人間の進歩は無理と無茶と無謀が必要
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。
元亀三年(1572年)十月五日
美濃国 岩村城内大広間にて
「秋山様。此処の近くに何やら堅牢な砦がございます。物見によると織田の旗と、織田家家臣の柴田の旗が翻っておるとの事です」
「おおよそ、どれくらいの兵が居そうか分かるか?」
「殆どが百姓の兵ですがまともな武士は年寄りばかりで数は旗の数からの推測になりますが七百程との事にございます」
現在、吉六郎達の近くの岩村城内にて城を奪った武田家家臣、秋山虎繁を大将とする者達が大広間にて軍議を開いていた。その内容は吉六郎達の砦を攻撃するか否か。と言う事だった。
「ふむ。我らの数は二千五百。攻撃したなら落とせるだろう。だが、お館様は西上して京に向かう際、我々に美濃国を通って遠江国を攻める様命じられた。その砦の近くを通らずとも遠江国には安全に出陣出来る」
「ならば素通り致しますか?」
「いや!素通りして背後を攻撃されてはたまらぬ。壊滅させずとも追ってこぬ様に少しばかり攻撃して遠江国に向かう。五日後の朝、出陣する。小勢との戦じゃが気を抜くな」
「ははっ」
こうして吉六郎は強制的に初陣を経験する事になった
そんな事を知らない吉六郎は
「今日は来なかったな」
「ですが、油断は禁物ですぞ。戦において敵の姿が見えなくなるまでは戦の最中であると心得よ!と、道三公は仰っておりましたからな。
それに拙者が斎藤家に仕えていた頃から武田は戦上手であり、兵達も貧しい甲斐国で鍛えられておりますから一人一人が猛者であります」
「ふむ。相手の数も分からない事には策も立てようが無い。利兵衛、武田はどれくらいの数で来ると思う?」
「堅城と呼ばれた岩村城を落としたのですから、最低三千は見積もるべきかと」
「最低三千か。此処には村の皆も来てくれたけど、戦える男達が二百五十、利兵衛と歳の近い隠居の者達が百、儂の様な元服前の者が五十。合わせて四百か」
「若様が巡らした旗の数で人間を多く見せる策で七百くらいに多く見せる事は出来たと思いますが」
「戦経験豊富な武田が初陣どころか元服もまだの童の策と、この堅牢に築いた砦を見て攻撃せずに他所に行ってくれたら良いが、それは無いだろうな。山での戦か•••」
(鎌倉時代末期から南北朝時代初期に戦っていた楠木正成は、籠城戦で歴史書では百万、
実際は恐らく十万くらいの幕府軍の兵を相手にゲリラ戦を繰り広げて一回目は撃退して、二回目は死んだふりして城を捨てて逃げて、
その後奪い返したんだよな。でも、あの頃と時代が違うからなあ)
吉六郎が悩んでいると
「若様!これは武器になりませぬか?」
村人の1人が持って来たものは、金属の筒だった
「これこれ。それでは敵を叩く事しか出来ぬのではないか?」
「いや、利兵衛の爺様。そうかもしれないけど無いよりましではないですか。これで若様をお守り出来るなら、構わないですよ」
「ちょっとその筒見せてくれ!!」
「ど、どうぞ」
吉六郎は筒を奪う様に受け取った
(これ、中に入れられる鉛玉と未だ量産出来てないけど、こっそり作っている黒色火薬が使えるなら簡単な火縄銃が出来る)
「若様?」
「しばし待っていてくれ」
そう言うと吉六郎は、本来なら父の勝家の許可が必要な武器庫の扉を開けた
(確かこの辺に•••あった!折れた槍の穂先や、刃こぼれした刀。鉛玉の代わりになるはず)
「皆!こちらに来て、この箱を出してくれ」
利兵衛や村人を呼び出して使えなくなった箱を運ばせると
「皆、この使えなくなった槍の穂先や刀を、この筒の中に引っかからない大きさにまで細かくしていてくれ!儂はある物を取ってくる」
そう言うと吉六郎は厠の隣の小屋に行き、一掬いの火薬を確保して、屋敷の庭に戻った
「若様、細かくし終えたのですが、それは?」
「利兵衛、これは儂の思惑通りに行けば戦の常識を覆えすものじゃ」
「は、はあ」
「物は試しじゃ!筒は幾つある?」
「三十程ですが」
「良し。一つやり方を見せよう」先程細かくした物を持って来てくれ」
吉六郎は皆が持ってくる間に準備をした。筒の後ろから黒色火薬を詰めて前後から押し固めて、持って来た箱から細切れを取って前から詰めた
「利兵衛!弓用の的で構わぬ!持って来てくれ」
「はは」
そして持って来られた的を置いて全員を安全な位置まで下がらせると、縄を筒の後ろに差し込んで、火のついた別の縄の巻かれた棒を後ろから筒に差し込んだ。数秒経つと、「パーン」と乾いた音と同時に細切れが的に刺さった
「成功じゃー!」
火縄銃もどきの反動で後ろに飛ばされた吉六郎は、顔を真っ黒にしながら喜んだ
「若様、これは」
「これで武田が本気で攻めて来ても、撃退出来る可能性が上がったぞ」
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