日本初は誰もが手にしたい
「それでは六三郎殿。最初に呑ませるのは、十日熟成のワインですかな?」
「そうですな。十日熟成のワインを呑んだ後に、二十日熟成のワインを呑んでみたら、違いが分かると思います。
一応、杜氏の方々も含め30人が一杯ずつ呑める量はありますが、何方が1番最初に呑みますか?」
俺のこの言葉に、五郎さんと典厩様以外の武田家臣の皆さんの空気が変わる。最初に立候補したのは
「六三郎殿!弟の銀次郎が世話になっておるのです!なので、六三郎殿が作ってくださったワインを一番最初にいただきましょう!」
銀次郎の兄貴の惣右衛門さんだった。でも、それに待ったをかけたのが、
「土屋殿!それを言うのであれば、拙者の新左衛門兄上も世話になっております!なので、此処は拙者がワインを一番最初にいただきましょう!」
と、新左衛門の弟の新之助さんも立候補する。それをきっかけに
「日の本で一番最初は儂も欲しい!」
「儂も同じく!」
「同じく!」
「儂も譲らぬ!」
と、収拾がつかない状況になったので、虎次郎くんが
「皆の気持ちは分かった。だが、このままでは収拾がつかぬ!皆にワインを入れた盃を渡して行く!だから全員同時に呑んで、全員が日の本で一番最初に呑んだ者になろう!良いな?」
そう言うと、皆さん
「「「「ははっ!」」」」
何とか納得してくれました。そこで、虎次郎くんは
「女中の皆に配ってもらおう!六三郎殿や儂が配るのは良くない!」
と言ったので、女中の皆さんのうち、10人来まして、お膳を持って来て、ワインを注いだ盃をのせて、全員に配りましたら、虎次郎くんから
「それでは!皆、日の本初のワイン、呑んでくれ!」
と乾杯の挨拶的な言葉が出て、皆さんも
「「「「いただきます!」」」」
と、言って一斉に呑む。呑み終えた人から
「葡萄の甘味だけでなく、酸味も感じる」
「濁り酒とは違うのう!これはこれで美味い!」
「葡萄を潰して時折、樽の中を回しただけなのに、何と美味い!」
家臣の皆さんからは、まずまずの評価です。そして、杜氏の皆さんはと言うと
「南蛮の酒を、日の本で一から作ると、この様な味となるのか。我々が作っている酒とは別物じゃ」
「しかも、原材料も少なく済みそうじゃ!」
「これでも美味いのに、更に熟成させた物があるとなると」
早く二十日熟成ワインを呑みたい!と顔で訴えて来ます。それじゃあ、二十日熟成ワインを呑んでもらいますか
「それでは、女中の皆様、新しい盃に二十日熟成のワインを入れますので、持って来てください」
俺の合図に女中の皆さんが寄ってきて、二十日熟成ワインを注いで、家臣の皆さんと、杜氏の皆さんの前に持って行くと虎次郎くんが
「それでは、更に熟成させたワインを呑んでくれ!」
「「「「いただきます!」」」」
と言って、呑むと
「おおお!先程とは別物じゃ!何と芳醇な香り!」
「味も、十日熟成ワインよりもまろやかじゃ!」
「十日しか変わらないのに、この味の違い!」
あまりの違いに驚いております。勿論、杜氏の皆さんも
「何とまろやかな」
「熟成日数で、こうも味が変わるとは」
「更に熟成させたらどうなるのじゃ?」
盛り上がっております。この様子を見た虎次郎くんは
「どうやら、ワインは全員一致で美味いと判断して良い様じゃな!そして、杜氏の方々!ワイン作りに興味が出て来ましたかな?」
杜氏の皆さんに質問する。質問された杜氏の皆さんは
「いやはや武田様。これ程の酒を日の本初の一人として呑ませていただいただけでなく、作らないかと聞かれたら、酒作りを生業としている者として、
心が動かされます!是非とも、作り方を教えていただきたく存じます!」
頭を下げて、教えてくれ!と頼んで来た。それを見た虎次郎くんは
「その言葉、誠に感謝しますぞ!実は、このワインじゃが、甲斐国で作った後に、京や堺で販売して、甲斐国に銭が落ちる様にする予定じゃ!
そして、これが南蛮人に気に入られたならば、更に売り上げも期待出来よう!順調に行けば、甲斐国が復興し、豊かな国になる一歩となる!
甲斐国の人間全員、立場も関係なく働いていけば、甲斐国が豊かな国になる日が、より早くなる!
元服前の童の戯言と思うかもしれぬが、それでも歩みを止めぬ!だからこそ、杜氏の方々も協力していただきたい!よろしく頼む!」
将来的な目標を宣言して、杜氏の皆さんも巻き込む事を伝えると、杜氏の皆さんは
「「「ははっ!」」」
と、平伏して返事をする。返事を聞いた虎次郎くんは
「よろしくお願いしますぞ」
と、笑顔になる。これから、更に葡萄畑を広げないといけないな。と、仕事が増える確信を持ちましたが、
これくらいは良いでしょう。とりあえず、ワイン作りは形になりそうだから、俺の手を離れても問題無いとして、次はやっぱりあれだよな
麦があるから、小麦粉以外の麦を使った物だとビール!作り方は何となくレベルでしか覚えてないけど、それでも色々と作りながら、銭になる物に変えて
と、考えていたら
「離せ!離さぬか!」
「「黙れ!盗人が!」」
という物々しいやり取りが聞こえて来ます。その声がどんどん大広間に近づいてくる。これは、嫌な予感しかしないな
※六三郎の嫌な予感はフラグです。




