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転生武将は戦国の社畜  作者: 赤井嶺


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柴田家家臣としての初陣

元亀三年(1572年)十月十八日

美濃国 岐阜城大広間にて


「兄上。誠に大丈夫なのですか?あの織田家当主ですぞ?仏敵とも第六天魔王とも呼ばれている程の男が」


「黙らんか源次郎!儂は吉六郎様が助命嘆願を間違いなく出したと信じておる。あとは、運を天に任せるしかない。これは吉六郎様の家臣としての初陣と思え!」


源太郎達二百人のうち、先頭に居る飯富兄弟が小声で話し合っていた。源次郎は恐怖心から来るものなのか、落ち着きが無かった。兄の源太郎は吉六郎への信頼からなのか、落ち着いていた。二人が言い争っていると


スパン!


襖を力強く開ける音が聞こえたので織田家家臣が一斉に平伏するのを見て、源太郎達も平伏した。そして平伏して間もなく


「織田家の皆と武田の足軽達よ。面を上げよ」


信長の命令が出たので源太郎達は顔を上げた


「儂が織田弾正忠三郎信長である!貴様達からは色々聞きたい事が有る」


この時の信長はいつもより声色を低くしていた。信長なりに威圧感を出して見せたつもりなのだが、勝家達は信長の意図に気づいた様だが、驚きを隠して「いつもの信長はこれ程怖い」風を装ってみせた。そんな中で、信長の源太郎達への詰問は始まった


「先ずは先頭に居るお主!名は何と申す」


「拙者の名は飯富源太郎晴昌と申します。右に居りますは弟の飯富源次郎繁昌にございます」


源太郎は信長の威圧感に圧倒されていた。まるで蛇に睨まれた蛙の様に動けず、冷や汗が背中をつたっていた


源太郎の様子が見て分かった信長は、最初の質問をした


「しかと答えよ。先ず武田は、甲斐と信濃と駿河が領地なのに、何故今になって美濃国へ攻め入った?飯富源太郎とやら、この二百人の中ではお主の武田での地位が一番上なのであろう?答えよ!」


指名された源太郎は、胸の鼓動が早くなった。この中で地位が一番上と言われても所詮は足軽頭。重臣達の軍議に参加出来る訳が無いから目的なんて知らなくて当然である


(ここは知っている範囲で全て答えないと、首を切られてしまうかもしれぬ。せっかく飯富家再興の可能性が出てきたのじゃ!つまらぬ事では死ねぬ!」


「では足軽頭で一番上の地位の某が知っている範囲で全てをお答えしますが、武田は東海道を進む!としか聞いていませぬ!」


「ほう。では何故、美濃国の岩村城へ攻めたかなどは分からぬと?」


「拙者含めたここにいる二百人全て、「あの城を包囲し落城させよ」との命令しか言われておりませぬ!」


「では、お主達が落城させる前まで城主を務めておった者が何者かも知らぬのか?」


「我々は「細かい事は知らずに攻め続けよ」としか言われておりませぬ」


信長は答える源太郎を見据えながら


(嘘をついているとは思えぬ程真っ直ぐな目をしておる。もっとも、儂が武田の重臣であったとしても足軽頭には最終目標などは情報が漏れる事を防ぐために言わぬ。そして吉六郎からの書状でも、こ奴らを連れてきた玄蕃からもこ奴らが武田から秘密裏の策を担っていた。などとは無かった。ならば、こ奴の言っている事は本当の事なのだろう。ならば)


「少しばかり話を変えるが、飯富の兄弟よ!」


「「何でございますか?」」


「お主達の父親の事じゃ。吉六郎からの書状には「諸事情により切腹に追い込まれた」と書いてあったが、どの様な事をしたのじゃ?」


「拙者から説明させていただきまする。父上は武田の先代当主の頃より武田に仕えて、今の当主、信玄の嫡男の武田太郎殿の傅役を任される程の重臣でした。


ですが、織田家が大きく飛躍した「桶狭間の戦」において、今川義元が討たれた事で武田と北条と今川の力関係が崩れ、武田信玄は今川の領地だった駿河と遠江を攻める方針を取り、


太郎殿は奥方が今川義元の娘だった事から反対して、最終的に父である信玄を追放してでも今川家を守りたいと、


謀反の計画を立てたのです。我等の父は武田への恩義と太郎殿への思いの板挟みの末、太郎殿に味方する事を決めたのですが、その計画を我等の叔父にあたる山県三郎兵衛尉昌景が知り、


武田信玄へ報告し、家中に混乱を招いた事、傅役なのに計画を止められなかった事の責で切腹に追い込まれ、父の領地は我々兄弟が元服前だからという理由で武田預かりと言う名目で奪われて、更には父上が心血注いで作り上げた「赤備え」を現在、山県が率いている事が」


「分かった。だが、飯富源太郎よ。今ならお主も納得出来る所もあるのではないのか?」


「はい。父上の切腹は家中の混乱をおさめる為には仕方ない事であり、領地に関しても、元服前の幼い子に従う領民など居ないから仕方ないと今なら納得出来まする」


「納得出来ているにも関わらず、武田を出奔した理由は何じゃ?その臥薪嘗胆の心を持っていたら、いずれはお父上の領地を取り返す事も出来たのでないか?」


「いえ、武田で耐えながら仕えたとしても、此度の戦において捕虜となった事により再び地位は足軽からの再出発になるのが関の山。


そして、父上の死から七年も過ぎているのに、今だに父上を愚弄する者が武田の重臣に居る以上、飯富家再興は武田に仕えていては出来ぬと判断したからこそ、父上を愚弄する者達と共に戦うなど出来ぬと思ったからこその出奔にございます」


「そうか。なら何故に吉六郎に仕えたいと思ったのじゃ?」


「拙者が父上が死んだ後に世話になった人の首と鎧を武田に返して、吉六郎様の元に戻った時の言葉の「自らの命を捨ててでも家族と仲間を守りたいと思える者は強く信頼できる」が心を震わせたのです。


例え元服前と言えど、これ程の言葉と戦で新しくも恐ろしい策を考えて、領地と領民を守りたいと考えるお人ならば、きっと飯富家の再興も叶うはずだと」


(全く吉六郎のこの様なところは権六に瓜二つじゃ!権六も又左の父親が死んだ時も世話を焼いたりして心を掴んでおったのう。本人達は否定するだろうが、似た者親子よ)


源太郎の言葉を聞きながら信長はそんな感想を抱いた。そして、


「うむ!良く分かった。お主達の話は吉六郎からの助命嘆願の書状と同じ内容だからこそ嘘ではないと決断する!よって無罪とし、飯富源太郎率いる二百人は明日より柴田家嫡男、柴田吉六郎の家臣とする!」


信長の裁定が下った。その直後、源太郎達は


「有り難き幸せ!」と平伏した。そして、


「さて、固い話はこれで終いじゃ!権六、お主は残り源太郎達と顔合わせをしておけ!他の者は戻って良い」


信長がそう話すと、勝家以外の家臣はそれぞれの部屋に戻っていった。そして、大広間には信長と勝家と二百人だけが残った


「あの、弾正忠様。こちらの権六様とはどの様な方なのでしょうか」


「これよりお主達の主君になる柴田吉六郎の親父じゃ!しっかりと挨拶せよ。儂は寝る」


「「え?」」


勝家と二百人は同じ様なリアクションをして信長を見たが、信長は既に大広間を出ていた。

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