農業改革中に伊達家が到着すると
天正二十二年(1594年)十月五日
常陸国 某所
「やっと水戸城まで、五里ぐらいの距離になったのう。小次郎!佐竹家に渡す詫び用の銭は大丈夫じゃな?」
「はい。兄上が仰っていた「一貫くらいくれてやれ!」の言葉どおり、一貫は準備して来ました」
六三郎が水戸城周辺における農業改革に励んでいる頃、伊達家の面々は水戸城まで残り約20キロぐらいの距離に来ていた。そんな中で政宗は、
前年の無断通行の事を反省したのか、それとも責められたくないのか、勝手に常陸国に入った詫び料を持参して来ていた
そんな政宗に景綱は
「殿、ちゃんと丁寧に右府様と柴田様に来ていただく様、頼むのですぞ?いくら殿と右府様や柴田様が共に戦場に立ったとはいえ、頭を下げるべき場所では」
政宗が2人と顔見知りだからと言う理由で、フランクに接するのではと不安になっていた
そんな景綱に対して成実は
「片倉殿、そこまで心配せずともよろしかろう!殿の振舞い以上に心配すべきは、佐竹家が右府様と柴田様を手放さない可能性でしょう」
佐竹家が2人を手放さない可能性を示唆する。2人のやり取りを聞いた小次郎は
「まあまあ、小十郎殿も藤五郎殿も。そうならない為に、今から佐竹家に頭を下げるのですから。兄上、しっかりとお役目を果たしてくだされ」
そうならない為に、政宗に発破をかける。その政宗は
「分かっておる。じゃが、何故か右府様よりも柴田殿が喜び勇んで伊達家に来てくれる予感がするのじゃ」
まるで六三郎の社畜労働を知っているかの様な予想を告げる。そんな政宗の言葉に3人は
「「「主君を放ったらかすのは流石に無いかと」」」
思わず同じタイミングと同じ言葉でツッコミを入れていた。そんな4人を中心とした伊達家100名は、水戸城を目指して進む
そんな伊達家一行が近づいている事を知らない六三郎は
翌日
常陸国 水戸城
「柴田様!柴田様が教えていただいた、水車の横に作った小屋で麦を粉に引ける様にしたのですが」
皆さんこんにちは。農業改革も一段落したので、伊達家へ出立する準備に取り掛かっていたら、佐竹家の嫡男の次郎くんに呼ばれました柴田六三郎です
何やら小麦粉用の小屋が大変な事になったかの様な言い方ですが、とりあえず聞いてみましょうか
「次郎殿、先ずは落ち着きなされ。麦粉用の小屋が壊されたのですか?」
「いえ、小屋は壊れていませぬ。今のところは」
(ん?今のところは壊れてない?なら、何故そんなに慌てているんだ?これは、現場に行った方が早いかな)
「次郎殿、赤備えの皆も共に向かいますので、案内してくだされ」
「は、はい」
こうして六三郎は赤備えの皆を集め、義宣の案内で件の小屋へ向かうと、そこで六三郎が見たのは
「これは、確かに壊れそうですな」
「はい。この小屋なのですが、麦粉を回収する事を数日忘れておりましたら、麦粉が溢れそうなのです」
小屋の窓から小麦粉が見える程、高く積まれている状態だった。それを見た六三郎は
(こんなの回収したら良いだけだろ!これは佐竹家でどうにか出来る案件だぞ!!いかんいかん、これで俺が、
「こんなの佐竹家でどうにかせんか!」なんて言ったら、トラブルが起きるかもしれない。これは、やんわりと佐竹家の皆さんに働いてもらおうじゃないか)
内心、軽くイラついていたが、社畜根性が働いたのか直ぐに落ち着いて、佐竹家を働かせる事を決めた
「次郎殿。とりあえず家臣の皆様と共に、麦粉を回収しましょう。人が足りないのであれば文蔵殿達にも伝えて、働いてもらいましょう」
「は、はい。皆、運ぶぞ!」
「「「「ははっ!」」」」
義宣の命令を受けて、家臣達は小屋の中に溜まった小麦粉をそれぞれの容器に入れて運び出す。しかし、あまりにも量が多いので
「佐竹様!麦の粉を回収するとの事で手伝いに来ましたぞ!」
文蔵達も集まって、小麦粉運びが再スタートした。こうなっては六三郎達も手伝うしかないので
「儂達も運ぶぞ!」
「「「「ははっ!」」」」
赤備えの皆も小麦粉運びに参加した。全員合わせて、およそ600人で運び出した小麦粉はおよそ50キロもの量になった。それを見た次郎は
「お主達!何故、これ程の麦粉を誰も回収しなかったのじゃ!?」
思わず家臣に怒鳴った。そんな次郎に対して六三郎が
「次郎殿。余計なお世話かもしれぬが、家臣の皆様はここ数日は、身体を動かすのもやっとな程、疲労困憊だったのでしょう」
軽くフォローを入れる。六三郎の言葉に義宣は
「柴田様、しかし」
一時的に言葉が止まる。そんな義宣に六三郎は続けて
「次郎殿。急激な改革は、着いていける人間が少ないから上手くいかないのです。お父上も右府様も直ぐに結果を出す様に求めてないのですから、
じっくりといきましょう。拙者も一朝一夕で柴田家を大きくしたわけではないのですから。のう、皆!」
慌てなくても良いとフォローしながら、赤備えの皆に話を振る。空気を読んだ赤備え達は
「確かに、殿は元服前からじっくり時間をかけておりましたな」
「試行錯誤を何度も何度も繰り返しておりました」
「殿は、「失敗しない人間など居ないから仕方ない」と開き直る時もありましたからな」
「「「「「はっはっは!」」」」」
昔の話を振り絞って話し、最終的に全員で大笑いした。その様子を見た義宣は
「柴田様でも内政で失敗した事があったのですか」
呆気に取られていた。そんな義宣に六三郎は
「まあ、次郎殿。赤備えの皆が儂の失敗を笑える程の信頼関係とでも言えば良いかのう。だから、あまり気になさるな。戦の失敗ではないのだから、やり直しは何度でも出来る」
再びフォローする。六三郎の言葉に義宣は
「ありがたきお言葉にございます。皆も疲れているのに、済まぬ」
家臣達に頭を下げた。何とか空気も良くなったところに、狙ったかの様なタイミングで
「柴田殿!迎えに参りましたぞ!佐竹殿!そろそろ右府様と柴田殿を伊達家に出立させていただこうか!!」
伊達家一行が登場した。




