さしたひかり。
「ごめんね、うちが頼りなくて」
「べ、別にあたし、そういう風に言ったわけじゃ……」
「いいよー、どーせうちがおばかで先輩らしくないのは変わらないもん」
いじけたいわけじゃない、こういう気持ちでデートしたいわけじゃない。でも、そのまま受け入れられるくらい、オトナにはなれない。
こういうんだから、子供っぽいなんて思われちゃうのに。どんどん、奥底にはまってく。どろどろの足場で、脚が動かなくなる。こういう雰囲気にしちゃうの、きっとダメなのに。立ち込める雲を払うのに、どうしたらいいのかなんてわかんない。
「んもう……、先輩、別にそれが悪いって言ってないんですから」
「でも、そのほうがいいってわけじゃないでしょ?」
「そんなんじゃないっすよ、……あたし、だって……」
顔を赤く染めて、それを隠そうとほっぺで包んで。……やめてよ。そういうとこ見たら、許しそうになっちゃうから。こんなんじゃ、さっきまでと同じまま。踏み出したいけど、そこまで素直に言えるほど、うちもオトナにはなれない。
「だって、って何さ」
「い、言わないっすよ、……恥ずかしいから」
「えー?……言ってくれなきゃ、プール行くの、無しにしよっかな」
「ま、まま待ってくださいよっ」
慌てたような顔を見て、なんかほっとする。このままじゃダメなんだって、向こうも思ってるみたいで。
進みかた、まだわかんないから、時には引っ張られて、時には背中を押して。そうしないと、きっと一歩も動けない。もやもやして、ぶつかって、……そのまま、離れるのは嫌。だから、今回は、うちが背中をどんって押す番、なのかな。
「じゃあ言ってよ、うちのこと、どういう風に思ってるの?」
「それは……、だから、」
耳元に口を寄せて、かすれかけた声。息がかかって、身が飛び上がりそうになる。囁く声は、妙に甘ったるい。
「志乃先輩だって、ちゃんと頼もしい先輩ですよ、そりゃ、由輝先輩とは違う意味ですけど」
「じゃあ、それってどういうこと?」
「それは……、ルームメイトになったときのこと、覚えてますか?」
「うん、有里紗ちゃん、がっちがちだったよねぇ」
種目が全然違うって言っても、おんなじ陸上部だったし。走りとかはなんとなく見てたけど。長い髪をたなびかせてどこまででも走っていけそうで、ちょっと羨ましいなって思ってたのに。……実際会ってみると、その分も全部「かわいい」に変わってた。真面目なんだけど、そのせいでガッチガチになってて、思わず笑っちゃいそうになるほど。
「でも、先輩っていきなり全部晒してくれて、いつの間にか巻き込まれてて……、いつの間に、仲良くなってましたよね」
「そうだったね、なんかずっと前から友達だったみたいな感じ」
基本的にノリがよくて、走るのが好きって共通点もあった。でも、そういえば、出会ってから半年も経ってないんだよね。なんか、くすぐったいや。いつの間にか、こんなに大事な人になってたんだなって。
「あたし、あの時からずっと先輩に引っ張られてますよ、……こういう関係になったのも、先輩のおかげですし」
「えへへ、……いいよ、もう。こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃん」
ほっぺが熱くて、つっちゃいそうになるくらい。ちょうどいいとこに、降りる駅のアナウンスが入る。有里紗ちゃんのほうを見ると、やっぱり、顔が真っ赤。暑さのせいじゃないことなんて、はじめから分かる。
「ほら、行こ行こっ?」
「もー、そんな焦んなくたっていいっすよっ!?」
手を引っ張って、ドアの前まで。心に掛かった雲は、ほっぺの熱で簡単に晴れてった。




