池田家もある意味、六三郎一門に入るかもしれない
高代の言葉を池田恒興に伝える為、うめ、甲斐、通の3人は恒興達の居る部屋へ向かうと、襖の前で
「池田様!高代殿の出産が終わりましたので、御報告に参りました。襖を開けてもよろしいでしょうか?」
一応、代表者ポジションのうめが「部屋に入っても良いか?」と聞く。中に居た恒興は
「うむ。入りなされ」
入る許可を出す。恒興の許可を得たうめが襖を開けると
「池田様!もしや、皆様で安産祈願をしてくださっていたのですか?」
恒興を筆頭に息子達、更に主だった家臣も含めて10名程が、簡易的とはいえ神棚を作って正座をしていた。うめの質問に恒興は
「うむ。大殿が出立前に、「柴田家や柴田家に関わった者達は、出産が始まったら終わるまで安産祈願をするから、池田家でも簡易的で良いから神頼みしてくれぬか?」と言われておってな
それで、倅達や家臣の一部で安産祈願をしておったのじゃ。その様子じゃと、無事に産まれた様じゃな?それで、高代殿が産んだのは男児か?女児か?」
信長から事前に言われていたから、安産祈願をしていたと伝える。そして高代が産んだのは男児か女児かを確認した。恒興の言葉にうめは
「高代殿は、無事に男児を出産しました。幼名は宗六郎となりました」
「男児が産まれて、幼名は宗六郎になった」と伝える。うめの言葉を聞いた恒興は
「ほお、男児か!これで柴田家の男が増えるのう!なんとも喜ばしい事じゃ!」
元より人柄が良いのか、柴田家に男が増える事を喜んでいた。そんな温かい空気の中、うめは
「池田様!高代殿からの希望として、無事に出産出来た事と幼名が決まった事を池田様を通じて、徳川様へお伝えしていただきたいとの事です」
高代からのリクエストを恒興に伝える。リクエストを聞いた恒興は
「ふむ。そう言う事か」
そう言って、しばらく考えこむと
「儂が伝えるのは構わぬが、徳川様はもしかしたら産婆無しで出産を助けたそなた達の言葉も聞きたいかもしれぬから、いつでも呼ばれる準備はしておいてくれ」
「「「はい!」」」
「もしかしたら家康が、3人の話を聞きたいとリクエストするかもしれないから、準備しといてくれ」と3人に伝えて、家康の居る大広間へ向かう為に立ち上がると
「そうじゃ三左衛門!三人に茶を入れてやれ。産婆でもないのに、出産を助けたのじゃ。とても疲れておるじゃろう。特に、そちらの身の丈が少し小さめな女子、二人と比べると特に大変であったと思うが、そなたの名は、何と申す?教えてくれ」
息子の信政へ「3人に茶を呑ませてやれ」と言ったかと思ったら、通が気になった様で名前を聞いて来た。通も隠す事なく
「松永通と申します。関東での戦が終わってから、柴田播磨守様に兄達と共に召し抱えられました」
名前と立場を正直に伝える。通の自己紹介を聞いた恒興は
「ほう!あの松永家の娘で、六三郎殿に召し抱えられたか!それならば信頼できる娘じゃな!三左衛門!お主、通殿を嫁にせんか?」
まさかの信政へ、「通を嫁にしないか?」と言って来た。これには信政も
「ちょ、ちょ、ちょっと、ち、ち、父、上。な、な、何を言っておる、の、です、か?」
かなり動揺したのか、言葉だけでなく茶を入れる手までもが震えていた。そんな状態から落ち着いた信政は
「父上。拙者よりも兄上の嫁取りを先にすべきだと思うのですが?兄上はやがて四十歳になるのですから、嫁取りが遅いのは良くないと思いますぞ?」
「兄で池田家の家督を継いだ元助が、やがて四十歳になるのに独身なのは良くないから、自分じゃなく先に嫁取りさせろ」と恒興に伝える
しかし、恒興は
「元助は家督を継いだのじゃから、家臣の娘なり、織田家中の誰かしらの娘を嫁にするなり、自分で頑張ってもらう!儂は大殿の親類を嫁に迎える際、そうしたのじゃ!ならば、元助にも同じ様に頑張ってもらう!
だがな三左衛門、そして藤三郎と橘左衛門!お主達の様に、元服したとはいえ家督を継ぐ可能性が低い武家の男は、多少なりとも親か家督を継いだ兄が何処かで嫁候補を見つけないといかぬ!
此度は、儂が通殿を見つけて三左衛門に聞いてみたのじゃ!通殿を嫁にする事が駄目ならば」
「武家の家督を継がない男は、簡単に嫁取り出来ないから、親が何処かで見つけた女子を嫁にしとけ!」と暴論であるが反論出来ない言葉を信政と弟達に告げる
恒興の言葉に信政は
「父上、仰る言葉の意味は分かります。ですが、通殿の兄君達、そして松永家が仕える柴田家当主の六三郎殿が居ない中で決めるのは良くないと、拙者は言っております
それに、通殿のお気持ちも聞かないと。通殿、父上が申し訳ありませぬ」
「ちゃんとした手順を踏まないと駄目だろ!」と恒興に伝えつつ、通へ申し訳ないと頭を下げる。そんな信政を見て通は
「池田三左衛門様、お気持ち大変嬉しいかぎりです。失礼ながら、三左衛門様の事を少しずつ知りたいと思いました。なので、三左衛門様がよろしければ、
右府様と播磨守様が戻られるのが先か、私達が領地に戻るのが先かは分かりませぬが、その時まで互いの事を少しずつ知っていきませんか?
それで三左衛門様が、私を嫁に迎えたいと思ってくださったのであれば、兄達と播磨守様へお伝えしますので。その時は嫁にしてください」
「浜松城を出るまで、お互いの事を少しずつ知っていって、それで嫁に迎えても良いと思ったら、嫁にしてください」と、
信政の言う、「ちゃんとした手順」を守りながら関係を深めようという、まるで中学生の様な清い交際を提案した。これを聞いていた恒興は
「そうじゃな!それが良い!三左衛門、お主が言った事を通殿も受け入れる覚悟があるのじゃ!そこまで女子に言わせたのじゃから、
少しずつお互いを知っていきながら、関係を深めていけ!そのまま嫁に迎える事も大歓迎じゃ!それでは、儂は徳川様の元へ向かう!三人は茶でも呑んで、ゆっくりしていてくれ!」
遠回しに「そこまで言わせた責任を取れ!」と言って、家康の居る大広間へ向かった。こうして、信政と通の、「許嫁手前」みたいな関係がスタートした。




