幽閉されたる者1
気持ちの悪い感覚だ。素裸で逃げるというものは。特に少女のような体になっていてはより一層気持ちが悪い。不可思議なほどに気持ちが悪い。こう、如何ともしがたい不思議な浮遊感がある。心地よいような悪いような、後ろめたいようなそうでないような。言葉にしがたい何らかの気持ち悪さがある。駆けあってこれほど気持ち悪いと思ったことはほかにない。ととと、と駆ければ、ほかになにか閉じ込められた房あり。思わず駆けよれば、ヴィルヘルミーナ嬢の閉じ込められある。幸いに金切り鋸のあるから、助けやれると信じ、焦らず迅速に鍵の閂を切る。音の出るに冷や汗の増す。
開いた。
戸のきしむ長い音が、飴玉にヒビの伝わるかのごとき神速を持って廊下にこだまする。汗がさらに増す。気持ちが悪い。
飛び込んで気が付いた。人違いだ。しかし今更どうにもならん。ままよ。かくあらばかくとあるべし、概してなるようにしかならず。自棄めいたノリでその戒めを解かんとする。汗に鋸の滑るが、幸いにこの鋸はそういう時ある程度は安全である。程度の問題であるが。戒めの鉄鎖は、いまや音を立てて切れた。このままでは暴露する。戒めの解かれた虜の崩れ落ちるを、おもわず抱き留める。をんなの肉体というのは相互にやわらかで、思わずその感触の良さに驚いた。高校生の時、女子がたわむれに互いに抱き合っていたのは、こういう理由もあるのだろうか。双方素裸であるが故か、相手の肌の細やかさに心が躍る。しかし、それに気を取られるわけにいかず。
相手の顔を叩き目を覚まさせんとす。しかしあまりにも良き顔なり、思わず躊躇すれば、柔に目のうす開くを認めたり。
刹那、口を口にて塞がれた。そこからはまるで躯の内をすべて吸い出されるかと錯覚するほど激しい接吻となり。腰砕けになり、躯に力が入らぬ。
なるほどこれが吸精の恐ろしさの一端か、と思いつつ意識は奈落に落ちぬ。




