屋敷3
食事は一人で、ということになったが、これはいくつか理由がある。その大概は『食餌』の内容の都合だ。サキュバスの食餌というものがどのようなものか、といえばだいたい想像はつくだろう。野郎の『ソレ』には興味も食欲もわかないので、これを想定して親衛隊で試験的に供されている『野戦食』というものを持ってきている。とはいえ、用意された食餌は誰かが食さねばならん。そういうことで、ヴィルヘルミーナ嬢の専属で執事をしているエルザ・ミーアシャイトとやらがそれを食べるということで同室している。ちなみにこの屋敷で我が正体を知っているのはヴィルヘルミーナ嬢と目の前の彼女だけである。
そいで、正体を知っているからであろう、特に何も話すともなく、話しかけようとしてもするりとかわされ続けて、正直何とも言えぬ、アレな水音だけが響く部屋の出来上がりである。
『野戦食』は悪くはないがよくもないので、これも如何ともしがたい気分である。まあ本当に野戦の場で腹さえ満たせばよいというコンセプトで、容器に最新の技術が取り入れられている。陶器製の容器に磁器の蓋がパッキンを介して着く殺菌真空容器となっていて、蓋にくぎや銃剣でひびを入れれば真空が解けて開くし、何なら湯煎しても開く。温食も可能ということで『野戦食』のコンセプトは好評ではあるのだが、今のところ作成に協力している業者が少なく、結果としてレパートリーがないのが難点である。つまりは飽きた。
しかし、サキュバスの食事風景というものは全く異質であって、興味深い。今回はどうもかわいらしい少年が供されてきたわけであるが、その少年の役割は多岐にわたる。どうとかこうとかは言わないが。言ったら正気でいられないかも知らん。その風景を見ながらアルコール飲料を飲むのは楽しいものだが。これで燗さえできればなおよいが、それは高望みだ。
ヴィルヘルミーナ嬢がくる前に食器などはことごとく下げてしまい、やることもなく、娯楽も持ち合わせがないどうにもならん時間がいやだ。とはいえエレキテルめいたものをいじって壊すのも怖いので、いろいろ空想を巡らせようとも思うがそうもいかぬ。性懲りもなくエルザ嬢に話しかけてはかわされる。つまらん。
エルザ嬢は見た目として活発そうで、実際小麦色に焼けた肌がきれいだ。髪型というものは全くよくわからんが、ザンギリというには少し整えられている短髪である。体躯は整っているがスレンダーといってよいかはわからん。背は高くない。我が親衛隊の着剣小銃と同じくらいか?服装はまあまさに執事的といえようそれだ。
これはこれで手元に下士官か兵として置いておきたくなるのは自分の趣味が悪いせいだ、危険な収集癖だ。男も女もたとえ種族がどうあろうと全く平等に、健康的で活発なそれをあつめて兵隊にしたくなる病気である。多分私兵を持っているものの中には、自分と同じ病気の者もいるのではなかろうか。
おもちゃの兵隊を並べて遊ぶのが小さい子供、本物の兵隊を並べて遊ぶのが大人である。要するに大人になっても何も変わらないということだ。後者はほんとうに兵隊が死んだりするのが違いといえば違いかな。
そんなエルザ嬢にいっそ触れてみたいと思わんでもない。後の面倒を放れるならば、いや、まあ放ってもいいかもしれんが。そう考えている間に手は、彼女のほほに添えられていて。もういいわい、と開き直ってそのほほをつねってみる。それで一切表情を崩さない彼女は全く優れた精神力を持っているようで思わず笑いそうになる。やはり、下士官あたりで欲しい。きっと適任だろう。手を離すと、その弾力に富む肌はすっともどる。触り心地もよかったし、撫でまわしていたいくらいだ。思わず、指をその口に突っ込んでみる。そして、口腔の中をかき回してみる。楽しい。それでも表情を崩さんようにしているのが可笑しくてとても楽しい。だけどなんかよろしくない絵面だ。いろいろよろしくない。政治的な安全性の観点からして危険だ。誰かに見られたらよっぽど危険だ。
「あの。」
背後から声が聞こえた。
最近活力の不足が目立つので感想があれば何かください
感想以外は要らないので




