領地に帰宅と色々なお知らせ
天正三年(1575年)六月二十五日
美濃国 柴田家屋敷にて
「さて!皆、此度の戦では見事な暴れっぷりであった!皆が挙げた武功も含めて、武田は壊滅的被害の為、しばらくは立ち直れないだらうと、殿は仰っていた
そこで、殿から当面の敵は摂津国の本願寺と定めるとの事じゃ。場所が畿内なだけに儂達が出陣する事は、ほぼ無いと思うが、いつでも出陣出来る準備はしておいてくれ」
「「ははっ」」
皆さんおはようございます。岐阜城から領地に戻って来ました柴田六三郎です。出発の日に内容激重な書状を読んで、書いた本人から
「あなたの家臣の甥達に伝えてください。ついでに自分の子供がそちらに行ったら召し抱えてください」
なんて内容だったので、どのタイミングで伝えるべきか悩んでますが、それ以外にも俺から伝えるべきお知らせがありすぎませんか?
俺が色々やってるとはいえ、柴田家当主はまだ親父なんだぞ!?まあ、色々言っても仕方ない。
水野様と一緒に戻って来たし、何か変なところがあったら、水野様から修正が入るだろう
「若様?」
「ああ、済まぬ。さて、改めてじゃが。此度の戦の褒美という事で、父上の領地が、此処から越前国の南部に変わる事が決まった。
いつ頃移動するかは、長月にこちらに来る父上から伝えてくださるだろう」
俺の発表に赤備え達は
「越前国とは、どこじゃ?」
「すまん。儂も分からん」
「まさか、また海の無い国なのか?」
「楽しみではあるが」
うん。俺も行った事ないから偉そうな事は言えないけど、やっぱりザワザワしてるな。ここは
「水野様。越前国の説明を赤備え達にしてくださいませぬか?拙者も名前しか知らないので」
「良かろう。これ、赤備えの皆。越前国を簡単ではあるが、説明するが。越前国は、現在我々が居る美濃から西へ行くと畿内に入るが、
その畿内を北向けに行った時に最初に入る北陸道の国である。そして、六三郎殿の父の権六殿が手にした南部は、畿内は勿論じゃが、越中、加賀、能登、越後と、
軍神と評される上杉不識庵謙信の上杉家とも近い。情勢次第では、名前が出た四ヶ国を進むかもしれぬし、
その逆で、西へ向かい、中国地方の全域を治める毛利家と戦をするかもしれぬ。ここまで言った事で、権六殿が治める事になった越前国南部は、
どういう場所か、分かるか?銀次郎!答えてみよ!」
脳筋度合が強い事でお馴染みの銀次郎が指名されたけど、大丈夫か?赤備えの皆も注目してるぞ
「水野様。その場所は戦に出る可能性が高いと同時に、敵に奪われてはならぬ要衝である。という事ですな」
「うむ。完璧に分かっているとは言い難いが、最低限の事が分かっておる様じゃな。それとじゃが、いや、ここから先は六三郎殿が伝えた方がよかろう」
え?俺?まあ、全員に伝えておくべき事は伝えておこうか
「それでは儂から伝えておくが、先程も言ったが、父上は長月になったら領地に戻ってくる。その時に、新しい嫁を連れてくる予定じゃ」
「え!?」
「大殿が嫁を」
「若様の母君が亡くなられてから五年以上過ぎておるので、二度と嫁取りをしない誓いでも立てていたのかと」
「つまりは若様に新しい母君が出来るわけですか」
なんか皆、めっちゃ盛り上がってるな。まあ、前世の平成や令和でも同じ感じだったな。彼女や嫁さんが居る雰囲気が全く無い人が、
いきなり彼女をゲットしたり結婚したら、プチパニックに近いお祭り状態になるのは、いつの時代も変わらないって事か
「まあ、父上の新しい嫁に関しては殿が決めるだろう。儂も殿にどの様な女子が良いか?と聞かれたから希望は出したが、
父上の尻を叩ける様な、男子だったら一廉の部署になれたであろう、戦の時には甲冑を着て我々の士気を高める様な気概ある女子を。と希望したが、
その様な女子は、儂は見た事が無い。もしも居たら、間違いなく家中の女子達にも良い刺激になるだろう」
「若様。ひとつよろしいでしょうか?」
喜三郎が質問がある様だ。
「何じゃ喜三郎?申してみよ」
「はい。もしも、の話になりますが、大殿と新しい嫁の間に男児、つまり若様の弟が産まれました場合、
その新しい嫁の家柄次第で、柴田家が」
喜三郎が言い切る前に
「喜三郎!そこまでにせんか!」
喜三郎を嗜める声がした。声の主は、まさかの利兵衛だった
「喜三郎!儂が言うのは烏滸がましいが、大殿は、若様の事を主家である織田家と同等に大事であると考えておるからこそ、
厳しくも暖かい言葉と態度で接しておるのじゃ!万が一の家中の不和を煽る様な事を申すな!!」
うん。一気に大広間が静かになった。ここは俺が頑張らないといけないか
「利兵衛。お主の言動、誠にありがたい。が、ここまでにしておこう。喜三郎も儂を気遣ってくれたからこそ、あの様に言ってしまったのだろう。
そうであろう喜三郎?」
俺が喜三郎に振ると、
「「「「若様!申し訳ありませぬ」」」」
喜三郎は勿論だけど、赤備え全員が頭を下げて来た。
「源太郎?儂は喜三郎に」
「分かっております!ですが、若様は、我々が仕え始めた日に、「家臣の咎は大将の責」であると仰っておりました。
若様に指名されたからこそ、拙者が赤備えの大将を務めておりますが、気持ちは一蓮托生。一人が愚かな言動をしたならば全員で詫びる事こそが、
結束も強くなると思っているからこそ!此度の喜三郎の言動、全員で詫びたいと思う所存にございます。喜三郎をお許しくださいませ」
重いよ!別に俺はそこまで怒ってないんだけどな。ただ、ここまでするなら、少しは注意しとくか
「喜三郎」
「は、ははっ」
「儂はな、現状、兄も姉も弟も妹も居ない。だからこそ、そんな家督争いの話なぞ気に止めぬ。だがな、
父上は勿論、利兵衛も、水野様も。家督争いで家が乱れて弱体化した様を見てきたからこそ、あの様に反応してしまうのじゃろう。
喜三郎が今やってしまった事は、昔からあることわざで「口は災いの元」に当てはまるじゃろうな。
今後はその様な発言は謹んでくれ。此度の戦では、赤備えは1人も討死しなかった。戦で討死したならば、
仕方ないと無理矢理諦める事も出来る。だがな喜三郎。この様な事で、お主達の命が無くなるなど、儂はいやなのじゃ。
だからこそ、思った事は口に出す事は控えよ。思った事をすぐ口に出す人間は、その言葉が相手を傷つけてしまわないか?を考える事の出来ない阿呆と、
周りから見られて馬鹿にされてしまう。喜三郎。お主に子が出来て、その子が父の周りには人がほとんどいない。と気づいて、その理由が、お主の言動だとしたら
その子はお主を軽蔑するかもしれぬぞ?だからこそ、言葉はよーく考えて口に出してくれ。儂からの頼みであり、願いじゃ!」
「若様!申し訳ありませんでした」
「頼むぞ。利兵衛。とりあえず喜三郎には釘を刺したから大丈夫じゃろうから、この件は不問にする」
「若様がそう仰るなら、拙者は従います」
「水野様。此度の件、父上には内緒でお願いします」
「柴田家内部の事で、儂がとやかく言う資格は無いが、六三郎殿の頼みならば」
「忝い。さて、話を変えるが、次は皆が喜んでくれるであろう事が儂に起きた。いや、決まった。と言った方が良いな」
よくない空気は祝い事で変えよう。




