若武者の胸の内
佐野の首と鎧を秋山に渡して、一旦休む事になった源太郎だったが、落ち着いて休む事など不可能な程、複雑な感情か胸の中に残っていた
(何故、父上の事を死んだ後も愚弄する!確かに父上は傅役にもかかわらず謀反の計画を立てた太郎様を止められなかった。
その事でお館様は家中の動揺を静める為に父上達に切腹を命じた。これは仕方ないと納得出来る。
領地も我々が元服前だからという理由で武田家預かりになった事も今なら納得出来る。家臣も居ない幼い当主に領民が従うわけがないからな。
父上の犯した罪によって我等兄弟は本来なら連座で首を切られてもおかしくなかったが、切られなかった事は感謝しかない、
しかしそんな中で我等兄弟は武田家中から孤立してしまった。その様な状況に佐野様は我等の後見人に名乗り出て、我等に武芸も内政も指導してくださった。
そのおかげで武功をあげ続けた儂が元服した時に、佐野様はお館様に領地の一部を我等に返す許しを得た。
佐野様には感謝してもしきれないが、その佐野様はもう居ない。後見人の居ない今、領地は奪われて二度と返って来ないだろう。
そして、此度の失態で再び足軽から、いや最悪の場合、どれほどの武功をあげても足軽から出世出来ぬだろう。
父上の罪を理由に我等兄弟を使い潰すだろう。山県あたりがやりかねぬ。今の武田家中において佐野様と同じく信頼出来る者など誰も居らぬ!
ならば、織田家に降ったほうが良いのではないか?いや、織田家よりも吉六郎殿が家督を継ぐ事が確定している柴田家に降った方が飯富家再興の可能性も高いかもしれぬ。
「元服前の童は戦に関わらない」その様な古い考えの者達が幅をきかせている武田家中よりも、元服前の童に色々やらせている新しい考えの織田家や柴田家ならば、
我等が新参者として仕えても大丈夫のはず。源次郎は嫌がるかもしれぬが、背に腹は変えられぬ。皆が寝静まる頃合いに柴田家屋敷に向かおう)
こうして源太郎は武田家への恩義が帳消しどころかマイナスになる程、父の飯富虎昌を愚弄された事により織田家の家臣である柴田家に降る事に決めた。




