ人でないと難しいですが、宝玉線だけなら他者でも指示があれば手伝えます」


それらを踏まえた上で、班長補佐はグレンの問いかけに答える。


「高い技術は不要でも、大魔法陣を完成させるのは一苦労です。しかもそれが拠点から離れた場所にあるのなら、別のものを描くのは難しいかな」


近くにいる団員に気づかれないよう、魔物に注意しながらとなれば、それこそ準備期間が足りない。


グレンは班長補佐を見ながら。


「もし材料さえあれば、あんたに頼むんだけどな」


大岩の上部を平らにすれば、ギリギリだが中魔法陣は描けるだろう。そして能力は、自然の雨による炎使いの影響を弱める。


「私は直陣魔法の使い手じゃないから、完成させるのに時間もかかります」


魔法陣に必要な古代文字。それが全て頭に入っているわけではないため、資料がなければ魔法陣は描けない。




赤の護衛は血まみれの鞄を見つめながら。


「恐らくオルクの狙いは、こちらの戦力を分断させること」


班長と別れ三名の魔物具使いと行動を共にすれば、魔法陣の効果範囲に入ったとき、グレンは雷使いと水使いに襲われる。


もともと彼の中心は炎よりも体術だが、そうなれば魔犬爪や人内魔法を何度も使うことになる。


敵は恐らく、レンガのときよりも腕が立つ。こちらにも三人の味方がいるため、死にはしないと思うが、多くの情報が信念旗に流れるだろう。



班長は腕を組むと、今後を考える。


「俺たちはこの場に待機。フエゴさんたちの戦いが終わったのち、拠点への移動を再開させる」


手型の炎使いが三名。なによりも、この一団には班長が存在する。


「オッサンには悪いけど、俺もここに残らせてもらう」


今後の行動が決まった。


班長補佐は魔物具に魔力を送ると、フエゴへの増援として、二名を引き連れて走りだす。


・・

・・


数分後。彼女たちは無事に拠点へと辿りついた。


ペルデルは少し弱まった雨を肌で感じながら。


「少しでも早く戦いが終わるのを、今は神さまに祈るしかないか」


「柄でもないことを」


そうグレンが茶化すと、班長はニヤけながら。


「心外な。こう見えても一応の信仰心はあるんですよ。現に魔法使ってますし」


繋いでしまったものを解く勇気など、残念ながらグレンにはない。


「拠点の戦いに意識が向いていたのもありますが、雨が弱まって気づきました。単独が近くまで来てますね」


班長は近くを流れる沢の向こうを見て。


「守りが手薄な今。この場にて迎え撃てば、清水に損害がでるかも知れないな」


「だからと言ってこちらも敵に近づけば、下手すると魔法陣の効果範囲に入っちまう」


炎使いの三名が単独の対処に向かい、もし魔法が使えなくなれば、最悪の事態が想像できる。


「立派な両手剣を持ってますが、魔法なしでもいけるくちですか? ちなみに相手は魔虫っすね」


「ここらで単独の魔虫って言うと……鎌切か」


魔鎌切。


動きはそこまで速くないが、接近戦では身体を起こす。ただし、魔法は使ってこない。



ペルデルは両手剣の柄に触れながら。


「俺は剣技よりも炎に重点をおいてる。だから、魔法なしで勝つのは無理だな」


そうなれば、もう選択肢は一つしかない。


グレンは不気味に微笑むと、これからの戦いに思いを馳せる。



だが班長はその望みに気づき、彼が発言する前に対処した。


「駄目だ。危険を覚悟で、この場で迎え撃つ」


護衛は当然として、運び手も清水を死守する。


「現状で優先すべきは清水だろ」


それは一時間半ほど前に、ペルデル自身が言った内容である。


「今までの戦いを見て、死なないと判断した状況に限り、俺はあんたに指示をだしてきた」


時がたち実力を把握するのに比例して、命令は過酷なものになっていく。


意見や予想を次々に言うため、自然と話し合いに交じるようになった。



だが現状は違う。


「こんなところで赤の護衛が死ねば、清水どころか刻亀討伐が中止になる。最優先は、あんたの生存だ」


水使いや防御型の土使いがいない現状で、単独の清水接近を防ぐすべは限られる。ここからほとんど動かずに迎え撃てば、それだけ運び手の命が危険にさらされる。



青年は青年で、そう簡単に譲れない。


「俺の荷物の中に、一行当ての手紙がある。まだ完全とは言えないけど、刻亀との戦について書いておいた」


判明している刻亀の攻撃と、その対処方法。


戦い全体の流れ。


「前半での刻亀の探り方。中盤での魔力の消耗対策。そんで実際に始まらなけりゃわかんねえけど、終盤へもって行くために三人がやるべきこと」


ペルデルは数秒だが、黙って相手の顔を見つめ。


「あんた、死ぬことを前提で……俺らに同行したのか?」


「んなわけねえだろ。これはあくまでも、なにかあったときの対策だ。勇者には、それを読んだ上で決めさせてくれ」


刻亀討伐を止めるか。それとも周囲の力を借りながら、このまま三人で続けるか。


「あんたの許可がなけりゃ動かねえ。だけどよ、俺は今……どうしても戦いてえ」


ゆっくりと迫ってくる単独に、この男は興奮していた。



死ぬ気など最初からない。それでも対策は練ってある。


今にも飛び出しそうなグレンの前に、班長は立ちはだかる。


「悪いけどさ、余計にあんたをここで死なすわけには行きません」


この人物が刻亀討伐において、どのような役割を担っているのか。それを知りながら、このまま単独と戦わせるわけには行かない。


「通常時ならいいが、今は間違いなく、信念旗がここにいます。だから諦めてくれ」


やはり許可は下りない。



グレンは最後の手段として、全神経を感知に集中させ。


「俺は鼻が利く! 全力であんたらを探すっ!」


突然の行動に班長は驚いて、ただ周囲を見わたす。



それから十秒。


どんなに呼吸法で集中力を高めても、グレンにはその存在を把握できない。


雨雲。木々。


音と臭い。


微かに肌が。自然とは違う、ただの自然を不自然と感じとった。


太陽の光が鈍る薄闇の中で、何かが一瞬、視線をこちらに向けた気がする。




グレンと別れてからの三人は、夜のあいだに信念旗について話し合う。


中継地では偉い人たちとの顔合わせなどで、恐らく一日を使うだろう。その日の夜に交渉をして、それが成功しても、すぐに五人が立つわけではない。


もとは同じ偵察隊だとしても、契約が個人とのものであれば、やはりそれだけ時間はかかる。


ゼドは彼らの長ではなく、今はただの雇い主である。追加された仕事の内容によっては、前払いや後払いだけでなく、追加の料金も発生するだろう。




五つの影がここについたのは、恐らく昨日。どんなに速くても、二日前と予想するのが無難である。


そして現状。


彼らが全員、魔法陣の対処に向かうとは思えない。少なくともグレンが指示をだすのであれば、半数は赤の護衛を守らせる。


正直いって自分の感知能力はなんの役にも立ってないが、今は自分の予想を信じるしかない。


「俺を守る意志があるのなら、素顔は見せなくてもいい。一瞬でも構わねえから、姿を晒してくれ!」


彼らがこの場にいると解るだけでも、班長は選択肢を増やすはず。



《頼む……でてこい》



今、誰かが死ぬくらいなら。





太陽の光が届かない薄闇。ざわめき、ゆれる。


現れたのは、二つの影。

しかしよくよく考えたら、自分は絵心がなかったので、余計に解りにくくなっていたら、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ