いざ決戦!!
「伯耆守様、随分と静かですな。とても戦場が近いとは思えぬ程に」
「うむ。ここまで来るのに一刻は過ぎたであろうが、織田方からの攻撃は何もなかったな。いや、攻撃したくても出来ないのかもしれぬな」
「と、申しますと?」
「うむ。簡単にではあるが説明しよう。此度の上洛についてお館様は、まず東の北条が動けぬ様に、里見を中心とする関東の家々を動かした。
そして北の上杉は周囲の一向一揆を動かして越後を脅かし動けぬ様にした。そして織田が動かぬ様に近江の浅井と比叡山、越前の朝倉、紀伊の雑賀衆。
そして大坂の石山本願寺を動かし四方八方から織田を攻撃している。そうなると織田は各個撃破を出来る限り早くしないといけない事になる。
そんな時に織田の同盟相手の徳川の領地である遠江、駿河、そして徳川本貫の地である三河を奪う算段という事じゃ」
「なるほど。さすがお館様。目の前の戦だけではなく、その先の事まで考えての策でございますな」
「儂も聞かされた時は驚いた。しかもお館様はこの策を織田の間者に聞かれても良いと仰っておられた。
まあ、聞かれたところで織田は周囲の敵で手一杯だから何も出来ぬとの判断なのだろう。それに、お館様は我々が戦場で暴れまわり、
敵を降伏させていく事によって領地と味方を増やしていけば織田も降伏し、やがて武田家による天下統一を。とお考えだと儂は思っておる」
「その時が早く来る様に我々も気張らねばならぬ。と言う事ですな」
「そうじゃ。お館様は勿論分かっておられるし、儂の様な政治に疎い者でも幕府の公方が阿呆だから日の本が乱れておる事は分かる。
だからこそ、お館様は公方に代わり日の本を統一して南蛮に攻められない国にする考えなのだろう」
「戦の事だけではなく、更にその先までお考えとは」
「だからこそ、此度の織田及び徳川との大戦の前哨戦にもならぬ戦でも気を抜くでないぞ。よし、ここで休息じゃ!しばし休め」
「秋山様」
秋山が家臣達に休息を取らせた時、偵察から戻って来た忍びが目の前に現れた
「お主か。砦の様子はどうであった?」
「はっ。砦周辺の百姓の家々は寝静まっております。更に領主の柴田の屋敷も同じく」
「ふっ。やはり簡単に飢えぬ尾張や美濃の者達は危機感が足りぬな。我々が静かに進軍していたとはいえ、
敵が夜襲に来るかもしれぬと言う予想も出来ぬとは。よし、砦を完全に制圧して美濃侵攻の足がかりを増やそうではないか」
「宜しいのですか?最優先は徳川を制圧する事だったのでは?」
「砦を制圧したらお館様の指揮下に入り徳川と戦うが、織田に少しでも痛手を与えておけば後々の戦において有利になろう」
「はあ。秋山様がそう仰るなら」
「うむ。報告感謝する。我々は四半刻ほど休んだら砦を攻撃する。お主は戦に巻き込まれない所で休んでいてくれ。お主はお館様からお借りした忍。儂よりもお館様の為に働く事が最優先じゃ」
「それではお言葉に甘えて」
そう言うと忍びは秋山の目の前から去って行った。そして四半刻が経過して、武田軍は進軍を開始した。周囲から何も起きないまま美濃加茂村に到着すると
「これだけの数の人間や馬の足音でも起きぬとは、なんとも呑気な者達よ。それとも既に逃げ出したのかのう?」
「「「「わっはっはっはっ」」」」
あまりの静けさに完全に油断しきっていた
「まあ良い!さっさと制圧してしまおうではないか!全軍突撃!!」
「「「「「うおおおおお」」」」」
秋山の号令が下されると、足軽達が一斉に突撃した。すると
「カラカラカラカラ」
と鳴子か激しく鳴り響く。それと同時だった
「ギイイ」
屋敷の門が開き、中から佐久間盛政率いる千二百の軍勢が一気に武田軍に突撃してきた
「「「「うおおおお」」」」
完全に虚を突かれた形の武田軍の先鋒達は次々に討ち取られていく。ある程度討ち取った後、大将の佐久間盛政の放った一言が大いに武田家を煽った
「武田も大した事ないのう!!これほどの弱小とはな。当主の信玄坊主は甲斐の虎と呼ばれている様じゃが、何が甲斐の虎じゃ。甲斐の山猿とでも呼んでやろう」
それを聞いた秋山は
「おのれ〜、尾張のうつけの家臣如きがお館様を愚弄しおって!目標を変更!織田軍を全滅させてこい!大将の首を取った者は褒美を取らす!全軍突撃じゃあ」
「「「「「おおおおお」」」」」
怒りにより士気が上がった武田軍を見て、佐久間盛政は
「山猿達が怒り狂っておる。これは戦わずに逃げるが得策じゃ」
と、また大声で煽った。そして
「全軍撤退!山を越えるぞ!急げ!」
吉六郎の策に従い、全軍で山道を駆け上がっていた
「ええい、逃げるな卑怯者!追え!あ奴らを決して逃すな!」
「「「「おおおお」」」」
武田軍も釣られる様に佐久間達を追い山道を駆け上がっている
この時、佐久間盛政は
(吉六郎。お主が考えた策に武田が見事に嵌ったぞ。儂の最初の出番はここまでじゃ!儂は目一杯気張ったぞ!次はお主の出番じゃ)
自身が武田と戦えた事と吉六郎の策が嵌っている事に興奮しつつも、吉六郎を心配する余裕も持っていた
そして、当の吉六郎はというと
「子供の悪知恵とも言える策に嵌ってくれてありがとう」
山道の途中にある木の上から戦況を見ていた
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