ひとくちサイズで構想膨らむ
「さて、次のパオン作りをやりますか」
殿からのハードル高めのリクエストを聞いて、台所に戻って来ました
パン生地はあるから、あんこ作りがメインなんですが、
これが地味に辛い。小豆を茹でて、お湯を捨てて、また茹でてを複数回やって、小豆が簡単に潰せる様になってからがスタートです
先ずは濾しあんからです。ざるで柔らかくなった小豆を濾して、濾したあんこを鍋の中で焦がさない様に動かし続けながら、
良いタイミングで樹液を投入して、甘みが満遍なく行き渡る様に混ぜたら完成です
ですが、ここで少し濾しあんを半分に分けて、半分はそのまま、もう半分は塩をひとつまみ入れて、再度混ぜ合わせて
それぞれ適温に下がったらパンに挟みます。殿に出す前に
「皆さん、同じ見た目ですが、少し味に変化を入れましたので味見してみてください」
料理人の皆さんに味見してもらいます
「では。こちらを」
そのままを食べましたね。どうですか?
「これは優しい甘さですな。それではもう一つを」
塩をひとつまみした方は?
「おお!これは同じ材料を使っているのに、先程の物よりも甘味が強く感じます」
素晴らしいリアクションありがとうございます。やっぱりスイカに塩の様に、甘いものに塩を少量入れると、甘さ増すんだな
これは粒あんにも使おう
で、粒あんも2パターン作って、パンを焼いて、それぞれのあんこをパンに挟んで、完成です
それを殿の前に持って行きましょう
「ほお。今度は煮た豆と豆を濾した物とな」
「はい。どちらも砂糖は使っておりませぬ。尾張国周辺で取れる小豆の「大納言」と呼ばれております種類と、昨日のパオンにも使いました夏蔦の樹液で煮た物でございます」
「昨日食った木の実を煮詰めた物入りのパオンを超えられるか?どれ」
そう言いながら殿は、通常の濾しあんパンを食べた。そのリアクションは
「何とも優しい甘さよ。パオンその物の甘みを邪魔しない煮て更に濾した小豆の甘み。昨日のパオンに勝るとも劣らぬ」
良いリアクションです
「次は、吉六郎よ。これは同じ中身のパオンか?同じ物を連続で食うのは流石に」
「殿。見た目は同じですが、食せば違いが分かります。是非とも」
「そこまで言うのであれば。どれ」
塩を混ぜた濾しあんパンのリアクションは?
「おおお!こ、これは!先程の物より甘味を強く感じる!何故じゃ!?同じ材料を使っておるのに!吉六郎!説明せい!」
「はい。これは領民が味を濃くしたい時は同じ味にするか、真逆の味を付け足すかをやっておりましたので、
事前に他の人で試して「甘い物には少量の塩を混ぜたら、甘味が強くなる」と確信出来たからこその味でございます」
「なるほど、真逆の物同士を合わせると」
「どちらも美味しいとは思いますが、好みは人それぞれですので、両方お出ししました。次は粒をあえて残した物をお試しください」
「うむ。先ずはこれを。おお、同じ味なのに、粒が残っているだけで微かに食感に変化が。それに粒の皮の味も更なる違いを作っておる。美味い!」
通常の粒あんパンを食べた様ですね。
「最期にこれを。おおおおお!!!何と美味な!甘味は強くも、甘ったるくない!吉六郎!もしや、これにも」
「はい。少量の塩を入れております」
「やはり!塩は料理だけでなく甘味作りにも役立つとは。これは塩の増産をさせねばいかんな!
勿論、この小豆も!麦もじゃ!しかし、惜しい事に砂糖を生産するにはどうすれば良いかのう。
これ程美味い物なら、京の口煩い公家や、銭次第で態度をころころ変える商人達も売れると理解して織田家に少しは協力的になるはずなのだがなあ」
「殿、お言葉ですが」
親父と仲良しな丹羽様が何か言う様だけど、何かな?
「次回、南蛮人に会う時に砂糖の元となる物を売ってもらえる様に交渉した方が良いかと。その物を堺の商人達が持っているなら、買いとるも良いかと」
「今の所、それが一番無難か。仕方ない。だが、織田家の領内での捜索も行う!これは領地を持つ全ての家臣も同じくじゃ!」
あれ〜?これ、「甘くて美味い物が食いたいし、商売と交渉のネタにするから、砂糖の元になる物を探せ!」と
言ってるのと同じだよな?
俺がそう思っていると
「吉六郎!此度、お主が作った物全て美味かった!お主の創意工夫、京や堺で銭に変えてくる故、しばし待っておれ」
いつもの殿に戻りました
「それから、紫乃達も連れて帰る事を忘れるでないぞ?久方ぶりの再会じゃ。じっくり話をしてこい」
「ははっ」
こうして俺のプレゼンは好評で終わった。
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