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屋敷2

 どうのこうのもなく客間ではなく、身内の部屋に連れてゆかれる。これでもかというような電気の威力を見せつけるような調度品。クリスマスの電飾みたいなのを教えたらきっとさらに過剰になるのだろうなあ、などと思ったところでぞくりとした快感が沸き上がる。まるでこの国を作り変えているような快感。まあ、本当にその中心にいるのだが、中心からは結果しか見えない。過程は報告書のための肥やしでしかない。だからその過程を生で見られるのは、本当に不可思議としか言いようがない。


 二階の正面はヴィルヘルミーナ嬢の姉の部屋だ。二人の姉妹であることは把握していた。たしか、フリートヘルミーナと云ったか?だいぶ前の話だが、会ってはいるのだ、会っては。その部屋の前で、挨拶をする。フリートヘルミーナ嬢には今回の事は聞かせていないらしい。それでわざわざ容姿に関しては、ユーリ・ゾンネベーケ嬢に似せたわけである。というよりもともと似ていたそうであるが。ユーリ嬢は病弱でそもそも本家であるパシェンデール家でもその言動は知られていないようなので誤魔化しようがあるのだ。うれしくはない。


「お姉さま、ただいま帰りました。」


恭しく扉越しに挨拶するヴィルヘルミーナ嬢。部屋の中から帰ってくる言葉はただ一つ。


「おかえり」


それだけである。まあ、そもそも形式だけのものだ。だからこちらも、形だけの挨拶をして、そんでヴィルヘルミーナ嬢に連れられていった。不審がられなければよいが。


 部屋は宿泊客用の部屋だ。決して簡素でなく、しかし豪奢とも言い難い。まさに『調度いい』貴族趣味、というやつだ。

 テーブルタップすら磁期のもので、七宝を駆使した美しい装飾の入っている。これはあえてそこに存在させているのだろう。先から気が付いていたように、電気はステータスシンボルなのだ。そうみれば他にもそういうような調度品がちらほら見受けられる。使用人を呼ぶ呼び鈴が電鈴であったり、エレキテルめいた健康器具らしきものがおいてあったり。まあなんだ。本当に電気に夢を見ているのだ。その夢は果たしてどうなってゆくのか、きっと見届けることはできないだろう。

 荷を下ろす。といっても大したものは持ってきていない。印籠時計にオールインワンな算盤、旅行誌にアルコール飲料。まあそんなものだ。忘れてはならないのが財布と軍の懐中時計。そして『親衛隊の制式拳銃』帝国陸軍の二十六年式同様のもので、構造が単純で確実な銃である。

 まあ。なんだ。やることもないので、この拳銃の分解清掃でもするか。

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