子の書状と父の威厳
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。
吉六郎が書いた書状を持った家臣は、屋敷から出発し、夜になると勝家達が今日の寝床に利用している寺に戻って、勝家に書状を渡した
「殿。若様からの書状にございます」
「ほう。彼奴が書状とは珍しい。どれ、中身は」
勝家はそう言いながら書状を開いた。最初は目を大きく見開いていたが、徐々に目尻が下がっていき、遂に満面の笑みになった。勝家の屋敷に向かう為、同行していた利家、秀吉、光秀の三人はその様子に驚いていたが、直接声をかけづらかったので、小声で話し始めた
(又左!)
(何じゃ藤吉郎?)
(親父殿の顔が凄い事になっとるが、何か分かるか?)
(儂が分かる訳無いじゃろ!明智殿は分からんか?)
(御二人よりも後に織田家に仕えた拙者は分かりませぬ!ここは、柴田様の屋敷によく行かれる前田殿が聞いた方が早いかと)
(明智殿の言うとおりじゃ!又左、お前が聞け!)
(狡いぞ二人共!しかし、このままでは埒があかないし。分かった!儂が聞く)
半ば強引に利家が声をかける事が決まった
「あの、親父殿?吉六郎からの書状には何と書かれておるのですか?」
「おお、すまぬ。いやな、書状の最初の方にお主達三人が来るなら屋敷中の酒が無くなっても良いか?と書いてあったのじゃが、続きを読むと、お主達の家臣も来ると思っておる様じゃ。儂の家臣は勿論、お主達の家臣も労おうと思っている様でな。儂が渡した書状には、お主達三人を連れて行く!としか書いてないのにも関わらず、その様に考えておる事が、彼奴もまだまだ童と思ってしまって。思わず笑みが溢れたのじゃ」
「そ、そうだったのですか」
「それだけではない。儂らが出陣した日から毎日犬千代と市松と夜叉丸が屋敷に来て共に修練を行って、時折、領内の村に行き猪や鹿退治をしておるそうじゃ」
勝家の言葉に秀吉が反応した
「親父殿。市松と夜叉丸が毎日屋敷に行っているとは誠にございますか?」
「うむ。お主の弟の小一郎が二人を連れて儂の屋敷に来ているそうじゃ。以前の猪退治の時よりも、二人が逞しくなっておるとも書かれておるぞ。見てみよ」
そう言いながら勝家は秀吉に書状を渡した
「失礼します」
秀吉は書状をじっくりと読んだ。すると、
「小一郎め。自身が武芸であまり二人を鍛える事が出来ないからとはいえ、吉六郎に迷惑をかけておらぬかのう」
秀吉がそう言うと勝家は
「藤吉郎よ。吉六郎も二人が来てくれて大変助かると書いておる。だから気にするな」
「親父様がそう仰るなら」
「儂に意見する時もあるが、彼奴とて未だ幼い童。犬千代達三人を兄の様に少なからず思っておる筈じゃ。だから、気にするでない」
「は、はあ」
「四人がそれぞれ武芸を磨き、立派な武士と成れば、殿が天下統一した後の勘九郎様が元服した時の織田家を支える事にも繋がるからのう。良い事じゃ」
「柴田様。拙者の倅もその修練に参加させてもらえませぬでしょうか?未だ三歳なので、大した事は出来ませぬが」
「良いぞ!後の織田家の為に童達は武芸を鍛えるべきじゃ!」
勝家がそう言うと、利家が話した
「親父様。戦場で「鬼柴田」と呼ばれておるとは思えぬ程の笑みでございますな」
秀吉が続く
「確かに。敵も今の親父様を見たら同一人物か疑うでしょうな」
光秀も続く
「柴田様にこの様な一面があったとは」
「こ、これ。儂の顔の話はもうよいではないか。それよりも明日の早朝に出発するのだから、もう休め」
勝家がそう言うと。三人はそれぞれの部屋に戻った




