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こんな異世界のすみっこで ちっちゃな使役魔獣とすごす、ほのぼの魔法使いライフ  作者: いちい千冬
彼女と、彼ら。

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そんな隣の王国事情・1

主人公不在でお送りします。

違うお話を間違えて投稿した、ではないのであしからず(笑)






 正直、ここまでとは思わなかった。


 ほんとうに、ここまで()()()とは思わなかったのだ。




「ユーグさま! あなたさまとの婚約、この場で破棄させていただきます!」


 壇上で宣言したのはオーソクレーズの王女エレニテ・アンジェディーナだった。

 豊かに波打つ黄金色の髪を振り乱し、大きな琥珀色の瞳に涙をいっぱいに浮かべている。

 その華奢な身体から一生懸命といった風情で張り上げられた声は、居合わせた者たちの哀れを誘うものだ。

 じっさい、彼女を後押しするように彼女の周囲に陣取る青年たちは、ひどく痛々しい眼差しで彼女を見守り、そしてこちらを射殺しそうなほどに睨みつけて来る。

 しかし。


 サヴィア国王と王妃のための椅子が置かれただけのその壇上に、誰の許しを得て大人数で上がり込んでいるのだとか。

 国内の貴族たちだけが集まるささやかな夜会とはいえ、果たして唐突に大声で宣言するような内容だったのかとか。

 そもそも破棄するような婚約がいったいどこにあったのか、とか。

 いろいろ突っ込みたいことはあるのだが、つまりは。


 ―――いったい何を言ってるんだこの女は。


 どうやら“婚約破棄”されたらしい当人、ユーグアルト・ウェガ・サヴィアの正直な感想は、これであった。




 オーソクレーズは、サヴィア王国の東に位置している。

 かつては貴重な鉱石や魔石、良質の宝石が採れることで大陸一の富と絶対的な権力を誇っていたオーソクレーズだが、資源の枯渇と同時に衰退し、かつてほどの勢いはない。

 そして近頃サヴィアに侵攻された、元・大国である。


 サヴィア王国は、オーソクレーズを国として存続させるための条件を出した。

 そのひとつが、前国王の一人娘にして唯一の後継者である王女エレニテ・アンジェディーナの配偶者をサヴィアの王族、もしくは貴族の中から選ぶことである。

 その候補の中に、“王弟ユーグアルト・ウェガ・サヴィア”の名前があったことは事実だ。

 あくまで、婚約者の()()である。

 候補者は他にもたくさんいたし、彼らを押しのけて婚約まで進んだ覚えはない。

 そもそも、彼にそのつもりはまったく無かった。

 先代国王からの命令とは言え彼が軍を率いてオーソクレーズを落とした張本人であり、途中で代替わりした現国王の信頼も厚いので引き続きオーソクレーズであれこれと処理を任されていて、王女のお相手の最有力候補と言われていてもだ。

 王女様の婚約者選びに「箔付けに名前だけ貸してくれ」と頼まれただけ、なのだから。


 他の貴族たちも、いったい何が始まったのかと困惑気味に、あるいは好奇心をむき出しにしてユーグアルトと王女たちを見比べている。

 いくら兄王の頼みとはいえ、こんな面倒くさいことになるのなら名前だって貸さなきゃよかった。

 彼はちらりと息を吐きだし、あらためて壇上を見上げる。


「……いちおう確認しますが、エレニテ・アンジェディーナ姫」

「やだ、エリィとお呼びくださいと申し上げたではないですか」

「………」


 直接言葉を交わしたのは、まだ数えるほどしかない。

 が。ユーグアルトは頻繁に、この王女の話す言葉を理解できなくなる。

 同じ大陸公用語で会話しているはずなのに。奇怪なことである。


「……これは、余興か何かですか」

「えっ……い、いいえ! わたくしは本気です!」


 余興でないのなら、いまこの場面でどうして恥ずかしそうに頬を染められるのか。

 どうして彼女のまとう空気までが淡いピンク色に見えるのか。

 そして、どうしてそんな彼女の様子を取り巻きの男たちがうっとりと見つめていられるのか。

 ユーグアルトには全く、これっぽっちも理解できないのだった。


 王女は胸の前で両手を組み合わせて、訴える。

 先ほどのわざとらしい声の張り上げ方といい、大げさな仕草といい、なんだか舞台女優のようだ。

 本気と言いながらも嘘くさく見えてしまう。

 が、そう思っていたのはユーグアルトだけだったのか。


 王女を勇気づけようとするかのように、組まれた手を横から自分の手で包み込んだのはルーファイド・スティル・サヴィア。サヴィア王国王弟で、ユーグアルトにとっても弟にあたる青年である。

 続いて彼女を労わるように左右の細い肩に手を添えたのは宰相家の三男と、王国第一軍団長のところの次男。

 後ろに流しただけの黄金色の髪をひと房すくい取って口づけたのが南方領主の弟で、ひらひらと無駄に広がる淡い色のドレスの裾をすくい取って胸に抱いたのは東方領主の三男であった。

 彼らそれぞれと目を合わせ、こくんと頷いてから彼女は再び口を開いた。


「わたくしもう……もう、辛くて耐えられないのです」

「はあ」


 ………帰国途中で見た地方回りの劇団の演目に、こんな演出があった気がする。


 それなりに大きな男たちに囲まれて、華奢な王女の姿はもうほとんど見えない。

 ユーグアルトは適当に返事をした。


「わ、わたくしにオーソクレーズの王女としての価値しかないのだと、わかっております。分かっているのですが……こうしてお顔を拝見するのは、幾日ぶりでしょうか。お城にいらしても何のお言葉も頂けず、笑みのひとつも下さらない。わたくしの事を疎んじていらっしゃるユーグさまを夫とすることは、できません! ユーグさまには、わたくしなどよりもっとふさわしい、心休まる女性が……いらっしゃるでしょう?」


 辛そうに顔をしかめる王女。

 それを労わるように見つめ、親の仇のようにこちらをにらむ総勢五名の青年――婚約者候補たち。


「ああエリィ、なんと健気な」

「あなたがこの者のためにそこまで心を痛める必要はないのですよ」


 ―――おまえら、暇でいいな。


 つい口から出そうになった嫌味を、彼はどうにか飲み込んだ。

 日ごろから何かと張り合ってくるひとつ年下の弟王子が、優越感をにじませてこちらを見下ろして来るのには少しイラっとしたが、それよりもいまの問題はエレニテ・アンジェディーナだ。


 要は、他の候補者たちのように会いに来ないのが王女には不満だったのだろう。

 ユーグアルトが悪いと言わんばかりだが、ここ一年の彼のどこにそんな暇があったというのか。


 オーソクレーズを落としてから早々に王女の身柄はサヴィアに送られたが、戦後の後始末と国の立て直し、それに反乱分子への警戒で、彼はしばらくオーソクレーズに留まるしかなかった。

 そして国に帰ってきたら帰ってきたで、オーソクレーズの件に加えて不在の間に溜まった仕事が山積みである。

 その上わがまま王女様のご機嫌伺いに行って意味のない会話であははうふふと笑える余裕など、彼にはない。

 王女の部屋どころか、自室にだってほとんど帰れていないのだ。

 身体的にも精神的にも、どう頑張っても無理であった。


 ユーグアルトは、横目でちらりとサヴィア国王を確認した。

 兄王は、王妃とふたりで貴族たちと歓談していた隙に壇上を奪われた形である。

 日頃のちょっと軽薄そうに見えるすまし顔はどこへやら、呆気に取られてうっかり口が開いたままになっていた。

 彼と目が合えば、遠目に分かるほどびくっと肩を波打たせる。

 そして青い顔でぶんぶんと首を横に振って見せ。

 次に、一度は跳ね上がった肩をがっくりと落としながら、ひらひらと手を振った。


 ―――自分はいっさい知らない事だから、あとは勝手にやってよし。


 王様の身振り手振りを、そうユーグアルトは解釈することにした。



「―――そうですか」


 サヴィア国王に対してか、オーソクレーズ王女らに対してか。

淡々と、ユーグアルトは返事をした。

 そして見事に左右に開いた人混みの先、オーソクレーズ王女とその取り巻き連中をひたと見据えて、言う。


「わかりました。姫のご意思に沿い、わたしは婚約者()()を降りましょう」

「えっ」


 なんだか変に驚いたような声を上げたのはエレニテ・アンジェディーナ王女その人だが、ユーグアルトは気にしなかった。

 王女の言動や行動が意味不明で理解不可能なのは、いまに始まったことではない。


「あなたの境遇を慮れば、訴えは当然のものかと。()()()()()()()()()()()()()()()()()、わたしはただの()()に過ぎぬ身ですから、捨て置いて下さってよかったのですが?」

「えっ、いえ、あの」

「それでも気になさるなら、仰って下さればこのような場を借りずとも早々に辞退申し上げたでしょう」

「そ、そんな」

「複数の候補を立てたのは、国王陛下が姫のご意思をできる限り尊重しようとされてのことです。わたしなどに遠慮なさらず、どうぞお好きな候補者()()()()()()()()

「………」


 なぜか不満そうな顔つきの王女。

 一方のユーグアルトは、徹底的に無表情だった。

 丁寧というよりむしろ慇懃無礼な言葉と、にこりともしない顔。怒った顔ではないのに「ユーグアルト・ウェガ王子は怒ってるな」と誰もが分かるような冷ややかな空気を漂わせている。

 王女の婚約者候補を降りることが不本意なのだな―――と。この場面だけを見れば、とれないこともない。

 が、国王夫妻をはじめとしたこの場の半数以上の貴族たちは、彼が憤っている理由がそんなものでないと理解していた。


 そう、彼は怒っていたのだ。

 将来伴侶となる候補者たちを侍らせるだけ侍らせ、一向に絞ろうとしないどころか他の見目の良い男たちにも愛想よく声をかけては思わせぶりな態度をとる。

 我が物顔でサヴィアの王宮をうろつき、我儘放題の贅沢三昧に過ごす。

 あげくの果てに、サヴィア国王主催の夜会で国王の許しも得ずにこの馬鹿騒ぎだ。

 エレニテ・アンジェディーナの振る舞いは、敗戦国の王女としての在り方とも、戦の最中に父親を亡くした娘のそれとも到底思えない。


 この能天気な王女に彼は心底呆れ、失望していた。



 



     ☆   ☆   ☆






「お前には、オーソクレーズを治めてもらいたかったんだがなあ」


 夜会の翌日。

 サヴィア国王の執務室に呼ばれ、国王その人から出た言葉にユーグアルトは顔をしかめた。


「兄上、おれはあなたから何か恨まれるような事をしましたかね?」

「え。いやそういうわけでは。ただお前もそろそろ落ち着くべきだと」

「名前だけだと言っていましたよね」

「実際に婚姻を結んでいいとも言ったぞ」


 人払いをした執務室という空間では、話の内容はともかく、やりとりは王と臣下ではなく兄弟のそれである。

 人前よりも随分とくだけた口調の兄王を前に、ユーグアルトも容赦なくため息を吐く。


「なんの嫌がらせですか」

「いやいや。エレニテ・アンジェディーナ王女はなかなか美人だっただろう」

「あれくらいの美人ならその辺にいくらでもいます。気に入られたのなら兄上が側室にでもなさればいいのでは」

「いやいやいや無理! わたしはカナリー一筋だから!」


 真っ青になって王妃の名前を叫ぶ国王。

 たくさんの側室や愛妾を置いていた父親と違って、この兄が王妃一筋なのはよく知っている。

 が、話が話だけに嫌味のひとつも言いたくなるのだ。


「だいたい、あの非常識な王女と結婚してあの特殊な国を治めるのに、落ち着ける要素がどこに? むしろ波乱万丈じゃないですか」

「…………そうだな。すまん」


 弟の冷ややかな眼差しの前に、ウォラスト・エディリンは素直に頭を下げた。


「わたしも、あそこまでアレだと思ってなかった」

「……まあ、あの環境では多少歪んで育ってもおかしくないと思いますけどね」


 この戦を最初にしかけたのはサヴィア側―――サヴィアの前国王だが、オーソクレーズが負けたのはほとんどオーソクレーズ自身が原因である。

 大陸一の繁栄を誇っていたのはひと昔前の話。

 しかしその栄耀栄華を忘れられない者たちは以前と同じかそれ以上の贅沢を繰り返し、現状から目を逸らし続けた。

 城外の荒んだ有様と城内のきらびやかさとのあまりの差に、聞き知っていたはずのユーグアルトもさすがに言葉を失ったほどだ。


 そして、あらためて思ったのだ。

 オーソクレーズに侵攻したのは間違いだったと。


 大陸でも指折りの穀倉地帯であるアスネのオブギ地方や、他の大陸や周辺の島国とも交易を行っていたエリントのラクラン港を手に入れたまでは良かった。

 そこで止めておけば良かったのだ。

 その後も無駄に繰り返された戦に関する出費は膨れ上がり、増え続ける領地の管理だって追い付かない。 サヴィアだって疲弊し国内が安定しているとは言い難い。

 そのサヴィアに、斜陽の大国は重荷もいいところだった。


 話し合いに話し合いを重ねた結果。

 オーソクレーズはサヴィア王国に取り込むのではなく、多少の内政干渉をするものの、国として存続させることにした。

 しかし国の立て直しを任せられるような人材はかの国で見つけることができず。

 唯一残った王女エレニテ・アンジェディーナを飾り物の女王とし、その伴侶をサヴィアの王族、もしくは高位貴族から選んで実務を取らせることにしたのだった。


「兄上の選んだ王配候補たちですから。誰を選んでも立派に国を治めてくれることでしょう」

「……それこそ嫌味か」


 優秀な若者たち、だと思っていたのだがな。

 ため息混じりに国王が呟く。

 婚約者候補として上がっていたのは、いずれも家の跡を継ぐ可能性が低くしがらみの少ない、オーソクレーズへ移っても問題がない者。

 そしてかの国を治めるだけの力量を持つと思われた者である。

 彼はあの王女に「伴侶を選べ」と言ったはずだった。

 候補者全員が伴侶だとは、断じて言っていない。もちろん候補者たちにも言っていない。


「建国以来、王が男だろうと女だろうと大規模な後宮に当たり前のようにたくさんの側室愛妾を抱えて、国を傾けるほどだったのがオーソクレーズだ。王女の感覚はそうなのかもしれないが」


 サヴィアでも、正妻以外に妻や愛人を持つ者はいる。

 現に彼らの父である先代国王は、一時期たくさんの側室愛妾を抱えていた。おかげで彼らには上は三十路から下は物心ついたばかりの幼子まで、異母兄弟姉妹がたくさんいる。

 ちなみに。それ以上に大規模な後宮を持っていたはずのオーソクレーズの前国王の嫡子はエレニテ・アンジェディーナ王女たったひとりである。

 それがオーソクレーズにとって良かったのか、悪かったのか。


「あの王女に、彼らをうまくまとめ上げられるだけの力量はないだろう」

「そうですね」


 あの王女は、相手が自分に対して甘い言葉を囁いてくれる存在でさえあればいいという、大変に素直で幼い性格をしている。

 いくら姿かたちが優れていても、あれは人の上に立つには不適格だ。


「あの候補者たちがそこまで分かっていて王女を篭絡しようとしているのか、あるいは揃いも揃って恋に狂っているだけなのか」

「……兄上、そんな顔してもおれは()()ですよ。皆の前で辞退したんですから」


 今さら撤回できませんよ。

 きっぱりはっきりと断る弟王子に、国王は口をへの字にゆがめた。

 やがて机の上に行儀悪く肘をついて、はあーとため息をつく。


「わけがわからん。王女は、お前のことをいちばん気にかけていただろう」

「いちばん寄って来ない候補者だから逆に気になっていただけでしょう」


 あの“婚約破棄”の現場で、王女もそれらしいことを言っていた。

 それにだ。


「おれは“王殺し”ですからね。オーソクレーズに留まらないほうがいい」


 この言葉には国王が渋い顔つきをする。

 サヴィア王国軍がオーソクレーズの王宮にまで攻め込んだ時。オーソクレーズの前国王が命を落としたのは事実だ。

 しかし。


「踏み込んだときに勝手に死んだんだろう。お前が殺したわけじゃない」

「サヴィアが攻めてきた。オーソクレーズの王が死んだ。これは事実ですよ」

「根拠のない噂ぐらい否定したらどうだ」

「原因がないわけでもないでしょう」


 サヴィア王国軍を率いていたユーグアルト・ヴェガ・サヴィアがオーソクレーズの王の命を奪った。

 そんな噂が流れても、本人とその周囲はあえて否定して来なかった。


「………真実のほうが嘘くさいのは認める」

「ちょっと公表できない、というかしたくない死に方でしたからね」

「話を聞けば当然の末路とも思うが。少なくとも、あちらの国民は信じたくないだろうな」


 国王は机に突っ伏したまま、ちらりと弟王子を見上げた。


「おまえ、実は読んでいただろう」

「オーソクレーズを落とした後、戦後処理の担当官がなかなか派遣されてこない時点で妙だなと思いましたね」

「……親父が死んでから間もない。使い物になる臣下だってまだまだ少ないんだぞ」


 恨みがましい視線にも、ユーグアルトはしれっと目を逸らすだけだ。

 兄王のために働くつもりはあるが、一国を背負うつもりはない。

 野心にあふれた者はたくさんいるのだから、彼らに任せてみればいいのだ。


「……あんな騒ぎになったんだ。しばらくはこの王宮から離れてもらわねばならないかもしれんぞ」

「オーソクレーズの王女の伴侶が決まるまで、ですかね。願ったり叶ったりです」

「………なあ、ユーグ」


 ふと、王ではなく兄の顔になったサヴィア国王ウォラスト・エディリンは呟く。


「冗談ではなく、ほんとうにお前ももう落ち着いていい頃だと思うんだ。オーソクレーズの件はともかくとしてだ」


 兄がこんなことをユーグアルトに言い始めたのは、父王が亡くなってからだ。

 いままでそんな気分にはなれなかったし、なにより暇がなかった。

 加えて彼らの父親は息子の恋人だろうと正妻だろうと平気で奪い取ろうとするほどの好色家だった。とても誰か異性を傍に置こうという気になれなかったのだ。


「誰か気になる女性はいないのか?」


 おせっかいにも、顔を合わせればこんな事を聞いて来るのは、単純に父親という脅威がなくなったからなのだろう。

 あるいは王が信頼を置く独身の弟王子と縁を結びたいという者たちから、彼のところにも話が来ているのか。

 オーソクレーズ王女の婚約者候補を外れれば、今度はそちらに煩わされるのかもしれない。

 しかし。


「あいにく、まだそんな気にはなれませんので」


 そう答えたユーグアルトは、苦笑を浮かべるだけだった。








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