壊す為の準備
「さて、六三郎殿。策が決まったと言っていたが、どの様な策なのか、そろそろ教えてくだされ」
「ええ。動くのに良き頃合いでもありますので、説明しましょう。先ず、砦の麓に行き、拙者が作った武器五十を砦の基礎部分に打ち込みます。
そして、日が昇ると同時に、武器の全てに火をつけて、基礎部分を爆発させ、砦の中にも火をつけた武器を投げ入れて、出て来た武田を叩きのめす。という策です」
「ふむ。確かにその策ならば、夜のうちでないと動けないか。六三郎殿。策の仕掛けに動きなされ」
「はい。源太郎。聞いていたとおりじゃ。赤備えの中でも手先が器用な者1名と、護衛役で武芸の腕に覚えのある3名を1組とし、武器を打ち込ませよ」
「ははっ。若様。打ち込む場所は向かい合わせにならない様にした方が宜しいでしょうか」
「そうじゃな。ただし、一方向に全て打ち込まない様にな」
「ははっ。では、早速動いて来ます」
「うむ」
こうして源太郎達は打ち込みに出発したけど、大丈夫だよな?
そして、約1時間後、
「若様!全ての打ち込みを終えてきました。それから、爆発の威力が上がる様に、油も多めに撒いて来ました」
「そうか。先ずは皆が無事で良かった。そして、油を多めに撒いて来た事、感謝するぞ」
「有り難きお言葉にございます。しかし若様。我々赤備えの働く場は、これだけではありませぬよね?」
「当然じゃ!源太郎、赤備えの皆にしっかりと伝えておけ。砦の基礎部分を爆発させて、武田が出て来たら、暴れて来い!儂が言っていたと!皆に伝えておけ」
「ははっ!」
「源太郎。先に言っておくが、武田が出て来た時に儂の命令を聞かずに、お主の裁量で攻撃を仕掛けよ!」
「よ、良いのですか?」
「儂の命令を聞く為に、一々儂の元に来ていては好機を逃してしまうであろう。ならば、お主が采を振るえ!」
「せ、拙者が」
「儂が采を振るうよりも、その方が良い。源太郎、改めて言うが、赤備えの頭領はお主じゃ。それならば、お主の裁量でこそ皆も縦横無尽に動くじゃろうからな
儂はお主達が動きやすい様に準備を整える事が、最初のやるべき事じゃ。
後は前に出て戦うお主達の邪魔にならない様に戦況を聞いて、前進するか撤退するかを決めるのが、儂の残りのやるべき事じゃ。だからこそ源太郎よ」
「ははっ」
「赤備えの皆に儂が今話した事を伝えて来い。赤備えの全員が頭と身体を鍛えに鍛える事三年、それを見て来たからこそ細かい事は言わぬ。と」
「ははっ」
「うむ。早ければ朝一からの戦になるかもしれぬから、皆の元へ行って、休んでくれ」
「ははっ」
俺に言われて源太郎は皆の元に戻っていった
〜赤備えの詰所にて〜
「兄上。軍議はどの様な内容になったのですか?」
「若様は我々にどの様な命令を?」
「源太郎殿」
「まあ待て。若様からの命令は、先程打ち込んで来た武器に日が昇ると同時に火をつけて、砦の基礎部分を爆発させ、更には中にも火をつけた武器を投げ入れて
そこから出て来た武田を叩きのめす。という策じゃ」
「おお。武田を炙り出すわけか。しかし、それならば力攻めでも良かったのでは?わざわざ遠回りなやり方よりも」
「その様な事を言うな!」
「源太郎殿?」
「兄上。如何なされたのですか」
「よいか。若様は恐らく、砦の中の人数が分からないから力攻めは取らないと決めたのだろう。その上で、我々は勿論、お味方の被害も少なくする為に、この様な策を取ったのじゃろう」
「し、しかし」
「それに!若様は儂が此処に戻る前に「赤備えの全員が頭と身体を鍛えに鍛える事三年、それを見てきたからこそ細かい事は言わぬ。だからこそ、武田が出てきたら、源太郎に采を託す
一々儂の命令を聞きに来ては好機を逃すかもしれぬ。それならば、源太郎の采で赤備えを暴れさせて来い」と、我々を信頼しておられるからこそ、この様な策を取ったのじゃ。
それはひいては自らの武功よりも、我々の武功を優先させてくださったのじゃぞ!それをお主は!何故若様のお心遣いが分からぬ!」
「わ、若様がその様なお考えだったとは」
「若様に申し訳ないと思うのならば、明日、武田を徹底的に叩きのめせ!若様は武田の足軽だった我々の命を救ってくださっただけでなく、
武田に居た時以上の立場を与えてくださり、武芸と教養を身につけてくださったのじゃ。その若様の初陣、華々しいものにする為には、我々の働きは必須じゃ!
明日の為に、しっかり休んでくれ。儂からは以上じゃ」
こうして、戦の前の準備は終わった。




