師は若者達を見て
信元は吉六郎の家臣達との顔合わせの後、風呂を堪能し、柴田家独特の飯を食ってから部屋に戻って、沙耶の酌で呑んでいた
「沙耶。儂は五十を過ぎた年寄りで、最早胸が高鳴る事など無いと思っていたが、昼に吉六郎殿やその家臣達に会って、胸が高鳴ったぞ」
「どの様な事があったのですか?」
「うむ。先ずは、源太郎という名の若者が頭領であると思われる二百名程の武士達の体格がな、着物の上からでも分かる程に逞しい!
しかし、無駄な肉なぞついておらぬ様であった。どれ程の訓練をやれば、あの様な身体になれるか?家臣達にも早くやらせたい」
「藤四郎様がそこまで仰る程、屈強な身体の若武者が多いのですね」
「その若武者達を吉六郎殿が見事な弁舌と統率力で従えておる事もまた、儂の胸が高鳴る要因じゃ。
間違いなく頭も切れるであろう。そんな吉六郎殿を鍛えて、軍略を教えた時、その軍略を吉六郎殿はどの様に使うのか?
楽しみであり、殿から受けた御役目の重大さを実感しておる」
「藤四郎様のご様子から察するに、噂に違わぬ、いえ、噂以上の神童。という事ですね」
「確かに噂以上の神童じゃな。本人は否定しておるが。ただ、そう言った神童と呼ばれる若者はえてして、自分本位になりがちじゃが
吉六郎殿は違う様じゃ。家臣の皆に対して「三吉の手本となる様に心がけよ!勿論、自分もじゃ」と言った後、三吉に対して
「水野様の子が、お主くらいの歳になった時、慕われる様な男になれ」と言っていた。これが僅か九歳の子の言葉か?と本気で思うたぞ
出立前に柴田殿と軽く話したが、柴田殿曰く
「儂は具体的に「あれをしろ」や「これをしろ」と言った事は無く、せいぜい「あれをお主ならどうするか考えてみよ」と
言うくらいで、基本的に「こういう状態なので、こうしていいですか?」や「こういう状態なので、こうしました」と
言ってくるくらいなので。ただ、武芸に関しては我が子といえど甘い顔はせずに鍛えました。と言っておったが、
賢いだけでなく、人の上に立つべき器量を持つ。どの様に子育てをすれば、松千代も吉六郎殿の様に育ってくれるかのう?」
「藤四郎様。それ程までに吉六郎殿の行く末が楽しみなのですね」
「吉六郎殿だけではないぞ?三吉もじゃ。吉六郎殿が話をしている間、一切動かずに吉六郎殿を見ておった。普通三歳の子は、
注意散漫になっても仕方ないのじゃが、紫乃殿や利兵衛殿は勿論、道乃も良い手本として接していたのだろうな」
「藤四郎様。誠にお顔が嬉しそうですね」
「儂と家臣達は新しい土地と役割を楽しんでおる。だが、娘達は慣れるのに時間がかかるだろうが、こればかりは時間が過ぎていけば慣れると期待しよう
さあ、明日から忙しいぞ」
そう言って信元は残っていた酒を呑み干した。
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