甲斐源氏武田家二十一代目当主の元服
天正二十一年(1593年)十月八日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「皆々様!!本日は大安吉日の良き日に、御館様の元服と相成りました!織田右府様と徳川右少将様と北条左京大夫様を筆頭に、
皆々様の御出席に武田家一同、感謝の意を示し、誠に御礼申し上げます!」
「「「「「御礼申し上げます!」」」」」
皆さんおはようございます。本日、武田家当主、虎次郎くんの元服の儀の当日になりまして、仕切り役の五郎さんの開会の挨拶の後、
虎次郎くん、典厩様、竜芳殿、勝二郎くん、典厩様の孫の次郎右衛門くんと、豊次郎くん、更に五郎さんの嫡男の剛太郎くんも、挨拶をしております
武田家の男で、虎次郎くん以外に元服済みの面々と元服前の次郎右衛門くんと豊次郎くんと剛太郎くんを合わせても8人しか居ない事は、
俺からしたら多いと思うけど、大殿曰く「織田家は儂より先に亡くなった者達を含めても十一人じゃから、まだまだ少ない!」との事でした
まあ、織田家以外に毛利家も中々の数の男性が居ましたから、それがこの時代の常識なのかもしれません。その事が藪蛇だったのでしょう、
大殿は俺に
「だから六三郎!お主も更に子を増やせ!特に男児を!良いな!」
「もっと子供を!男児を増やせ!」と今すぐには無理な事を言って来たので、俺は
「善処します」と答えるに留めました。そんな数時間前の事を思い出していると、元服の儀は順調に進みまして、
親族の中で立場の高い五郎さんと典厩様が色々やって、山場の烏帽子を被せる烏帽子親の役目を大殿が終えると、虎次郎くんが
「さて、皆々様!これで拙者も皆々様と同じ、一人の男となりました!まだまだ分からない事も多いですが、いつか「流石、甲斐武田家当主じゃ!」と
言ってもらえる様、粉骨砕身の気持ちで武田家をまとめ、引っ張っていく所存にございます!」
所信表明の挨拶を行なう。挨拶が終わると、
「見事なり!」
「それでこそ武家の名門、甲斐武田家当主じゃ!」
「道は長いが、諦めるでないぞ!」
「千里の道も一歩からじゃ!」
大殿や諸将の皆さんの拍手や盛り上げる言葉と共に、万雷の拍手が、大広間に鳴り響く。そして拍手が鳴り止むと、五郎さんが
「それでは皆々様!元服の儀を終えた御館様の新たな名を、御館様本人より書き、皆々様に披露したいとの事ですので、しばしお待ちくだされ!」
「虎次郎くんが新しい名前を書くから少し待ってくれ」とリクエストして来ましたので、しばらく待つ事、およそ5分。遂に
「完成しました!」
虎次郎くんが書き終えて、全員に見せる新しい名前は
「武田勝四郎信虎」だった。その名前を見て、大殿は
「虎次郎改め、勝四郎よ。仮名も諱も何かしらの意味があるから、その様に名付けたのであれば、その意味を教えてもらおう」
「何で、仮名も諱もそれにしたのか教えろ!」と命令して来ましたが、勝四郎くんは
「はい。仮名の勝四郎ですが、四郎は拙者の父の四郎勝頼から、そして、勝は父と拙者の義兄になる六三郎殿の諱の一字から使わせていただき、
諱は、戦だらけの甲斐国を統一した曽祖父の信虎公の名を使わせてもらいました!」
堂々とした受け答えを見せる。勝四郎くんの答えを聞いた大殿は
「そうか!亡き父の事を忘れず、そして世話になった六三郎の一字も使って、甲斐国を統一した曽祖父の名を受け継ぐか!その覚悟、見事じゃ!」
勝四郎くんを褒めて、褒められた勝四郎くんも
「ははっ!これからも、織田家の天下統一の為、甲斐国の領民の為、身を粉にして働いていきます!本日は、拙者の元服の儀に御出席いただき、誠に御礼申し上げます!」
大殿にそう答える。この答えを聞いて、再び万雷の拍手が鳴り響く。こうして、虎次郎くん改め、勝四郎くんの元服の儀は終了した
そして、元服の儀が終わると勝四郎くんから頼まれたので大広間に残っておりましたら、
「六三郎殿。父上に元服の報告をしたいと思いますので、一緒に行ってくださいませぬか?此度は北条左京殿も交えて」
初陣の時と同じく、勝頼の墓参りをしようと言って来ました。今回は俺じゃなくて大殿が行った方が良いんじゃないかと思って、大殿を見ると
「六三郎、幼き日の勝四郎をお主が助けたから今日の武田家があるのじゃ。ならば、お主が織田家を代表して、四郎殿へ挨拶してまいれ」
「ははっ!」
「お前が織田家の代表として行って来い」と言われましたので、行く事になりました。で、武田家一同と北条氏直、そして俺で恵林寺に行きまして、紹喜殿には事前に許可を得ていた様で、そのまま案内されましたら
「父上。本日無事に元服を迎える事が出来ました。これも十四年前、父上が幼い拙者を松叔母上と共に逃してくださったからに、他なりませぬ!誠にありがとうございます!」
勝四郎くんの挨拶から始まり、
「兄上、出来る事ならば御館様の立派な姿を見て欲しかったですぞ」
「ご先代様。拙者も、ご先代様に生かされた身でございます。そのおかげで孫に会う事も出来ました。誠にありがとうございます」
「四郎。お主は立派な当主じゃ!生前は、「自分が不甲斐ないから、武田家がひとつにまとまらない」などと言っておったと、孫六叔父上に教えてもらったが、
そんな事はないぞ。その証が元服した勝四郎様じゃ!胸をはれ!」
「四郎殿、姉上と、姉上との間の娘の勝姫を命懸けで守ってくださった事、北条家を代表して御礼申し上げます」
五郎さん、典厩様、竜芳殿、北条氏直の4人がそれぞれ思いを伝える。そんな身内の皆さんの後に俺が何か言うなんて、烏滸がましいので、手を合わせるだけにしていたら
『柴田の鬼若子殿。武田家一同がまとまっただけでなく、北条家との戦も回避してくださった事、御礼申し上げます。穴山の遺児達の事、頑張ってくだされ』
なんて、驚きの言葉が聞こえて来ました。俺が1番後ろに居るから、、、うん。考えるのはやめよう!
こうして、甲斐源氏武田家当主の元服の儀は、幕を閉じた。




