本来の目的の事前準備と本番
信長が伊達家一同に「10年以内に陸奥国を統一しろ!」と凄まじい命令を出した日の夜。六三郎は伊達家の中枢に呼ばれて大広間に来ていた
「伊達殿。そして各々方。拙者に何か聞きたい事でもあるのですかな?」
六三郎がそう質問すると、答えたのは
「柴田様。此度は拙者が無理を言って、兄上達に柴田様をお呼び出ししたのです」
明日、元服する小次郎だった。その小次郎が話す前に、兄で当主の政宗から
「柴田殿!前置き無しで話すが、右府様から教えていただいたのじゃが、武田勝四郎殿から元服後の仮名や諱について相談を受けて、
最終的に決断させたそうじゃな!そこでじゃ!明日、元服する小次郎の元服後の仮名や諱についての意見を聞かせてくれぬか!」
六三郎を呼び出した目的が伝えられる。伝えられた六三郎は
(ええー?勝四郎くんの場合は、長い付き合いがあったし、江が嫁いで義弟になるし、親父さんの勝頼の事も少なからず知っていたから、
多少のアドバイス的な事は言えたけど、小次郎くんに関しては、長い付き合いもないから、何をどうアドバイスしたら良いのかも分からないのだが?)
勝四郎の時と違い、情報が少ない中でのアドバイスにかなり悩んでいたが、どうにかして絞り出したのが
「拙者の意見がどれだけ良いかは分かりませぬが、出来るかぎり、やってみましょう。先ず、伊達殿と小次郎殿
伊達家の元服後の仮名は必ず3文字で「次郎」と付ける習わしでよろしいのですかな?」
「仮名は3文字で次郎とつけないとダメなのか?」だった。その質問に政宗は
「そうですなあ。拙者の父も祖父も曽祖父も、その上の世代も当主は勿論、当主でない男も次郎がついた三文字でした。そして伊達家の通字として、
諱の下には必ず「宗」の字を使います!それを踏まえて柴田殿!何か良き案を出してくれぬか?儂は勿論じゃが、四人の中で一番賢い小十郎ですら考えがまとまらぬのじゃ!」
紙に字を書きながら、六三郎へ伊達家の名前のルールを説明した。その説明を受けて六三郎は
(これで、大殿の「長」の字や俺の「勝」の字を使わせたら、面倒くさいお家騒動に発展する可能性が少なからずあるからなあ
これは小次郎くんが、伊達家をどうしたいのかを聞いて、そこら辺で使えそうな文字を提案してみるか)
小次郎の気持ちを聞いてみる事にした
「のう、小次郎殿。これからの伊達家は、小次郎殿の兄であり主君でもある藤次郎殿が引っ張って行き、発展させ、
最終的に陸奥国を統一するという壮大な目標に向かい、一致団結しておるわけじゃが、その伊達家において小次郎殿は、どの様にありたい?胸の内を申してくれぬか?」
六三郎の言葉に小次郎は
「拙者は、兄上の様な器ではない事を理解しております。ですが、それでも兄上を補佐しながら、伊達家が更なる高みを目指す一助になりたいと思っております」
しっかりと本音を話してくれた。小次郎の本音を聞いた六三郎は
「今の小次郎殿の本音の中に、お勧めの文字が幾つかありました。今から言いますので、藤次郎殿、書いてもらえますかな?」
政宗に「言葉にするから書いてくれ」と頼むと、政宗は
「小次郎の言葉を聞いただけで、そこまで行けるとは!やはり、常人とは賢さが桁違いですな!それでは柴田殿!どの文字がお勧めなのですか?」
興奮しながら、筆を準備すると、六三郎から
「では先ず、「高みを目指す」の「高」、そして、「一助になりたい」の「一」と「助」の3つが拙者がお勧めする文字です。小次郎殿の本音を聞いて、それを仮名と諱に使うのも、悪くないと思いました」
「高」と「一」と「助」が候補だと告げられる。それを聞いた小次郎は
「柴田様。仮名も諱も、「これが良い」と思える物が見えて来ました!」
候補が決まった様だった。それを聞いた六三郎は
「小次郎殿、目一杯悩みなされ。拙者が提案したからと言って、必ずしも仮名と諱につけなくても良いのですから。ああでも無い、こうでも無いと悩んで決めたらよろしい」
そう言って、即決させない様にすると
「それでは各々方。熊退治で疲れたので、休ませてもらいたいのじゃが、よろしいかな?」
「疲れたから休ませてくれ」と頼む。それを政宗は
「いやはや、疲れている所を申し訳ない。今日は休んで、明日の小次郎の元服の儀を楽しみにしてくだされ」
了承した。政宗の言葉を受けた六三郎は
「忝い。それでは失礼する」
礼をして、大広間を出て行った。六三郎が出て行った後も、大広間では4人が仮名と諱の事で話し合っていた
そして本番当日
天正二十二年(1594年)十二月三日
陸奥国 伊達家屋敷
「これより、小次郎様の元服の儀を初めて参ります!」
進行役の景綱の挨拶から、元服の儀がスタートする。信長も六三郎も烏帽子親などの重要な役割は無く、静かに出席しているだけだった
そして、最期に元服後の仮名と諱を発表する時になると小次郎から
「それでは皆様、拙者の新たな名ですが、この名に決めました」
挨拶と同時に披露した紙には
「伊達隆次郎助宗」と書いてあった。その文字を見た信長は
「小次郎改め、隆次郎よ。その仮名と諱を選んだ理由を、教えてくれるか?」
勝四郎の時と同じ様に、名付けについて質問する。信長の質問に助宗は
「はい。前日に柴田様も交えて、良いきっかけにならないかと話し合いをしていただいた所、柴田様より、拙者の胸の内の言葉を使っても良いのでは?と言われまして
それを聞いた拙者は、これから陸奥国を統一し、伊達家の隆盛を築いて行こうとする兄上を助けられる武士になりたいと思い、この仮名と諱にしました!」
堂々と説明した。助宗の言葉に信長も
「うむ!当主でもある兄を助け、伊達家の隆盛を共に築いて行こうとするその覚悟が刻まれた名と言うわけか!見事じゃ!」
助宗を褒め称えた。信長の言葉の後、大広間は万雷の拍手が鳴り響き、母の義姫は言葉が出ないほど、号泣していた
そんな中で、六三郎も拍手をしていたが、
(高みの高を、隆盛の隆の字に変えたのか。まあ、覚悟が刻まれた名前なんだから、とやかく言うのも野暮だ!小次郎くん改め、隆次郎くん。元服おめでとう!)
内心、文字が変わった事に少し驚きつつ、それでも精一杯の祝福をしていた。これから自分の社畜仕事がある事を忘れる程に。




