公家の娘が独特な理由と常陸国の変化
市が信子と話がしたいとの事で、秀政は長益達3人と交代する形で、信子を大広間に連れて来た。信子は到着すると早速
「柴田様、奥方様。此度、私の我儘を聞いていただき、誠に感謝しております!」
そう言いながら、2人に向けて平伏する。しかし勝家は
「信子殿。平伏など、やめてくだされ!公家の名門一条家の姫にその様な事をさせては!」
慌てながら平伏を止める様に言う。勝家の言葉を聞いた信子は
「分かりました。柴田様のお言葉に甘えたいと思います」
そう言いながら、顔を上げる。面と向かって話す形になった事で、市から
「改めてですが、信子殿。誠に、六三郎が戻って来るまでの期間限定とはいえど、柴田家で女中として働くのですか?」
「期間限定とは言え、本当に柴田家で女中奉公をやるのか?」と質問される。市の質問を受けて信子は
「はい!数年前、六三郎様に助けられ、安土城で保護された際、帰蝶様に当時、私と万千代の面倒を見てくれていた河野家の事を話しましたら、帰蝶様より
「それならば、柴田家でしばらく働いてみてはどうか?あの家は身分の上下など関係なく働いているから、世間知らずが少しは治るかもしれぬぞ」と言われました事が、
一条家の御本家に保護されて以降も、頭の中から離れなかったのです。その事を父上にも話したところ、
この様な形になりました。私の様な世の中を知らない女子を、柴田家にて働かせてください!」
事情説明をしてから、再び平伏して頼み込んだ。そんな信子の様子に市から
「分かりました。ですが、流石に信子殿を道乃達と同じ様に扱うのもよろしくないので、そうですねえ。信子殿は、基本的に私の側に居る形を取りながら、
食事運びや掃除といった、雑務で働いてもらいましょう。その形ならば、詮索して来る者も居ないでしょうから。権六様、それで良いですか?」
信子の雇用方法が提案される。現時点での最終決定者の勝家は
「まあ、それが無難じゃろうな。そう言うわけじゃから信子殿、いや、これからは市に仕えるのだから六三郎が戻ってくるまでは、「信子」と呼びますぞ」
市の提案を採用すると同時に、呼び捨てにするが良いかと確認する。勝家の言葉を聞いた信子は
「はい。短い期間ですが、大殿、奥方様とお呼びします。私の事は信子と呼び捨てにしてください」
平伏しながら了承の旨を伝える。こうして、公家の娘が大名の屋敷で女中奉公をするという、不思議な生活がスタートした
一方、実家がそんな面白い事になっている事を知らない六三郎はと言うと
天正二十二年(1594年)九月十五日
常陸国 水戸城周辺
「し、し、柴田様!」
皆さんおはようございます。朝も早くから、佐竹家嫡男、次郎くんの大声で叩き起こされた柴田六三郎です
戦なんて起きてないだろうし、恐らく農業関連だろうなと、予想しております
「太郎殿、如何なされたのですかな?」
俺の質問に次郎くんは
「柴田様が指導してくださいました、滋養豊富な土を試しに一部の百姓達が野菜用の畑に撒いて耕してから、種を植えていたのですが、
その畑の野菜の育ちが良過ぎたので、周囲の百姓達が大手門に集まっております。なんとか宥めて、百姓達も落ち着いたのですが、集まった百姓達の中から、
「これは米作りにも使えるのか?」や、「米を大量に実らせる方々を知っているのであれば教えてくれ」など、我々では教えられる所を超えてしまっているので
申し訳ありませぬが、柴田様。百姓達に細かい部分を教えていただけないでしょうか?」
百姓一揆じゃないけど、百姓達が大変な事になっていると教えてくれましたが、やっぱり何処の世界でも一緒だな、最初は「変な事をしてるな」から始まって、
「とりあえずやってみるか」になって、「こんな予想外の結果が」になったら、皆が群がるのも仕方ないと言うか、必然だな
こうなったら、百姓の皆さんは勿論、佐竹家も懐が温かくなる様、正条植えを含めた色々な事を教えてみますか!どうせ実家に帰るのは年明け確定だし!
六三郎は半ばヤケクソに近い心理状態で、水戸城周辺の百姓達に、尾張国や美濃国で実施した米作りを教える事を決めた
「次郎殿、分かりました。それでは百姓の方々の元へ行きましょう」
「忝うございます!これで、百姓達も納得してそれぞれの村に戻るでしょう」
義宣とそんな会話をしながら六三郎は、大手門まで歩いて来た。勿論、周囲には赤備えの面々が居る。そん状態て大手門が開くと、百姓達は
「柴田様じゃ!滋養豊富な土の作り方を教えてくださった方じゃぞ!」
「柴田様!米を豊作にする方法を知っているのでしたら、教えてくだされ!」
「常陸国を更に豊かにしてくだされ!」
六三郎に気づくと、凄まじい熱狂を見せた。そんな百姓達に義宣が
「皆!知っている者も居るであろう、こちらの柴田様こそ、あの滋養豊富な土の作り方を指導してくださったお方じゃ!その柴田様が、皆の言葉を聞いて、
何か伝えたいとの事で来てくださった!柴田様、よろしくお願いします」
かなり丁寧に高いハードル付きの紹介と前フリをした。そんな義宣に六三郎は
(ちょっと次郎くん?なんか俺が今から素晴らしい事を発表するかの様な紹介は止めて欲しいのだけど?)
内心、義宣の紹介にプレッシャーを感じていた。しかし、気を取り直して
「さて、百姓の皆!こちらの佐竹太郎殿から、事前に話は聞いておる。この滋養豊富な土を米作りに使えないか等、気になっておる様じゃが、簡潔に伝えよう
滋養豊富な土は、米作りにも使える。しかし、滋養豊富な土を田畑に撒いたから米が豊作になるとはかぎらぬ!
そこでじゃ!これから、百姓の皆と佐竹家の方々へ、尾張国と美濃国で米が豊作になった米作りを指導する!しっかりも覚える様に!」
百姓達だけでなく、佐竹家の面々も巻き込んでの米作り指導を行なうと宣言する。六三郎のこの言葉に
「万歳!」
「米が豊作になるかもしれないぞ!」
「いいや!絶対に豊作になる!」
百姓達は、とても盛り上がっていた。こうして、自分で自分の出張期間を延長させている事を忘れている六三郎の米作り指導がスタートする事が決定した。




