未練、でしょうか。
「そうですね。アップルトン侯爵としては、あの感染症が違法闘犬場で発生し、とんでもない借金を負うことになりました。違法賭博で取り戻そうとして、それにも失敗し、さらに借金を増やしています。もう後がなかったので、建国祭のためにこの国へ来たわたしに、これまで以上に執拗に迫ったのでしょう」
「アップルトン侯爵令嬢によると、ターナー帝国から皇太子と皇女が来ると知ると、アップルトン侯爵はこう命じたそうです。『もしターナー帝国の皇太子と婚約できないと、我が家は終る。爵位は剥奪、財産は没収され、一家離散だ。お前もどこかで下女として働くしかないだろう。そうなりたくなければ、なんとしても皇太子の心を掴め。お茶をする機会を得たから』と」
ポマードがそう言ってセシリオを見ると、彼はため息をつきます。
「わたしがお茶会に応じなければ、シェリーヌ公爵令嬢は、犬に襲撃されずに済みましたよね……」
「そんな! アップルトン侯爵はもう追い詰められていましたから、セシリオ皇太子様がいくら断っても執拗に娘と会うよう迫ったと思います。逃げ切ることは、できなかったのではないでしょうか。……いざとなったらセシリオ皇太子様を、拉致しそうな気がします。よってそこは気になさらないでください」
私が懸命にフォローすると、そこはポマードもシャールも同意を示してくれる。
「自分もシェリーヌ公爵令嬢の意見に同意です。アップルトン侯爵なら、どんな手を使っても、セシリオ皇太子殿下と自身の娘を会わせたと思います。それはお茶会という場ではなくても、パレードの観覧や舞踏会、花火大会と、建国祭ではチャンスが沢山ありましたから」
ポマードがそう言うと、シャールがビシッときめてくれます。
「セシリオ皇太子殿下のお気持ちは、よく分かります。ですがもう過去には戻れません。殿下の采配もあり、黒幕であるアップルトン侯爵は捕まり、アップルトン侯爵令嬢も、今は幽閉の身です。悪の芽は摘むことができました。殿下がこれ以上、過ぎた件を悔やむ必要は、ないと思います」
シャールの言葉に、セシリオの口元が緩みます。
「シャール殿は頼もしいですね。これならソフィーのことを、安心して任せられます」
セシリオの言葉に、シャールとソフィーの頬がぽうっと赤くなりました。
実はこの二人。
当然といえば、当然ですが、婚約の話が浮上しています。
本の趣味も合いますし、プリンス&プリンセスみたいで、二人は実にお似合いに思うのです。二人の結婚式にはぜひ出席したいですね。結婚式はなんだかんだで何度も出席しましたけど、孫の花嫁・花婿姿を見ることができなかったのは……。そうですね。未練、でしょうか。見たかったなぁという気持ちはあります。ひいき目かもしれません。ですが孫は可愛いし、ハンサムさんだったと思うのです。きっと花嫁衣裳も花婿衣装も似合ったと思うんですよ。
つい、感傷的な気持ちになってしまいますが。
レオンハイム公爵とターナー帝国の皇帝との間で、今、書簡のやり取りが進められているそうです。そこには国王陛下も加わっており、近日中に二人の婚約は、発表されるのではないでしょうか。
やはり建国祭記念舞踏会の最初のダンスのジンクスは、本当なんですね。自分の身近なところで目の当たりにできると、俄然信憑性が増します。
その件はさておき。
これで事件は解決、でしょうか。
今回は乙女ゲームのイベントでもないのに、事件が発生して驚きました。ですが犯人は逮捕されたので、一安心です。
そこでふと、舞踏会で対峙したアップルトン侯爵令嬢のことを思い出します。
アップルトン侯爵令嬢は……父親との共謀があったのでしょうが、きっと心から好きだったのでしょうね、セシリオのことを。セシリオはどう見たって、素敵な王子様ですから。ストーカーのような行動をとらず、私への意地悪などせず、気持ちに余裕がある状態で、少しずつセシリオと距離を縮めることができたら……。もしかしたらうまくいったかもしれません。
でもこれもそれもすべて「たられば(もし~していたら、もし~していれば)」の話です。そういう未来は既に閉ざされてしまいました。悲しいことですが。
「では報告、長々となりましたが、以上となります」
ポマードが背筋を伸ばし、セシリオにそう告げます。
するとセシリオは「ありがとうございます。ポマード隊員」と微笑みました。
「今日はお集まりいただき、ありがとうございました。ポマード隊員、報告書にサインをするので、執務室へ同行をお願いしても?」
「はい、セシリオ皇太子殿下」
「ソフィーは一旦、わたしと一緒に執務室へ戻ろうか。シェリーヌ公爵令嬢のエントランスまでの見送りはシャール、君にお願いしてもいいですか?」
「はい、承知いたしました、セシリオ皇太子殿下」
こうして全員、席から立ち上がります。
宮殿内で待機していたリリーさんとシャールの従者も姿を現し、解散となりました。























































