甘味でハードルが上がる
天正元年(1573年)九月十九日
美濃国 岐阜城内にて
「さて、焼きますか」
皆さんおはようございます。今日は殿へのプレゼン2日目で、パンを出す予定です
ただ、久しぶりに親父から直々に訓練を受けて俺は勿論、連れてきた赤備え達もボロボロになってます。
源次郎はガタイで親父に負けてないから、少しはいい勝負になるかと思ったけど、そんな源次郎も僅かに粘っただけで、
同じくボロボロになりました。そんな俺達に親父は
「以前よりほんの少しだけ強くなった様じゃが、まだまだじゃ!更に鍛えておけ!」
と、激励にもダメ出しにも取れる言葉を残して、仕事に戻りました
で、そんなボロボロの状態で源次郎達を連れて、ジャムの材料の野苺探しをやりまして、夏蔦の樹液も回収しまして
パンを焼きながら、ジャム作りも同時進行して、あんこ作りは一時待機です
時間的にジャムが先に出来ましたので、皿に入れて冷やしておきます
そして、パンも完成した様です。今回は、一口サイズのパンを先ずは2つ出します。
1つは小麦の美味さを理解してもらう為にノーマルのパンを、その後にジャムパンを出します
ジャムも適温になりましたので、パンに挟んで、持って行きます
「ほう。今日はパオンを出すか。しかし、吉六郎よ。お主は南蛮人に会った事は無いはずなのに、何故南蛮人の主食のパオンを知っておる?」
「昔、父上が母上に話していたのを聞いてありまして、それを何とか形にしてみました」
(権六の嫁が生きていた頃は吉六郎は二歳か三歳くらいではないか。それを聞いた記憶を頼りに作り上げるとは。
これを戦に使えたらどれ程の武将になるかのう。おっと、今はそれよりも)
「そうか。ところで、片方のパオンは見た事があるが、もう一つは中に赤い物が入っておるが、これは何じゃ?」
「それは食べられる事の出来る木の実を、夏蔦の樹液で甘く煮詰めた物です。領地で家臣達に試食させており、安全性は確認済みです」
「うむ。先ずは通常のパオンを食おう」
殿がじっくりと噛み締めながら、パンを食べると
「これは麦が良いからなのか、以前堺で食った物より美味いな。ほのかに甘みも感じる。吉六郎よ!これは砂糖を使ったのか?」
「いえ。麦と酒粕だけです」
「砂糖も使わずにこの甘み。権六の領地の麦は良い麦なのだろうな。吉六郎!これを南蛮人に食わせて驚かせてやりたい。料理人達に作り方を教えておけ」
「はい」
「さて次は、この中身の入ったパオンを食おう」
そう言って殿はジャムパンを食べた。食べた直後に
「おおお!何という美味さじゃ!麦と木の実の甘みが強いが、酸味のおかげで甘ったるく感じぬ。良い塩梅じゃ。吉六郎!他にもこの様な甘味なパオンはあるのか?」
「はい。ですが今から再度作りますので、お待ちいただく事になりますが」
「構わん!早く準備に取り掛れ!このパオンより更に美味くなる事を期待しておるぞ!」
ハードル上がったけど、あれだけ気に入ったジャムパンをあんパンで超えられるかな?




