信長は到着すると六三郎に例の件を問う
天正二十一年(1593年)十月五日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「右府様!右少将様!左京大夫殿!お待ちしておりました!」
「「「「「「お待ちしておりました!」」」」」」
「うむ!世話になるぞ!」
皆さんおはようございます。朝から北条氏直の引率にて、大殿と家康が到着した事により、いよいよ虎次郎くんの元服の儀が近づいている事を実感しております
柴田六三郎です。きっと、大殿から無茶振りが来るんだろうなと、今から身構えております。ただ、これまで俺が出席した立之助と新三郎の元服の儀では
何か特別な事をしていなかったので、今回も何も無いはず!と、思っております。そんな俺を他所に大殿は
「さて、虎次郎を始めとした武田家の面々と諸将、そして六三郎!虎次郎の元服の儀じゃが、三日後の大安吉日とする!良いな?」
「「「「「ははっ!」」」」」
その場に居る面々の返事を聞いた信長は、
「うむ。それでは、当日まではゆっくりさせてもらおう!六三郎!お主は後程、儂の元へ来い!」
「ははっ!」
それまではゆっくり過ごすと言ったが、六三郎に自身の元へ来いと命令する。その命令に六三郎は
「ははっ!」
返事をしたが、内心
(何の無茶振りが来るのかなあ?一応、試作品の酒樽は、鉢形城から持って来たけど、何だろう?)
不安がっていたが、結局答えは出なかった。なので、そのまま信長の部屋へ向かう
部屋に通された六三郎に対して、信長は
「六三郎!此処には儂を含め、織田家の人間しか居らぬ!だからこそ、正直に申せ!お主、隠しておる事があるな?」
具体的な事を言わずに、六三郎から言わせる様に仕向けた質問をする。信長の質問に六三郎は
「大殿、もしや新しい酒の事でしょうか?だとしたら、申し訳ありませぬ。新しい酒の試作品は出来ましたが、此度の戦において兵を減らしたくなかったので
安土城へ送る事が出来なかったのです。申し訳ありません!」
新しい酒の事と思って、理由を説明しながら、頭を下げた
しかし信長は
「いや、それの事ではない。それに、当時はお主の判断が正しかったのじゃ。それはとやかく言わぬし、仕方ないものとしよう」
当時の戦況的に仕方ないと、六三郎を咎めなかった。その信長を見て、六三郎は
(あれ?酒の件じゃないとすると、新三郎と駒姫の件か?)
数日前に最上義光と話し合った駒姫を新三郎の嫁候補に決めた話と判断した様で
「もしや大殿、道乃の弟の新三郎の嫁候補の件でしょうか?それでしたら、最上出羽守殿と話し合った結果、
最上殿の三女の駒姫殿を拙者の実家に連れて行き、新三郎と顔合わせさせる事に決まりましたが」
駒姫と新三郎のお見合いの話を出す。しかし、これも当然違うので、信長は
「それは帰蝶が一番喜ぶ事であり、儂も喜ばしい事ではあるが違う。六三郎よ、ここ数日の事じゃ。儂に伝えなければならない事があるのではないのか?」
「ここ数日」とヒントを出して、六三郎が答えを出せる様に仕向けた。しかし六三郎は
「もしや大殿!ワイン樽の中に、3年熟成の物がある事をご存知でしたか?申し訳ありませぬ。松田との戦に備えていたので、ワイン樽を出荷する事が出来なかったのです!」
現在では幻級の3年熟成ワインの事だと思い、信長に頭を下げた。それを聞いた信長は
「誠か!それは絶対に呑む、ではなく!ええい、まどろっこしい!六三郎!お主、穴山の遺児達を保護したのであろう!儂の元へ情報が入っておるぞ!」
ワインを呑みたい気持ちを口にしつつ、我慢の限界が来たのか、とうとう穴山姉弟の事を言ってしまった
信長の、この言葉を聞いた六三郎は
(何で知っているんですか?俺は武田家にバレなきゃ大丈夫とは思っていたけど、織田家にバレたらどうなるんだ?仕方ない、出たとこ勝負だ!)
驚きながらも、腹を括る。そして、信長へ返答する
「大殿、穴山の遺児達の件ですが、拙者個人としては甲斐国内で伝えては、3人の命も危ういので、安土城へ戻ってからの報告で良いと判断した次第にございます!」
六三郎の返答を聞いた信長は
「ふむ。確かに、お主の言っておる事に理解は出来る。じゃが、六三郎よ!それは、お主が幼い頃、赤備えの飯富兄弟を召し抱える時に儂に言っていた
「親の罪を子に被せてはならない!」の考えを否定する事にならぬか?」
幼い頃の言葉を、六三郎に突きつける。信長の言葉に六三郎は
「大殿。お言葉ですが、飯富兄弟の時と、穴山の遺児達とは規模が違いすぎます!飯富兄弟の父君は、武田家中をまとめる為に切腹しました!
しかし、穴山は武田家を乗っ取る事に失敗し、討死したのです!遺児達の中の年長の者ですら「愚かな事」と言うのですぞ!
穴山のせいで死んだ者、それこそ虎次郎殿の父君の四郎勝頼殿がそうだったのです!それで、遺児達が殺されたら」
遺児達の事を言わない理由を話す。しかし信長は
「たわけ!!」
六三郎を一喝する。そこで六三郎が止まると、
「六三郎!お主の気持ちは分からんでもない!しかし、お主が幼い頃から成長を見て来た、妹を嫁がせても良いと認めた虎次郎は、その様に器の小さい男に見えておるのか?答えよ!」
虎次郎がどの様に見えているのか、六三郎に質問する。質問された六三郎は
「確かに、虎次郎殿の器を失念しておりました。幼い頃から、自ら動いて甲斐国の領民の為、武田家の為、頭を下げて来た虎次郎殿の器が小さいなど、ありえませぬ!
器の小さい男に、妹を、江を嫁がせるなどありえませぬ。大殿、目が覚めました」
虎次郎のこれまでやって来た事を思い出して、信長に頭を下げた。そんな六三郎に信長は
「ならば、虎次郎、五郎、典厩は当然として、武田家家臣達にも、遺児達の事を伝えられるな?」
遺児達の事を、武田家に伝えられるかと問う。その問いに六三郎は
「はい。ですが、それは元服の儀の翌日にしたく」
元服の儀の翌日にしたいと頼む。六三郎のリクエストに信長は
「良かろう!しっかりと伝えよ」
了承した。こうして、穴山姉弟の存在を伝える事が決定した。




