元服前日の虎次郎の悩みとは
天正二十一年(1593年)十月七日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「佐久間殿。一日考えたのじゃが、やはり軍勢のうち七千は倅と共に国に帰すので、佐久間殿は儂を含めた三千を先導してくだされ」
「はい。承知しました」
皆さんこんにちは。最上殿の鬼玄蕃さんの話し合いの場に居ます、柴田六三郎です。実は、前日に決まった最上殿の軍勢を、従兄弟の鬼玄蕃さんが引率して、
俺の実家に連れて行く話を、一日考えた結果、「一万は多過ぎだから、三千くらいで良いか!」と判断しまして、その結果が、先程の会話になるわけです
まあ、俺としてはそれくらいの人数なら、実家に過度な負担がかからないから有り難いです。親父への文も渡しましたし、これで俺の実家に関する不安は無くなりました
あとは、虎次郎くんの元服の儀を待つのみです!そう思っていたら、虎次郎くんから話があると言われて、大広間にいきましたら、そこには
五郎さんと典厩様も居ました。まさか、穴山姉弟の事がバレたのか?そう思っていたら、虎次郎くんから
「遅い時間に申し訳ありませぬ、実は六三郎殿へ拙者の元服の事で相談があり、お呼び出ししたのです」
何やら相談があるとの事でした。まあ、とりあえず聞くだけ聞いてみよう
「どの様な事なのでしょうか、拙者が答えられるのであれば、お答えしましょう」
六三郎の返事を聞いた虎次郎は、話を始める
「忝い。実は、元服後の悩みとは仮名と諱が決まってない事なのです。その事で最初は右府様へお話をささせていただいたのですが、
右府様から「六三郎に相談してみよ」と言われたのです。六三郎殿、六三郎の仮名はどの様に決まったのか教えていただきたいのです」
虎次郎の悩みを聞いた六三郎は、昔の事を思い出しながら答える
「虎次郎殿。拙者の仮名に関しては、幼名が大殿の幼名の吉法師から、吉の字をいただいて、父上の幼名である六郎を合わせた「吉六郎」でしたのです
そこから元服する際、父上の仮名である権六の六と、大殿の仮名である三郎を合わせた「六三郎」になったのです
なので、虎次郎殿の場合も、大殿とお父上の仮名を合わせても良いと思いますぞ?」
六三郎の答えを聞いた虎次郎は五郎と典厩に質問する
「成程、その様な仮名の決め方だったのですか。叔父上達、父上の仮名は「四郎」でしたな?」
「はい。拙者の父であり、御館様の祖父にあたる信玄公は、産まれた順序で仮名を決めておりましたから」
「御館様の場合も、御先代様が二番目に産まれた子供だから「次郎」がついたのかと思われます」
虎次郎の質問に、五郎も典厩も大まかではあるが、分かりやすく説明した。2人の説明を聞いた虎次郎は
「父上の仮名の一字は使いたいので、仮名の一字は決まりましたが、次は諱ですな。六三郎殿!仮名についてですが、六三郎殿の諱も仮名と同じく、越前守様と右府様から一字ずついただいたのですか?」
次に、諱の話を六三郎に振る。振られた六三郎は
「そうですなあ。拙者は柴田家の通字である勝の字が、本来は上の方に来るのですが、大殿の一字をいただいたので、「長勝」となりました
ですが武田家は柴田家と違い、武家の名門ですから、慣例どおり、通字は上にした方が良いのでは?」
自身の諱の由来を伝えると同時に、武田家は柴田家とは比べ物にならない武家の名門だから、慣例を守る事を提案する。その提案を聞いた虎次郎は
「六三郎殿。実は、諱に関しては候補が三つあるのです。武田家の通字の「信」の下に、父の四郎勝頼の「勝」と「頼」、
そして拙者の曽祖父で、甲斐国を統一した信虎公の「虎」の三つのどれかをつけるのかで考えておりますが
六三郎殿は、他に何かありますでしょうか?あるのであれば、教えていただきたく」
候補を挙げながらも、決めきれないので六三郎に意見を求めていた。虎次郎の質問を聞いた六三郎は
(待て待て待て!虎次郎くんが元服して、「信勝」になったら、史実どおりの歴史に戻ってしまう気がする!そうなったら、非常にまずい!
だからと言って、「信頼」になったら、一部の面倒くさい奴から「源頼朝公の様に、武家の棟梁を狙っておるのか!?」なんて言われる可能性も少しばかりある!
そうなったら、江が嫁いだ後に戦が勃発してしまうじゃねーか!そんな可能性はひとつでも潰しておきたい!そうなると、消去法で「信虎」が良いな!)
要らぬトラブルや、歴史の修正力が起きない様に色々と考えた結果
「虎次郎殿。拙者としては、「虎」の字を推挙しますぞ!理由はひとえに、甲斐国を統一した曽祖父の信虎公と同じく、
いえ、きっとその時以上に乱れた甲斐国を統一し、まとめあげ領民が暮らしやすい国にした事です!」
虎次郎に、「曽祖父と同じ事をしたんだから、諱も同じで良いと思うよ?」と推薦した。六三郎の言葉を聞いて虎次郎は
「曽祖父と同じく、甲斐国を統一しただけでなく、領民の暮らしやすい甲斐国に変えたと言ってくださいますか。嬉しい言葉にございます
六三郎殿、今日一日色々と考えて、明日の元服の儀で発表したいと思います。色々と聞いていただき、感謝します!」
そう礼を言いながら、六三郎に頭を下げた。虎次郎の礼を受けて六三郎は
「いえいえ。拙者の出来るかぎりをさせていただいただけですから、それでは明日の為に、失礼します」
そう言って、大広間を出て行き、そのまま眠りについた。




