三方ヶ原の戦い⑤〜終戦と撤退〜
撤退を決めた家康は馬に乗ろうとしたが、その家康に1人の家臣から
「殿!某が殿の影武者として、この場に残りまする!なので鎧を」
「な、夏目よ!何を言っておる?」
家臣の名は夏目広次吉信。かつて家康と敵対していたが、それでも徳川家に戻る事を許してくれた家康に恩義を感じていた
「殿!某はかつて敵対していたのにも関わらず、徳川家に帰参する事をお許しいただいた事、どれ程の奉公を行なってもお返し出来ませぬ。ならば!殿が生きて城に戻る為に、この命を持って殿をお守りさせていただきたいのです!なので殿、鎧を某に」
夏目は伏して家康に懇願していた。
どう考えても間違いなく死ぬ。本陣に居た誰もがそう思っていた。しかし、「命を持って家康を守る」と言った夏目の覚悟に何も言えなかった。
そんな中、家康は静かに鎧を外しだした。そして、
「儂が不甲斐ないばかりに。済まぬ」
侘びながら夏目に着けてあげた
「殿。本多殿や榊原殿は勿論、服部殿も、そして城に居る酒井殿や他の方々も、殿の栄達の為に欠かせないのです。しかし、そこに殿が居なければ全て無駄になってしまうのです!だからこそ、例え泥に塗れようとも生きてくだされ!」
「夏目」
「殿。撤退してくだされ。殿が見えなくなりましたら、撤退の合図を前線の皆に知らせます。これにて今生の別れにございますが、殿の家臣にしていただき、某は幸せでした」
夏目の言葉を聞くと家康は、半蔵他数名と共に撤退した。ある程度の距離までは馬で行ったので早い段階で家康の姿は見えなくなった
それを確認した夏目は
ドーン!ドーン!ドーン!
撤退の合図を出した。その合図をきっかけに徳川軍は逃げる。と思われたが、逆だった。むしろ、武田に向かって行った。その中から馬に乗ってこちらに来る2つの人影があった。よく見ると、1人は本多忠勝、もう1人は榊原康政だ。2人の顔は疲労困憊だった。そんな状態でも2人は家康を守る為に本陣まで下がっていた
本陣まで来たところで忠勝が気づく
「お主、殿ではないな!」
忠勝は距離を取って名槍蜻蛉切を構える。
そんな忠勝の誤解を解く為に夏目は面を外す
「な、夏目殿?では殿は?」
「少し前に撤退していただいた。某は自ら殿の影武者になる事を志願し、殿から鎧を譲り受けたのじゃ」
「な、なんたる覚悟。ならば我々も残り」
「それはなりませぬぞ!本多殿と榊原殿は、これから先の殿の栄達に必要なのです。ここは某達で時を稼ぎまする。二人は殿の元へ」
そこまで言われて残るのは、夏目に対して失礼だと思った二人は
「夏目殿!御武運を」
「夏目殿の覚悟、見事にございます」
自分なりの言葉をかけて撤退していった。
二人が見えなくなると夏目は出せる限りの大声で
「我こそは徳川三河守家康なるぞ!武田の者ども!我が首欲しくば、かかってまいれ!」
家康である事を叫び武田の兵達が自分に来る様に仕向けた。そして手柄欲しさに殺到してきた百人以上の足軽達を相手に槍を振るったが衆寡敵せず、
あっという間に四方八方から槍を刺されながら絶命した。
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