表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第11話 深淵の穢れ

(お前は何をやっても立ち行かぬな! ワシの失敗は、お前を神が与えた世界に生んだことだ!!)


(王位を長男へ継承するはずだったが、流行り病で召されるとは……残った愚息に次の王座を継がせるのは、失態だ)


(断じて移民や難民を受け入れてはならぬ。他の人種が我らが持つ、高潔な民族の血を汚すのだ!)


 これは王子の負の思い出。

 亡くなった先代の王である父、兄との確執、それらによって積もった恨みで満ちている。


(もう嫌だ! こんな生き方を望んだ訳じやまない! 僕の人生はどこにあるんだ?)


 この思い出は、王子の物か?

 心の闇が深く浸透している。


(父上がいなくなれぱ、僕は自由だ。それどころか、城の物も、財産も、国すら僕の思いのまま。父上さえいなくなれぱ……)


 いかん、深淵まで覗いてしまった。

 客の知ってはならぬ秘密。

 最も穢れが強い思念だ。


 次に、傀儡くぐつのような不気味な声と、王子の会話が刷り込まれる。


(この毒は毎日、少しすつ口にする物へ混ぜれば、段々と相手を弱らせ、ある日突然、目を覚まさなくなる。証拠は何も残らない)


(代金はこれで充分か?)


(しかとお預かりしました。にしても、次期王たる貴方様が、こんな無粋な(おこな)いをされるとは……まぁ、長い付き合いになりそうですな)


(図に乗るな下卑た者よ。貴様は、この神の国に相応しくない。余が然るべきたみを選定するのだ)


 風が切り裂く音と共に肉が切られる。

 おそらく闇商人は首を剣で切られ、叫ぶことなく悶え苦しみ、息絶えたようだ。


 我に返り作業が中断。

 私は頭を抱えて、しばし考えにふける。


 ――――なんてモノを見せやがる。

 次期、王がこんな邪悪な事をしていたとは……。

 これは国を揺るがす大事件だ。

 しかし、穢れに含まれる残留思念は、法廷での証拠にはならない。

 王子や私の頭の中を、他人に見せることが出来ないからだ。


 何より研魔職人の世界では、顧客の知り得た秘密は、この世の終わりまで公言してはならないという、鉄の掟がある。


 大浴場の外が騒がしい。

 宰相が狂った牛のように叫びながら入って来た。


「ダーケストよ! 王子の身体が冷たくなっておる! 早く、早くなんとかせい!!」


「作業中は入ってくるんじゃぁねぇ!!」


「なんだとぉ!? 黙って聞いておれば、図に乗りおってぇえ!!」


大浴場(ここ)は飛び散った穢れで満たされている。アンタも穢れに当てられて、心が狂っちまうぞ? とっとと出てけぇえ!!」


 苦渋の顔で宰相は出ていく。

 とはいえ、状況はかんばしくない。

 窓へ視線をやって太陽を確認する。

 すでにお天道様は山に隠れ、空は赤く染まりつつある。


 時は刻々と迫っている。

 職人としてやるべきことをせねば。


##


「どいた、どいたぁあー!!」


 燦々と輝く巨大な原石を抱え、城内の廊下を疾走する。

 この策に欠点があったことを、今さらになって気がついた。

 作業場を工房から大浴場へ移したことで、王子の自室までの距離が離れた。


 もう太陽は山の谷へ沈み、わずかな赤い空を残すだけとなった。

 一刻の猶予がないとはこの事か。


 それでも、魚人の脚力でそれを補い、風前の灯火となった王子の元に到着した。

 宰相が気を利かせて王子の自室を開けたままにしたのは正解だ。


 これで、仕事は終わ――――。


 普段、上質な絨毯の上を走るなどしないゆえ、足を滑らせた。

 胸に抱えた大きな原石が弧を描きながら、宙を舞う。


 しまったぁあー!?


 心の原石を床に落として割ってしまえぱ、王子は二度と目を覚まさない。

 この場にいる宰相や大臣、守衛を含め皆、地に引かれる原石に注目し、同じく絶望を味わう。


 だが、研魔術を舐めるなぁぁああー!!


 私は転びながらも片手をかざし、原石へ魔力を集中させる。

 原石は床へ落ちる直前で落下が止まり、バッタのように跳ねた。

 

 跳ねた原石はそのまま王子の胸へ突き刺さる。


 勿論、誰もがその光景にカエルが飛び上がったような驚きをした。

 原石が当たった王子の胸は陥没し、どう見ても心臓まで潰れいてる。


 だが、次に起きたのは奇跡。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ