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転生武将は戦国の社畜  作者: 赤井嶺


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虎の兄弟の話し合い

元亀三年(1572年)十月十二日

美濃国 柴田家屋敷内にて


「吉六郎様。その話は誠にございますか?」


「誠じゃ。源太郎殿、いやもう源太郎と呼ぶか。源太郎が源次郎含む百九十九人を柴田家に降る様に説得出来たなら、ここにいる間だけでも扱いを捕虜から客将に上げると同時に助命の書状も出そう」


昼過ぎてますが、皆様おはようございます。柴田吉六郎です。現在目の前で平伏している飯富源太郎さんに条件付きでの扱いのアップグレードを話したら、とても驚かれています


まあ、理由は2つあるんですけどね。1つは人間が多いから客将として鹿や猪退治で食い扶持を稼がせる事。まあこれは絶対に言えないですが。もう1つは本人が言ってた事だし問題ないでしょうからね


「それに、朝の源太郎の気持ちは荷物を調べたら本気だと確信したぞ。お主、あれを使って岩村城を混乱させてきたのであろう?」


「あ、あれの事ですか。吉六郎様が「武田に少しでも憎しみを抱いたなら使え」と言われた事を思い出して、新たな飯富家の門出の景気付けに使わせてもらいましたが、織田家があれほど危険な物を戦に導入しているのなら、武田の天下は無理だと確信しました」


あれー。源太郎さん、壮大な勘違いをしているぞ。あの簡易ダイナマイトは親父達に教えてないやつだから、此処でのオリジナル武器なんだよなー。まあ、源太郎さん達を岐阜城に送る前に手紙と現物を送ればいいか。それに結果は分かっているけど、賭けの結果も聞かないといけないからな


「話を戻すが源太郎。武田の者達から労いの言葉は出たか?」


「いえ!労いの言葉なぞ微塵も有りませなんだ。先の戦において見事な策を考えた者は誰かと聞かれたので吉六郎様の名前は出さずに柴田家嫡男で元服前の童が考えた。と伝えたら大笑いされてしまいました。挙句の果てに狐に惑わされたか?と馬鹿にされました」


「まあ、それが普通の思考の者の反応だろう。他に、いや誤魔化さずに聞くが、捕虜になった事含めて責められたりしたか?」


「我等二百人の事など、何も聞かれませなんだ。しかし、亡き父上の事を愚弄された事は今でも覚えております。「父が愚か者だと倅がああなるのか?」と言われました。父上が亡くなって七年も過ぎているのに、太郎様を止められなかった責は取ったのに何故、今だにあの様な事を」


やっぱり、この時代は「親の罪が子に報い」が根付いているんだな。これは織田家が天下を取った時に親父を通して根絶する様に申請しよう。それよりも今は


「辛い事を思い出させて済まぬ。最初の話に戻すが源次郎達を説得出来るか?」


「吉六郎様からの最初の命令、絶対に遂行してみせまする」


そう言って源太郎さんは部屋を出た。源太郎が出ていった。声を出しても大丈夫な距離になった事を確認すると利兵衛が


「若様。誠に良いのですか?弟以外は説得に応じると思いますが、弟の方は正直」


「利兵衛。言いたい事は分かるが、源太郎の人望なら説得出来ると儂は賭けた。まあ、期限は三日を見ようではないか」


こうして源太郎の初仕事が始まった


元亀三年(1572年)十月十四日

美濃国 柴田家屋敷内にて


「儂は嫌ですぞ!兄上はあの童に騙されておるのです!捕虜になった人間は死ぬまで奴隷として扱われて、死んだらそこら辺に捨てられて終わりなのですぞ?これまで武田も他の家も、そうやって来たではないですか?」


源太郎が吉六郎に命令された説得任務も三日目に入っていた。源次郎以外の面々は柴田家に降る事を了承していた。しかし最後に源次郎への説得が難航していた


「源次郎!お主はいつまで古臭い事を言っておる。儂らが柴田家の捕虜になって数日、飯は食わせてもらう。体が鈍らぬ様に武芸の鍛錬もやらせてもらう。更に言うなら風呂にも入らせてもらう。これの何処に他の家の奴隷と同じ扱いがあると言うのじゃ?申してみよ!」


「そ、それは織田家の当主に会うまでの誤魔化しに」


「たわけ!良いか、よく聞け!お主も知っておるだろうが儂は二日前に佐野様の首と鎧を岩村城に持って行った。その時、秋山を始めとする者は我々の事に対してどの様な言葉をかけたと思う?」


「兄上、秋山様に対してその様に呼び捨ては」


「いいから答えよ!」


「くっ。あ、秋山様達は我々の事を心配して助けに向かうと言っていたに違いありません」


「源次郎、お主はあの場に居なくて良かったな。秋山を始めとする者達は、我等二百人に対して何も言わなかったぞ。まるで最初から居なかったかの様にな」


「う、嘘じゃ!」


「嘘ではない!それに我等の存在を最初から居なかった者にするだけなら、儂も武田に対して憎しみなぞ抱かん。


だがな源次郎。秋山達は亡き父上の事を愚弄したのだ!太郎様を止めらなかった責で切腹して七年も過ぎているのにも関わらず。じゃ!


秋山はあの様な者でも武田では重臣じゃ。重臣があの様な考えでは他の者も同じ考えで間違いなかろう。


その様な場所にお主は戻りたいのか?それ以上に、お主は父上を愚弄する者達と共に戦えるのか?答えよ!」


源太郎の心からの叫びに源次郎は言葉が出なかった。そして



「よいか源次郎。武田は「元服前の童は戦に関わらない」等と古臭い事を申しておった。その元服前の童が総大将の軍勢に負けたにも関わらずじゃ。


これは古臭いを通り越して、目の前の現実から目を逸らしているではないか!


その様な者達より、元服前の童に色々やらせている柴田家に、いや、新しき事に挑戦している吉六郎様に仕えた方が飯富家再興の可能性も上がるというもの!


それに吉六郎様は岩村城から戻って来た儂に対して「自らの命を捨ててでも家族と仲間を守りたいと思う者は強く信頼出来る」と仰ってくださった。


今だ元服もしておらぬのにこれ程の言葉が、人の心を震わせる言葉を言える人間なら、仕えたいと思えるものじゃ!


だからこそ源次郎、最初は不承不承かもしれぬが、お主も降れ」


「分かり申した。兄上達と共に柴田家に降りまする」


こうして捕虜二百人全員、柴田家に降る事が決まった


同日夜

柴田家屋敷内にて


「吉六郎様、三日かかりましたが我等二百名全員、柴田家に降る事になりました


「うむ。源太郎と源次郎の言い争いは大分離れた場所の儂の耳にも聞こえていたぞ」


「お恥ずかしい限りでございます」


俺と源太郎さんの会話に利兵衛が入ってくる


「源太郎殿。拙者は貴殿のお父上が居た頃の武田家と戦った事は無いが、お父上の噂話はよく耳に入っていたぞ」


「どの様な噂話ですか?」


「まず甲斐国の武士の鎧は返り血で真っ赤に染まっておる。拭いても拭いても取れぬ程に。と。これはお父上が結成した「赤備え」の事じゃろうな。


そして、その当時の武田家当主の武田信虎の通り名が「甲斐の狂い虎」だったからなのだろうが、お父上の通り名は「甲山の猛虎」だった。


恐らく、戦場で敵に恐れられる程の大声で軍勢に指示を出していたところが、虎の咆哮に見えて、そこから付いたのだろうな。


しかし、この三日間の二人の言い争いは中々の迫力があったぞ。きっとお父上も同じだったかもしれぬと思う程にな」


「父上と同じ。かもしれぬと言えど、そのお言葉だけでも嬉しゅうございます」


「まるで虎の子の兄弟喧嘩の様じゃな。これより先は運も必要になるが、助命の書状は勿論書く!そして、全員居ないが源太郎!」


「ははっ」


「我等に降る決断をした事、誠に感謝致す」


「勿体無きお言葉にございます」


これだけの覚悟を持って降伏した人達なら、絶対強い軍勢になる!だからこそ全員生き残れる様に、親父に無理を言おう。

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