眠れぬ日々は武田のせい!
元亀三年(1572年) 十月九日
美濃国 柴田家屋敷にて
「えい!やあ!」
「それ!うりゃあ!」
「そうじゃあ!皆、目の前の敵を一撃で叩きのめすには長い棒を強く早く振る事が大事じゃ!いつ武田が来るか分からぬからこそ、いつでも戦える様にしておくのじゃ」
「「「「はい!!!!森様」」」」
どうも皆様お久しぶりです。柴田吉六郎です。現在、目の前で援軍に来てくれた織田家の若き猛将、後の世に鬼武蔵と呼ばれる森勝蔵長可の指導による
領民達の模擬槍の訓練に軽くひいている六歳児です,推定とはいえ朝の五時から昼二時くらいまで
休みなしでの訓練に領民の皆の体が心配ではありますが、何かが出来る訳もありません。
平成や令和の戦国武将が主役のゲームにありがちな「この武将が前線に出ると味方の攻撃がアップ」とか「進軍速度がアップ」とかのブーストが現実世界で見られるとは思ってなかったです。
だってね、領民の皆さんの顔が、今すぐに戦がしたくて堪らない戦に飢えてるバトルジャンキーみたいになってるんですよ。普段は穏やかに過ごしているから、森さんのブーストが味方の士気爆上げなのかな?と思えて仕方ないです。
「若様」
俺がそんな事を考えていると、利兵衛から呼ばれました
「いかがした利兵衛?」
「若様、森様と佐久間様にもご報告しておきたい事が」
重要案件な様です
「森様、お伝えしておきたい事が」
「分かった。皆、今日はここまでじゃ!吉六郎、しばらく皆を屋敷内で休ませてくれぬか?」
「はい、構いませぬ。皆、しばらく休んで良いからな」
「「「「ありがとうございます若様」」」」
こうして森さんを俺の部屋に移動させていたら、親戚の佐久間さんもちょうど戻って来ましたよ。家臣の皆さんと周辺で戦いやすい場所を探しながら山岳戦の訓練をしていたところだったのですが、何やらテンション高めです
「吉六郎、勝蔵も居るか!」
「佐久間様、恐らくお伝えしたい事は我々と同じと思われますので、若様の部屋に来ていただけますか」
「分かった」
こうして俺の部屋に全員集合した訳だけど
「さて利兵衛、何か重大な情報を掴んだ様じゃな?話してくれ」
「では。物見からの報告で武田が落とした岩村城に食糧が多数送り込まれているとの事です」
「儂からもじゃが、ここから岩村城の中間くらいの場所に行ってみたら、森の一部が開けていた。恐らく武田の者達が戦いやすい様に木を切っていたのであろう」
嘘だろ?確か史実だと今年起こる三方ヶ原の戦いは12月の後半のはずだから、まだ攻めてこないと予想して、もう少し武器や食糧を増やす予定だったのに、
こんなん2、3日以内に戦起こる事確定じゃないか!森を開けた状態にしたら進軍速度は上がるし、食糧を増やすという事は此処を絶対叩きのめす決意と言う名の殺意の現れとも言える。仕方ない。
「兄上!森様!武田と周囲がその様な状態ならば、早くて今日から明日にかけて、遅くとも三日以内には攻撃してくると思われます。家臣の皆に戦の準備をお願いします」
「「任せよ」」
そう言うと脳筋コンビは部屋から出ていった
「さて利兵衛。我々の家臣は勿論、領民の皆にも話をして戦の準備じゃ!儂の鎧も準備して、お」
此処まで話したら俺の視界は歪んで、そこからの記憶は無かった
「••••様。若様」
え、めっちゃ利兵衛の声が大きいんだけど?俺死んだのか?いや、指や足の感覚はあるから生きてるか。とりあえず体を起こそう
「どうした利兵衛?」
「目覚めた。若様が目覚めたぞ!佐久間様と森様に報告を」
「はい」
利兵衛が命令すると、侍女が急いで部屋を出た
「利兵衛、何をそんなに慌てておる」
「慌てるのも当然です。若様がいきなり倒れて四刻も目を覚まさなかったのですぞ!もしも若様のお身体に何かあったならば、儂が腹を切るだけではすみませぬぞ」
利兵衛が涙を流してそう言いながら詰めてきた。
「分かった。分かったから。で、今は何か変わった事は起きたのか?」
俺が質問すると、「「吉六郎」」とデカい声が2人分聞こえると同時に襖が開いた。脳筋コンビだった
「吉六郎。お主が倒れたと聞いて慌てたぞ!大事ないか?体は苦しくないか?」
「知らぬ間に無理をさせてしまった様じゃな。すまぬ」
「拙者は大丈夫です。それよりも武田はどうなりましたか?」
「今は動いていないとの事じゃが、我々の家臣は勿論、領民の皆もいつでも戦える様に準備万端じゃ」
「良かった。拙者も鎧の準備を」
俺が立ち上がると同時に襖が開いて、最悪の知らせが入ってきた
「武田が岩村城から出陣しました。その数およそ三千」
ほぼ全軍じゃねーか!




