ブリーフィング
ぴったりと体形の出る、立体的に裁断されたドレス。ここに来る前に持たされてはいたが、本当に着ることになるとは思っていなかった。こういった裁断はサキュバス達の民芸的に扱われている。外から見る分にはいいのだが、着る側となっては何とも言い難いむずがゆさがある。この服装はなぜだかは知らんが胸元から襟に至るまで前開きのホック止めである。
そうして、さらには、過去に献上品という形で受け取った短剣を手にしている。この短剣はこれまた特別な品で、本来は一人前になった(とみなされる年齢に達しかつ水揚げが終わった)サキュバスがその証として持つモノであるとか。鍔や柄頭の装飾は個々で異なるという淫紋に由来するものだそうだ。手元のこれは親衛隊の軍旗からデザインしたそうだが。
そうして、そういった格好でなんでか肖像を描かれている。昨晩は、起こったことをとりあえず『忘れ』て棚に上げたのだが、それから一転なんだかすごく丁重に扱われているわけである。こういう国だからか。肖像画を描かれながら打ち合わせをしてゆく。こういうこと自体は紙幣の肖像を作るときもやっているが、慣れないものは慣れない。
「そういえばヴィルヘルミーナ嬢、君は探検家としても知られていたな。君の著書は読んだことがある。なかなか興味深いものだ。確か君は最近猟にために銃を買っている。違ったかね?」
「はい。」
「どんな銃なのか、見せてもらえないか。」
それを受けて使用人にとってくるように指示をする彼女。どうでもいいがその態度がいかにも『王子様』然としていて、おもしろい。確か無駄に同種族にもてるとか聞いている。本人が望んでいないのが問題であるとはいうが、外から見る分には面白いだけだ。
そうして持ってこられた銃には驚いた。銃身は白磨きで、銃床は木目の引き立つような艶出し。銃を構えたときに右手がくるグリップには、ヴィルヘルミーナ嬢の短剣と同様な装飾が滑り止めを兼ねて配置されている。左手のくる位置の掘り込みはその装飾とは真逆に、実用本位の親衛隊様式だ。そうして、全体としては、最近採用された山林監護官向けのレバーアクション騎銃となっている。もちろんレバーになっている用心金と一体のハンドガードにもグリップ同様の装飾が施されている。ただ、銃剣だけはつかない。あれは官のものしかつかない決まりである。今回自分が持ってきたのが、ごく普通の官品の山林監護官向け騎銃であるから何とも言い難いものを感じる。ちなみに親衛隊の小銃トライアルではボルトアクションが勝った。
「これか。素晴らしい。いい銃を買ったな。」
「おほめにあずかり、恐悦至極に御座います。」
なんだかいろいろ距離が遠ざかった気がする。いや、もともと近くもなかったのだが。
「でだ、『行く』ときはそれをもって同行してもらえるかね。」
「仰せのままに。」
そこから、当該する組織の話が始まった。それらはここ数日にようやく尻尾が見えてきたこと、それが阿片を資金源にしつつ『活動』していること。『活動』の内容は不明なこと。そうして、売人も売り先もこの地を経由地にしていて街そのものでは商売をしていないこと。で、ここからが難なのだが、もともと独立気風の強いところであるからして内務省の展開がこの地域では遅れており、そのため経由地にされたと思われることである。こればかりは何ともならん。一気に進めて反発されても大事である。内政を固めようとして内戦を起こすのは本末転倒だ。
して、その取引の行われるであろう時間と場所を概ねつかんだというので、決定的な証拠を押さえるべく今夜行動しよう、ということでまとまった。ついでに肖像画が出来上がったら家宝にするとか言い出したので、とりあえずよきに計らうよう言っておいた。




