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第一章 騎士団対抗・武術大会



 よく晴れた春のある日。

 マリーは黒騎士団の一行とともに、王宮中にある広場を訪れていた。騎士団の大きな式典や槍試合などが行われる場所である。


「すごーい……。騎士の人がこんなにいっぱい……」


 今日はそこに、騎士服をまとった男性がたくさん集まっていた。着ている衣装のデザインは黒騎士団のものと同じだが、それぞれ赤と青、白の生地で出来ている。緊張した様子で周囲を見回すマリーを見て、ミシェルが小さく微笑んだ。


「今日は年に一度の『騎士団対抗・武術大会』だからね」

「騎士団対抗、武術大会……」


 聞くところによると、ここアルジェントでは毎年春先に、各騎士団が己の武術を競い合う大会が行われるらしい。『王の剣』を決める投票にも大いに関係し、ここで良い成績を収めた騎士団はより有利にスタート出来るというわけだ。

 去年、マリーがこの世界に転生した時期にはすでに終了していたので、実際に目にするのはこれが初めてである。


「武術大会といっても、お祭りみたいなものかな。観客もいっぱいいるし」

「ほんとだ……」


 あらためて辺りを見ると、広場の周囲には多くの市民たちの姿があった。白騎士団推しなのか、お揃いの白いリボンをつけた令嬢たち。凛々しい騎士の佇まいに目を輝かせている子どもたち。一方で昼間から酒を手にしている男性もいる。

 遠くの店先ではなにやら硬貨や紙幣が取り交わされており――おそらく大会の成績で賭けでもしているのだろう。

 そこまで観察を終えたところで、マリーはミシェルに尋ねた。


「去年はどうだったの?」

「きょ、去年はその……。ユリウスが入院していたり、ヴェルナーが二日酔いで散々な結果だったりで、実は全然……」

「あらら……」


 しょんぼりと肩を落とすミシェルを見てマリーは苦笑いする。だが彼はすぐに顔を上げると、気合を入れるようにむん、と両手を握りしめた。


「だから今年こそは頑張らないと! ここで活躍すれば『王の剣』に一歩近づけるしね」

「うん、頑張ろう!」


 するとマリーたちのもとに赤と青、それぞれの騎士服を着た二人の男性が近づいてきた。

 赤い騎士服の男性は大柄で短く刈った金の髪にオレンジ色の瞳が印象的だ。一方青い騎士服の男性はやせ型で青みがかった灰色の長髪を後ろで一つに結んでおり、ふちの細い眼鏡をかけている。

 二人は黒騎士団を先導していたユリウスの前に立ちはだかると、一方はにかっと、もう一人はにやっと笑った。


「よおユリウス! 今年は入院しなくて良かったな!」

「ふっ、僕の青騎士団に恐れをなして逃げ出したのかと思ったぞ」

「ガイ、エーミール……」


 眉間に皺を寄せたユリウスがうんざりした様子で二人を睨み返す。それを後ろから見ていたマリーは隣にいたミシェルにこそこそと耳打ちした。


「あの方たちはいったい……」

「他騎士団のリーダーたちだよ。そういえば、まだちゃんと説明していなかったね。あのあたりにいる赤い騎士服の人たちが赤騎士団。『筋肉はすべてを解決する』がモットーで、任務や鍛錬の時間以外も暇さえあれば筋トレしてるんだって」

「へえー……」


 ミシェルの指し示す先には赤い騎士服を着た男たち――赤騎士団の面々が立っていた。

 みな筋骨隆々の偉丈夫ばかりで、二の腕は揃って丸太のようだ。そういえば前回『王の剣』に選ばれた際も、自慢の肉体美を見せつけるかのようにさまざまなポーズを取っていた気がする。

 マリーが驚きとも興味ともとれる視線を向けていると、今度は青い騎士服の一団をミシェルが振り返った。


「で、あっちが青騎士団。『武術と魔術の融合』を目標に掲げていて、騎士団の中でも特に魔術の鍛錬に力を入れているところだよ。たしか、全員が『中級』以上を取得するように言われてるんじゃなかったかな」

「なるほど、文武両道って感じね」

「ブンブリョードー?」


 先ほどの赤騎士団から一転、青騎士団にはすらりとした体形の騎士が多かった。

 眼鏡をかけている者や、長い髪を片側で三つ編みにしている騎士などもおり、何やら難しい魔術の理論について額を寄せて話し合っている。

 最後にミシェルが、白い騎士服の集団を目で追いかけた。


「そしてあれが白騎士団。こことは一度会ったことがあるよね?」

「うん。たしか、クロードさんがいる……」

「そうそう。騎士団の中でも特に選ばれたエリートたち、って感じかな」


 説明を受け、マリーはあらためてそれぞれの騎士団員たちを見比べる。開始の合図を待ちながらがやがやと待機している姿は、なんだか舞台袖で出番を待つアイドルグループのようだ。


(テレビって映っている部分は華やかなんだけど……。楽屋とかスタジオ前の廊下とか、結構バタバタしてるのよね……)


 前世の懐かしい記憶が甦り、マリーは腕を組んで「うんうん」と頷く。そんななか、ガイと呼ばれた赤騎士団のリーダーがミシェルの方を見て「おお!」と目を見開いた。


「ミシェル! 元気してたか?」

「はい。ガイさんもお元気そうで」


 のしのしと近づいてきて、ミシェルの背中をバンバンと叩く。ミシェルもそれなりに身長はある方なのだが、ガイを前にすると完全に年の近い親子のようだ。


「相変わらず小せえなあ。ちゃんと肉食ってんのか?」

「食べてはいるんですけど、なかなか……」

「騎士の基本は体だからな! しっかり食ってデカくならねえと!」


 ガイは「がっはっは」と豪快な笑いを浮かべたあと、列の後ろの方で隠れるようにしていたルカに気づき、他の騎士たちを押しのけて接近した。


「ルカ! 久しぶりだなあ、まさかほんとに騎士になっているとは」

「はあ……」

「魔術師団とは違って、騎士団の仕事は体力いるだろ? そんな細い体じゃ、すーぐ倒れちまうぞ? 今度赤騎士団に顔出せ。お前にあった筋トレメニュー考えてやるから!」

「ウッザ……」

(ひいいい……!)


 過去最大級のルカのぼやきが聞こえてしまい、マリーは思わず額に汗を浮かべる。言っていることは一理あるし、悪い人物ではなさそうだが、どうやら場の空気というものはあまり読まない人物のようだ。

 ガイがミシェルやルカに絡んでいる一方、ユリウスの前に立っていた青騎士団のリーダー・エーミールは眼鏡を押し上げながら「くくっ」と怪しげに笑った。


「覚悟しろユリウス。今年こそ完膚なきまでにお前を叩きのめし、ぼくの前で泣きながら膝をつかせてみせるからな!」


 そのまま挑発するようにびしっとユリウスを指差す。だがユリウスは眉の位置一つ動かすことなく、伏し目がちに淡々と答えた。


「好きにしろ。うちはただ全力で戦うだけだ」

「くっ……!」


 実にあっさりとしたユリウスの対応に、エーミールがぎりりっと唇を噛む。なんだか険悪な雰囲気を感じ取り、マリーはそれとなくミシェルの袖を引っ張った。


「あの二人、仲悪いの?」

「うーん、正直いつもあんな感じなんだよね。二人とも、騎士学校の同期って言ってたはずなんだけど……」

「騎士学校?」


 するとひそひそと内緒話する二人の肩を、いつの間にか背後に来ていたヴェルナーががばっとまとめて抱き寄せた。そのまま二人の間に顔を突っ込むと、ニヤニヤしながらユリウスとエーミールの方を見る。


「騎士学校はね、貴族が騎士になるために入る養成所だよ」

「騎士になるための学校……」

「そう。で、さっきミシェルが言った通り、あの二人は同級生なんだけど……ユリウスがいっつも成績一位で、エーミールの奴が二位だったんだよねえ。そのうえユリウスがあんな調子だから、エーミールが妙に突っかかるようになっちゃって」

「く、詳しいんですね」

「まあ一応、オレもあの二人とは同期なんで」


 どうやら昨日今日に始まった喧嘩ではなく、若き学生時代からの確執があるようだ。複雑な表情のマリーたちをよそに、ヴェルナーはさらに続ける。


「まーでも、ユリウスを敵対視している理由はそれだけじゃなくて――」

「聞こえているぞヴェルナー!」

「ひいいっ」


 突然怒鳴り声が割り込んできて、マリーは慌てて前を向く。そこでは憤慨した様子のエーミールがヴェルナーを睨みつけており、苛立ったようにまたも眼鏡の位置を正した。


「言っておくが、ぼくはお前のことも大っ嫌いだからな!」

「はいはい。なにせ片思いしてた相手がのきなみ、オレのファンになっちゃったもんね~」

「くっ……!」


 へらへらと笑い返すヴェルナーを前に、エーミールがぐぐっと奥歯を噛みしめる。それを見たヴェルナーはマリーの方を向き、さらに真相を暴露した。


「まあ簡単に言うと、当時付き合っていた彼女をユリウスに取られただけなんだけど」

「ヴェルナー!」


 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、エーミールはつかつかとこちらに歩み寄り、自分より身長の高いヴェルナーの胸倉を摑んだ。こめかみに青筋を浮かべたまま、そのままぎりぎりとヴェルナーを下からねめつける。



 

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