早起きは過労の始まり2
「利兵衛!死んでいった者達の供養の為の寺の手配を頼む!敵味方問わず丁重にな」
「ははっ」
俺は気を取り直して、戦後処理を続けた。次に取り掛かったのは捕虜の対応だ。ただ、これも数が多い。なんで二百人も捕虜が居るんだよ?まあ、考えても仕方ないから、捕虜集団に向かうと、一人の若武者が声を荒げた
「貴殿ら二人は武士の情けやしきたりを知らぬのか!それとも、知っていてそこに居る元服前の童に我らの首を切らせるつもりか?馬鹿にするのも大概にせよ!!」
え、何?第一声からブチギレスタートしてる人が居るんだけど?しかも、俺にだけじゃなく脳筋コンビにもブチギレてるんだが?
俺が考えこんでいると
「黙らんか!!戦に負けた貴様らが偉そうに発言出来る立場ではなかろう!」
おおう。佐久間盛政が大声で諌めたけど、ブチギレの捕虜は止まらないどころか、ヒートアップしたぞ
「あの様な正々堂々とは程遠い戦をやるなぞ、武士の風上にもおけぬ者達が何を偉そうに」
あ〜あ、この人これはこの場で殺されても文句言えないぞ。俺がそう思っていると
「貴様の遺言は今の言葉で良いのだな?良かろう、その覚悟を尊重し、今すぐ首を切ってやる」
森長可が刀を抜いてブチギレの捕虜に歩き出した。ちょっと、さっき二人に持った尊敬の念を返してくれよ。短気すぎるだろ。
でも、これ止めないと俺に何かしらの責任が出てくるから、どうにかしないと
と、思っている時だった
「お、お待ちくだされ」
捕虜の中から違う人の声が聞こえた。その声に一旦、森長可の歩みが止まる。これはチャンス
「森様、兄上。ここは拙者がやらないといけない事なので、しばし怒りと刀をおさめてもらえませぬか?」
「分かった」
「仕方ない。だが、いつでも首を切る準備はしておくぞ」
とりあえず一時的に止まってくれた。今のうちに、あの落ち着いている捕虜の人と会話するか
「さて、先ほど声をかけた若武者殿、貴殿の名は?」
「拙者の名は飯富源太郎晴昌と申す。先ほど、無礼な発言をしたのは我が弟の飯富源次郎繁昌にござる。弟の発言、誠に申し訳ない。平にご容赦を」
「兄上、この様な者達に兄上が頭を下げるなど」
「黙らんか源次郎!お主の言動で此処にいる全員の首が切られるなど、あってはならぬ事。一人でも多くの者が生き残れる様に動かんか」
成程、飯富源太郎さんとやらが捕虜になっている面々のリーダー的存在か。この感じだと、自分は首を切られても皆を生かす覚悟の様だけど、色々聞いてみるか
「兄弟喧嘩は終わりですかな?飯富の兄殿」
「申し訳ござらぬ。しかし、貴殿はあの二人の小姓なのか?この様な場所に元服前で出るなど、かなり将来有望な童の様じゃな」
まあ、そう思うよね。どう説明しようか
そう俺が考えていると
「はっはっは!やはり初見では小姓に間違われるのう」
「まあ、外部の者からしたら仕方あるまい」
脳筋コンビが笑ってます。その光景を不思議に思った源太郎さんが
「拙者は何か可笑しな事を言ったのですかな?」
質問してきた。それに対して佐久間盛政が
「簡単ではあるが教えておこう。貴殿が小姓と思っておる、元服前のこの童は、領主代理として周辺を治めている織田家の重臣である柴田家の嫡男の柴田吉六郎じゃ」
佐久間盛政に続く様に森長可が
「それだけではない。昨日の戦においてお主達を最初から最後まで翻弄した策を考えた神童じゃ」
ちょっとやめてください。そんな紹介は嫌なのですが?俺は目立ちたくないのですよ。だから、昨日の戦は皆さんに暴れてもらったというのに
「嘘を申すな!その様な元服前の童が貴様らの様な猛将を使いこなせるわけなかろう」
源次郎さんが信じられないから大声で文句を言ってるよ
だけど、そんな文句を森長可は
「嘘と思うのは貴様の自由じゃが、あの様な策を普通の武士が出来ると思っておるなら、相当な世間知らずじゃな」
これでもかという程の煽りを見せる
「おのれ〜」
その煽りに源次郎が怒声をあげると
「やめんか源次郎!お主はしばらく黙っておれ!!弟が申し訳ない。平にご容赦を」
源太郎が頭を下げて、場が落ち着いたので
「飯富の兄殿、先ずは貴殿の要望を教えてくだされ」
「ははっ。先ずは此度の戦で討ち死になされたあそこの鎧を着ている佐野様の首と鎧を岩村城に持ち帰る許可を。そして、我が首と引き換えに他の者達を解放していただきたい」
うん。これは本気だ。ただ、どう見てもこの源太郎さん、人望が凄い有る人だというのか、分かる。源次郎さんを始めとする捕虜達の視線がとても痛い。どうしようかと悩んでいると、
「ぐ〜」
騒いでいた源次郎さんの腹が大きく鳴った。これは仕方ない
「先ずは朝飯でも食べてくだされ。とりあえず話は後からでも良いでしょう」
問題を先送りした感あるけど、とりあえずこれで良いよな。




