浜松城攻防戦③〜守る側は気を抜けず〜
家康達が全員到着し、場内は安堵の空気になったが、武田の追撃軍に包囲されると、その空気は一掃された
夜中とはいえ、いつ武田軍の攻撃が始まるか分からない恐怖。それが城壁を守る兵達の緊張感を高めていた
そんな兵達と同じく緊張感のある軍議が大広間で行われていた
「先ずは左衛門尉よ。儂等が戻るまで兵達を叱咤してくれた事、感謝する」
「殿。有り難きお言葉にございます。されど、およそ一万四千で出陣して戻れたのは三千程とは。やはり野戦における武田は」
「強かった。それだけでなく、策に嵌められた。いや、最初から信玄坊主の手のひらで踊らされていた。儂のせいで、大切な家臣達が」
「殿。こうして生きて戻れたのは家臣達が命をかけて殿をお守りしたからこそ。それならば今は城を包囲している武田を撃退する事を考えましょう」
「ぅむ。そうじゃな。ところで左衛門尉よ、現在の我々と武田の軍勢はほぼ同数と見てよいか?」
「はい。服部殿の家臣からの報告では武田は五千。そして殿達と城に残っていた我々を合わせると四千五百程になります」
「「城攻めは守る側の三倍の兵をもって攻めよ」の定石どおりなら我々の負けは無いはずじゃが、相手は武田じゃからな。水の手を守る兵を配置しておるが」
「殿。今は冬です。外の武田の方が状況的に辛いはず。我々は無理に出る必要は無いかと」
「拙者もそう思います。それこそ三方ヶ原に居る残りの武田次第な所は有りますが」
「平八郎も小平太も籠城か。他の者は?」
忠勝と康政以外にも家康は聞いたが、全員籠城策だった。三方ヶ原で戦っていない者も籠城に決めたのは、やはり家康達の顔を見て「武田は強く恐ろしい」と実感したからであった。




