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転生武将は戦国の社畜  作者: 赤井嶺


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閑話 童の武功を知った者達

元亀三年(1572年)十月十三日

尾張国 上社村内屋敷私室にて


「殿、岐阜の大殿からの書状にございます」


「うむ。この時期に書状とは戦が近いのかのう?」


殿と呼ばれた男の名は織田三十郎信包。信長の弟であり、織田家本貫の地である尾張国を任せられる程、有能な男である。かつて柴田家が治めていた上社村に屋敷を構えているいる


そんな信包は信長からの書状を受け取り、即座に目を通す。読み始めて間もなく


「あっはっはっは。ま、誠か?何と見事すぎて笑うしかない」


信長と同じく笑い出した


「あの、殿?」


そんな信包に家臣が問いかける


「ああ、済まぬな。いやな、兄上からの書状の中身が俄かには信じられないが、ここまで細かく記されていると信じるしかない内容なのじゃ。読んでみよ」


信包は家臣に書状を渡す


「では、失礼ながら。え〜と「今月九日から十日にかけて美濃国の柴田家の領地に武田が夜襲を仕掛けてくるも、柴田様の嫡男の吉六郎殿が策を考え、佐久間玄蕃様、森勝蔵様の軍勢の働きにより武田を撃退する事に成功。しかも武田の軍勢が約三千、織田方が約二千八百だったが、そのうち武田の将兵五百を討ち取り、二百を捕虜とした」え!と、殿?これは」


「要は「武田が元服前の童が総大将の軍勢に負けた」という事よ。そして、兄上はこの事を声高に喧伝すると同時に、立場の上下に関わらず将兵に伝えて士気を上げよ!との事じゃ」


「成程。確かにこの話を聞けば、武田に対する恐怖も薄くなるでしょうし、吉六郎殿の様に幼くとも武功を挙げられるなら、自身も」と士気は上がる事間違いないですな」


「全く、二年前に住んでいた屋敷を取り壊して更地にしたと思ったら、その建材を持って来て「尾張に戻るつもりはない意思表示のつもりです。捨てるのも勿体無いので、好きな様にお使いください」と言って建材を持って来た時から不思議な童だと思っていたが、この様な武功を元服前に挙げるとはな。よし我々も気張らねばいかんぞ!元服前の童に負けてられぬ」


信包は吉六郎の武功に、自身も家臣も負けてられないと気持ちを切り替えた


元亀三年(1572年)十月十四日

遠江国 浜松城大広間にて


「殿。織田弾正忠様からの文にございます」


「三郎殿から?この時期に文とは何か火急の事でも起きたのかのう?」


家康は疑問に思いながらも、内容に目を通す。そして、


「全く信じられぬが、これ程までに内容が細かく記されていたら信憑性も高い。何より、三郎殿が花押を使った文に虚偽を書くとは思えぬ」


文を読んだ家康が感想を言うと、本多忠勝から


「殿、織田様からどの様な事が?」


「平八郎。声に出して皆に聞かせてやれ」


家康は忠勝に文を渡す


「では僭越ながら。え〜、「今月の九日から十日の日が変わる頃に美濃国の柴田家領地に武田が夜襲を仕掛けるも、織田家家臣柴田殿の嫡男の吉六郎殿の考えた策と、佐久間玄蕃殿の軍勢と、森勝蔵殿の軍勢の働きにより武田を撃退する事に成功した」え?と、殿?こ、これは」


「まだ続きがあるぞ」


「し、失礼しました。え〜と、此度の戦での武田の軍勢の数は約三千、対して織田方は約二千八百。その武田の三千のうち、五百を討ち取り、二百を捕虜とした。そして吉六郎殿が考えた策を簡単ではあるが、記してあるので、使う機会があれば使ってくだされ。と」


「平八郎。この内容をお主はどう思う?」


「織田様が虚偽を書くとは思えませぬが、あまりに現実味が無さすぎて、なんとも」


「どの様な策を記してある?今後の為に知っておこう」


「は、はい。策としては、先ず武田にひと当てした佐久間殿の軍勢が逃げる様に見せかけて武田を山道へ引きずりだしたところを、吉六郎殿達率いる軍勢が山道の中間地点に伏せて、間延びした武田を分断する様に攻撃し、分断された武田に対し、佐久間殿達を追いかけていた者達は佐久間殿達が反転し討ち取り、山道の後ろにいた者達は、下から駆け上がってきた森殿の軍勢で討ち取った。と」


「うむ。見事としか言えない策よ」


「しかも、策を考えるだけでなく自らは危険な場所と役割を受け持つとは」


「これで元服前の童とは」


徳川の首脳陣も織田の首脳陣と同じ様な反応をしていた。そして家康は信長からの三通目の文を声に出して読み上げた


「そして三郎殿曰く、「此度の戦の話を立場の上下に関わらず将兵に話してくだされ。さすれば「元服前の童が総大将の軍勢に負けた武田など恐るるに足らず」と恐怖心も薄れるでしょう。そして、「元服前の童が武功を挙げたなら自分も」と士気も上がるはずです。最後に此度の武田の負けを声高に喧伝してくだされ」と言っておる。これは確かに我々は士気が上がるし、武田は自らの強さに疑問を持ち続けながらの戦になって、いつもより戦果は落ちるであろうな。若しくは負け戦が増えるかもしれぬ。よし、三郎殿の策に乗ろうではないか!この話を広めよ!喧伝に喧伝を重ねるのじゃ!」


「「「「「ははっ」」」」」


家康は信長の策にのる事を決めた


元亀三年(1572年)十月十五日

近江国 木下軍陣幕にて


「兄上失礼します」


「小一郎、何か起きたか?」


「大殿からの書状が届きました」


「殿から?この時期に?まさか岐阜で何か起きたのかのう?まあ良い。書状を見せよ」


「どうぞ」


秀吉は秀長から書状を受け取って読み出した。すると


「はあ?ま、誠か?」


「兄上?」


「い、いや何でもない。まだ途中じゃから待っておれ」


大声を出したり等のリアクションが出たりしていたが、読み終えると


「小一郎。市松と虎之助を此処に呼べ。この話を若者に聞かせようではないか」


「?は、はあ、分かりました。では」


そう言って秀長は一旦陣幕を出た。そして程なくして、市松と虎之助を連れて来た


「兄上、連れて来ましたぞ」


いきなり連れてこられた二人は状況が分からなかった


「「殿。何事でしょうか?」」


「うむ。実は岐阜の殿から書状が届いたのじゃ!その内容が現実的ではないが、殿には何かしらの考えがあるのだろう。書状の最後に「若者に聞かせて士気を上げる事に使え」と書いてあるからな。よく聞け」


「「ははっ」」


「では。「今月の九日から十日にかけて、美濃国の柴田家領地に武田が夜襲を仕掛けて来たが、柴田様の嫡男の吉六郎の策と、佐久間玄蕃の軍勢と、森勝蔵の軍勢の働きにより武田を撃退した」との事じゃ」


内容を聞かされた市松、虎之助は勿論だが、秀長までも固まっていた


「兄上。その内容は誠ですか?」


「儂も俄かには信じられないが、殿が虚偽を記すなどありえぬ。それにな、その策の内容が細かく記されておる。使う機会があれば使ってみよ。と、殿は言っておる。先ずは聞け」


「ははっ」


「何々、武田に対して佐久間の軍勢がひと当てした後、逃げると見せかけて武田を引きずり出して、間延びした武田に対して山道の中間地点に伏せていた吉六郎の軍勢が攻撃を仕掛けて武田を分断。分断に成功したら佐久間軍を追っていた武田を反転した佐久間軍が討ち取り、山道の後ろに居た武田を森軍が討ち取る。というのが策の全容じゃ」


話が終わると、市松が


「あの、殿。確か吉六郎殿は拙者や虎之助より年下で未だ元服前だったはずですが?」


「そうじゃ。元服前どころか未だ十歳にもなっておらぬ。なのにも関わらず、この武功じゃ」


「兄上、もしや大殿はこの話を士気高揚に使えとの仰せですか?」


「うむ。士気高揚でも、特に若者達に聞かせて士気を上げよ!との事じゃ。無論、それだけではない!此度の戦を声高に喧伝せよ!とも仰せじゃ」


「大殿は浅井との戦の前後に武田との戦が

起きるとのお考えなのですな?」


「恐らくな。武田に対しての恐怖心を薄めるにはこの戦の勝利は必要なのは間違いない。喧伝する事も当然じゃ。じゃが、儂はこの書状の中で一番恐ろしいのは、吉六郎が策を考えるだけでなく、戦の中で最も重要で危険な場所に自らを配置している事じゃ」


「どういう事なのですか?殿」


「虎之助よ。お主にも市松にも教えた事があるが、武功を挙げても死んでしまっては何の意味も無い事は分かるな」


「は、はい。殿が常に仰っていた「武功は生きて帰ってこそ」でございますな」


「そうじゃ!しかし、此度の戦で総大将の位置付けの吉六郎は、その様な事を一切考えてないかの様な場所に自らを配置しておる。どの様な考えなのか分からぬが、これで元服前じゃ。元服したらどうなるのか末恐ろしい」


秀吉は吉六郎の将来に恐ろしさを感じていた

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